22 名前呼びしてしまった!
「うぅ…また私はとんでもないことを…。ごめんなさい…!!」
映画を見て、昼ごはんを食べて。
ようやく冷静さを取り戻した葵はいつものように頭を下げた。そしてもう流石に慣れてきた百合は当然のように笑って許した。
「大丈夫ですよ。七瀬さんの気持ちは十分わかりましたから」
「そうですか…。うぅ、考えれば考えるほど恥ずかしぃ…っ!!」
両手で顔を隠しながら恥ずかしがる。そんなところもとても可愛いらしいが、そんなことをしているとデートが先に進まないので、百合がデートプランに組み込んでいた場所を指差した。
「あの!あそこ行きませんかっ!!」
「ふぇ…??よ、洋服ですか…??」
「はい…っ!!」
一応彼女もできたわけだし、ちょっと背伸びして洋服でも見ようかと考えていたけど、身の丈に合ってないのかやっぱり緊張してしまう。本当なら今日のデートはこっちが引っ張るぐらいのつもりでいたけど、そんな簡単に上手くいくのなら既に陽キャになってるし。
まあでも今になって考えてみるとこんなオシャレで綺麗な人とのデートで洋服を見に行くなんて、ただ無知を晒してしまうだけになってしまうではないか。
ようやく失敗に気づいた百合であるが、それはもう時既に遅し。完全にやる気になった葵がグッと拳を握って決意を語ってくる。
「今とは違う美しさを持った恋塚さんが見れるってことですか…!?それなら是非行きましょう!!行かせてください!!」
「すごいやる気…。まあその、お手柔らかにお願いします…」
もうこうなったから仕方ないと諦めるのだが、それ以上に気になる点が一つ。
「あと、名前でいいですよ…?」
「え…??」
「その…さっきまで呼んでたじゃないですか…。『百合さん』って…」
「………」
自分で言うの恥ずかしいすぎない!?でもデートしてる時に苗字呼びはなんか変だし…なんかむず痒いし…!!
「私たちも一応恋人なわけですし…?それぐらいのことはするべきなのかなって…」
「………」
終始ポカンとしている葵。しかし直後、顔を真っ赤にしながら小さく名を呼んできた。
「えと、あの…百合….さん…?」
「っ……!!」
破壊力抜群の表情。流石にドキッとしてしまった。
しかしそれを表に出さないよう頑張って抑え込み、平静を装った。
「いい感じです…!じゃあ早速服を見に行きま__」
「私のことは呼んでくれないんですか…?」
「…え」
「私だって好きな人に名前で呼ばれたいです…。百合さんだけずるいです…」
「っ__!?」
また心を打ち抜かれる。もうそろそろどうにかなってしまいそうだ。
(その顔は反則すぎるって…っ!!)
心臓の音が段々うるさくなって、気づけば緊張で頭が回らなくなっていた。
「あ、葵…さん…?」
「呼び捨てでお願いします…」
「え…??じゃあ葵さんも__」
「私はいいですから…!ほら、早く呼んでください…!」
そんな謎理論言われてもなぁ…。
しかし断るに断れず、結局葵の言う通りにした。
「…葵…??」
「っ…!!…これ、すごく胸がドキドキしますね…」
「はい…」
とてもお試しカップルとは思えないぐらいにいちゃついてしまった。もうそろそろ良い感じにあったまってきたし、そろそろデートの続きを__
「あと!!普通にタメ口でお願いします…!!」
「え??まあ私は良いけど…。じゃあ、葵もタメ口でいいよ…?」
「私は昔からこんな感じなのでこのままでいきます」
「そう…?なんか私ばっかりで恥ずかしいんだけど…」
「私だって散々恥ずかしい思いをしたんですから…!!少しは百合さんもドキドキするべきです…!!」
「えぇ…」
それほぼ勝手に自爆して赤面してただけじゃん…。責任を押し付けるのはやめてほしい。
というか一気に色々要求されすぎて頭がこんがらがりそうだ。名前呼びに呼び捨てにタメ口なんて、ここ一週間そうしていたから急に変えれるかが心配だ。彼女の性格的にどれか一つでも元に戻ってしまうと怒りそうだし。
(私これからやっていけるのかな…)
まだ一番不安な時間が残っているのに既にほぼ最高潮レベルで不安になる百合であった。




