18 間接キスをしてしまった!
周りの視線から逃れるために逃げた二人は、気付かぬ間に目的地の映画館に辿り着いていた。
「はぁ…はぁ…ここまで来れば大丈夫かな…」
こんな少し走ったぐらいで息が上がってしまうなんて、我ながら運動不足を痛感する。しかし隣には百合以上にバテバテになっている少女が。
「はぁ…はぁ………はぁぁぁ〜っ…」
何か言いたいようだが、疲れすぎて何も発せない美少女。どうやら葵は体力が皆無らしい。
「あ、あのぉ…はぁ…はぁ゛…」
「だ、大丈夫ですか…?」
なんか顔が強張っている。彼女なりに言葉を搾り出そうとしているのかな?いやとてもそうには見えないけど。
まあでも彼女は割と変なことをする人なので今回もいつもの感じのそれなんだろう。受け入れるのも恋人の役目というものだ。
「あの、もし良かったら水飲みます?私の飲みかけでよければですけど…」
「!!??い、いいんですか…?」
「一応その、恋人ですし…。恥ずかしいより助けたいの方が大きいといいますか…」
謎の庇護欲が出てしまうが、彼女は嬉しそうなのでよしとする。
「ありがとうございますっ…!是非いただきます…!」
「どうぞ…」
目を輝かせながら水を受け取った。そしてすぐさまキャップを開き、早速口に運んだ。
「………」
ただ彼女が水を飲んでいるだけなのになぜかドキドキしてしまう。胸の高鳴りと同時に視線が唇に吸い寄せられ、少しずつ身体が熱くなるのを感じる。
「ふぅ…。走った後の水は美味しいですね」
「そ、ソウデスネ」
「…しちゃいましたね。間接キス…」
「…はい」
「「…………」」
ただ女の子同士で飲み物を共有しただけなのに、心臓の鼓動が収まらない。
(なんか変な気分になって来た…。てか世の中のカップルはみんなこんな気持ち味わってるの…!?これ以上は絶対に耐えられる自信ないんだけど…!?)
お試しとはいえ、二人は一ヶ月間カップルになっている。それはつまり今後はこれ以上にドキドキさせられる展開もあり得るということで、百合はそんな自分の未来について危機感を覚える。
しかし葵は違っていて、顔を真っ赤にしながらも心底楽しそうに言葉をかけてくる。
「いつかはその…ほ、本当のキスも…してみたいですね…♡」
胸に手を当て、もう片方の手で自身の唇を触っている。その仕草は百合をよりドキッとさせ、つい我を忘れて承諾しそうになってしまう。
(いや落ち着け百合…!!まだ私たちは付き合い始めたばかりなんだから…!!そんな簡単にキスなんてしてたら…してたら…!!)
一瞬で恋のABCが終了してしまう気がする。いくら心を許した相手だとしても、やはりそこはある程度関係性を築いてからがいい。まあ出会って数時間で付き合ってしまっているから今更な気はするけど。
(わ、私はそう簡単に落とされたりしないんだからね…!!)
同性との間接キスでこんなにドキドキしている時点で答えは出ている気はするけど。現実から目を逸らしたいのでそこはスルーしていただこう。
というかそんなことよりもこの微妙に話しずらい空気をどうにかしないと。流石にこのまま映画はちょっと嫌なので、少し勇気を出して口を開いてみる。
「えっと…キスもいいですけど、とりあえず映画行きましょうか…?」
「え…?あ__」
ようやく本来の目的を思い出したらしく、両手で顔を隠しながら下を向いた。
「す、すみません…私またやっちゃいました…」
「私は何とも思ってないから大丈夫ですよ…!!」
「何とも思ってくれなかったんですか…」
「あ、いやそのぉ…」
言葉選びを間違えてしまったらしい。しかしここから入れる保険はまだ存在する。
「今のは嘘です…。正直ドキドキしました…」
「!!!」
「でも!!私たちにはまだ早すぎます!!まだお試し期間ですし…!!」
「じゃあお試しが終わって本当に付き合い始めたらキスしてくれるんですか…?」
「え」
その手があったかぁ…。
想定外の言葉が返って来てまた胸が高鳴ってしまうけど、百合もそんなに単純な人間ではないのでちゃんと言葉を返した。
「それは…私たちがちゃんと関係を築いて、キスしてもいいって思えるようになってからです!!」
「(じゃあ今すぐにでも…)」
「何か言いました?」
「いえ、何でもありません」
とりあえず流されなくて良かった。せめて唇はちゃんとした状況まで守り抜きたいから。
そんな妙なこだわりを持つ百合であるが、彼女はハイスピードで様々な初めてを経験することになっていく。




