117 銭湯準備が必要だった!
百合の家でのお泊まりが決まり、さっそく晩御飯で家族たちと死ぬほど仲良くなったところでそれは起こった。
「菫ちゃん、百合と一緒に入る?」
「へ??」
「構わないのでしたら、是非」
「私は全然大丈夫よ。女友達二人仲良く入ってらっしゃい」
「ありがとうございます」
夕食を食べ終えてリビングでダラダラしている時、母の華恋が突拍子もないことを言い出した。まだ具体的なことは言っていないから確定ではないが、おそらくこのタイミングということは…
「じゃあ百合。私と一緒にお風呂に行こうじゃないか」
「やっぱそうですよね!!お風呂ですよねわかってしました!!」
もう三回目だから察してしまっている自分が悔しい。
まあだからといって許可するわけではないけどね!
「でもごめん!!流石にそれは二人に怒られちゃうから…!!」
恋人でもない女の子とお風呂に入るなんて明らかにマズすぎる。
いや普通ならただの微笑ましい友達イベントなんだろうけど。最近女の子に惚れられすぎて警戒心が勝ってしまうようになってきた。
あと変な触り合いっこが始まったら大変だし。
「私だけ仲間外れにするのか…?」
「やっぱり話聞いてるんだ…」
「まあな。ちなみにそういう行為をしたことも聞いている」
「「「__!!??」」」
三姉妹は同時に驚きの表情を示した。
そして母親は頭の上にお怒りマークを添えていた。
「百合…???どういうこと…???」
「いや違うから!?私たち何もしてないって!!」
「隠さなくていいんだぞ?私は全部二人から聞いてるからな」
「しかも二人ともと…???これはお説教が必要みたいね…???」
「本当に違うんだって!!菫も変な言い方しないでよ!!??」
わざわざ誤解を生むような言い方をされると何も知らない母や姉妹たちはちゃんと誤解してしまうため、百合としては絶対にしてほしくない行為だ。
あと多分この人たちは百合の言葉よりも菫の言葉を信じるから余計に。
「はは、すまない。つい反応が面白くてな…(笑)」
「めっちゃ笑ってる!?」
声量こそ控えめだが、小さく腹を抱えながらクスクスと笑っている。
それを見て母たちもようやく誤解だということを理解したようで、安心したように胸を撫で下ろした。
「なんだ冗談かぁ…。は〜焦った焦った」
「すみません。驚かせてしまったみたいで」
「本当よもぉ。菫ちゃんって案外意地悪なところあるのね」
「そうそう。菫はお母さんたちのイメージ通りの良い子じゃないの」
ある程度説明しておいた方が後々楽だし、ここはしっかりと菫という人のことを理解しておいてもらいたい。
「おや、もしかして私悪い女扱いされてるか?」
「うん」
「同性に二股かけてる女が何言ってるのよ」
「世間一般なら間違いなく百合の方が悪女ね」
「百合姉自覚無さすぎ〜」
「………」
いつになっても容赦ない家族たち。
しかしなぜか菫は笑みを浮かべている。
「ふふ。相変わらず仲良しですね」
「そうかな…?私いっつも揶揄われたり貶されたりしてるんだけど?」
「それが面白いんじゃないか。百合はつい虐めたくなる女だからな」
「ドユコト!!??」
まさかそんな評価を受けていたとは思わず、思わず目を見開いた。
しかし意外だと思っていたのは百合だけのようで、家族たちが菫に共感し始めた。
「その気持ちわかるわ〜」
「イジり甲斐があるわよね」
「反応も独特で面白いよね」
「はぁ…??」
人によっては褒め言葉と受け取るかもしれない言葉も、百合にとってはマイナスの意味でしかなかった。
「そんなつもりないのにぃ…」
百合にとってこれは頭を抱えてしまうような問題だ。だからそれなりに強い意志を持って闘ってきたけど、敵も増えてきたことだしそろそろ諦めるべき頃合いなのかもしれない。
「ま、何はともあれ。二人が裸の付き合いで仲を深められることを願ってるわ」
「そうですね。是非百合とは今以上に親密になりたいですから、気合を入れて頑張ります」
「あでも変なことはしたらダメよ?この子には恋人がいるから」
「心得てます。手は出しません」
「手以外は出しそうな物言いね。まあ仲良くしてくれるのならこの子のことは好きにして良いからね」
「はい!」
「勝手に話進めないでヨォ!!」
このままだと絶対に風呂場で揶揄われて顔を真っ赤にしてしまう。
お風呂といういつもより心も身体も丸裸になる場所だからこそ、恥ずかしいところはできるだけ見せたくない。
だから百合は強い意志を持ちつつ、風呂場に足を進めて行った。




