113 危険を感じてしまった!
「まあ心花を愛してやるのもいいが、葵のことを忘れたらダメだぞ?」
楽しく心花との思い出話をしたはいいものの、菫からしっかりと指摘が入ってしまう。
「そりゃもちろん。葵のこと忘れた時なんて一度もないよ」
我ながら少し恥ずかしいことを言っている気もするが、菫を安心させられるならそれでいい。
そんな風に考えていた百合であるが、直後に発言を後悔することになる。
「なるほど。じゃあそんな葵のことが大好きな百合に葵の好きなところを百個ほど教えてもらおうか」
「百!!??さ、流石に多すぎませんかね…?」
「冗談だ。十個で良いから教えてくれ」
「十でも大変なんですけど…」
いきなり大きい数字を言えば妥協させやすいっていうし、これもきっとそうなんだろう。まあ葵の親友である菫からすれば、これぐらいのことを答えられないような女に大事な人を任せられないだろうし、ここはちゃんと考えて答えを導き出すことにする。
「えーっと…まずめちゃくちゃ可愛いところかな…」
「…続けてくれ」
「あ、うん…。あとは…動きが高貴で上品なところとか、性格が穏やかで優しいところとか」
葵と過ごした日々を思い出しながら、彼女の姿を頭に浮かべていく。
「笑顔が可愛くて温かいところとか、いつもお花の良い匂いがするところとか。あ、あとすぐ顔が真っ赤になっちゃうところとか!」
つい夢中になって、葵のことをどんどん語ってしまう。
「たまに暴走して変なこと言っちゃうとこも、恥ずかしがって顔を隠す仕草も、いい感じの雰囲気になったら意外と勇気振り絞るタイプなのも、全部が愛おしいよ」
葵への愛が大きすぎるあまり、何十個も良いところを言ってしまった。
これなら流石に菫も満足だろうと、自信満々に彼女の顔を見た時だった。
「…で?」
「…ん?『で?』ってなに」
「まだ九個しか言ってないぞ?」
「え、本当に…!?」
「ああ。間違いなく」
「そんなぁ…」
頭の中に浮かんできた好きなところは百をゆうに超えていたのに、言葉ではまだ全然言えていなかったらしい。
その事実に絶望した百合はまた彼女のことを考え始め、必死に最後の好きな部分を絞り出す。
「…じゃあ最後に、良いですか」
「どうぞ?」
「私は葵の…一緒にいて安心するところが好きです」
出会ってまだ数ヶ月だが、その間は長い時間彼女と過ごしてきた。
その中で一番感じたのは、いや感じることができなかったと言う方が正しいのかもしれない。共に過ごし、共に笑い合った中で、百合は無自覚に彼女ともっと一緒に居たいと思うようになっていた。
それはごく自然な感情の変化で、本人ですら察知できないほど心に溶け込んでいた。
でも今ちゃんと考えてみて、ようやく気づくことができた。彼女と居れば以前と心が落ち着くこと。そして、隣にいるだけでドキドキが止まらないことに。
「って、自分で言うのもあれだけど、私完全に葵に毒されちゃってるね」
「いいことじゃないか。あんな可愛い子に毒されるなんて、普通じゃない味わえないぞ?」
「そうだね。葵と一緒なら、どこまでも堕落していいって思えるし」
まあ流石にこれは極端な例えだが。
「流石に落ちるのは勘弁してほしいが」
「例えだよ例え。そんな覚悟も勇気も私にはないって」
確かにそうだが、伝えるべきことはちゃんと伝えておく。
「でも、葵とならそうなっても良いって思えるぐらい、葵のことを大好きになっちゃってるみたい」
「そうか。仲間が増えて嬉しいよ」
「…ん??今何か変な言葉が聞こえた気が」
葵に夢中すぎて幻聴でも聞こえてしまったのか。
そんな風に考えていたが、菫は至って真剣そうな目でこちらを見てくる。
「百合もこっち側に来てくれて嬉しいと言ったんだ」
「…え??じゃあもう既に菫は…」
「私の場合百合とは好きのベクトルが違うが、葵となら心中しても良いって思えるぐらいには好いているぞ」
「あれ、全然私より重い」
果たしてこれは親友が抱くべき感情なんだろうか。いや絶対に否だ。流石にこれは激重すぎる。
これにはいつも引かれる側の百合もドン引きで、ついジト目を向けてしまう。
「だから百合…君も一緒に心中しような…??」
「いや待ってそれは流石に__」
ガッツリ手を握られ、逃げ道を塞がれてしまう。
そしてそのまま怖い目の菫が接近してきて、ここにきて人生初の命の危機を感じたのであった。




