110 予定変更されてしまった!
ようやく訪れた夏休み。多くの高校生たちが遊びに出かけたり部活に打ち込んだりする、いわば天国のような時間だ。
それはもちろん百合にとっても同じで、彼女はまだ始まって一週間も経たないうちにいろんな人を家に連れ込んだ。
例えば葵という恋人とか、心花という恋人とか。デート以外の日もなぜか家に上がり込んできて、ゲームしたり映画見たりしてダラダラしているわけだが、今日はいつもとは違う人が家に上がり込んでいた。
「ほぉ、これが百合の部屋か」
「恥ずかしいからあんまりジロジロ見ないでよ…」
「別にそんなに恥ずかしい部屋だとも思わないぞ?普通の女の子の部屋だと思う」
なぜか家にやってきた菫は、部屋を見渡しながら感想を述べ始めた。しかしそれは百合の恥ずかしさを加速させるだけで、咄嗟に彼女をクッションに座らせた。
「と、とりあえずここ座って!お茶持って来る!」
「ああ。ありがとう」
一体どうしてこんなことに…。
遡ること一時間前。事前の通告通り友達二人で遊びに行こうと誘われ、気合を入れて準備をしていた時のこと。突然電話が鳴って驚いた百合は、一瞬スマホをお手玉した後に名前を確認した。
「菫?どうしたんだろう?」
意外な人物からの電話に困惑するが、すぐに電話に出た。
【もしもし。聞こえるかい?】
「あ、うん聞こえるけど。どうしたの?」
【急ですまないんだが、予定を変更できないか?】
「別に良いけど、どうするの?」
割と突拍子もないことを言い出す子なのはわかっていたから急な予定変更には特に驚かず、これから何をするのかを問う。しかしこれが全ての始まりだった。
【百合の家に行ってもいいか?】
「…え?」
衝撃的な発言に脳が停止する。
【聞こえなかったか?今から百合の家に行きたいと__】
「いやちゃんと聞こえてるけど!!何で急に私の家に!?」
友達同士外で楽しく遊べばいいのに、わざわざ予定を変更してまで家にこようとするなんて。もしかして好きなの?そうなのか???
【百合が普段どんなことをして遊んでいるのか知りたくてな。私も百合の趣味に興味があるんだ】
「だからってわざわざ家に来る必要ある…?」
他人の趣味に興味を持つなんて、そんなのもう好きなの確定じゃん。
いや流石にそれは暴論すぎる。葵と心花のせいで基準がバグってしまっているけど、別にこれは友人としては割と普通の行動だ。
【嫌か?】
「別にいいけど…」
【ありがとう。じゃあ一時間後、百合の家で】
「うん…」
同性の友達が家に来て一緒に遊ぶなんて世間なら当たり前のことだ。だからわざわざ身構える必要もないし、恋愛のことを考える必要もない。つまり考え方によっては葵と心花とお家デートするよりも気楽に遊ぶことができるということだ。
なんかそう考えると少しずつ楽しみになってきた。これなら今日を楽しく過ごせそうだ!
というのが一時間前の話。結局菫は家に来て普通にくつろいでいて、百合も気取らずいつも通りに過ごそうと決意する。
「はいお茶」
「ありがとう。ところで百合は普段何をしているんだ?」
「私は基本ゲームしたり映画見たりしてるけど」
「なるほど。ではゲームについて少しばかり教えてもらえるか?実は生まれてこの方ゲームをほとんどしたことがなくてな」
「へぇ、そうなんだ」
まあ見た目通りだなという感想。
彼女の一挙手一投足は全て上品で、良いトコのお嬢様だと言われても全く驚かないぐらいの高貴さを普段から放っていた。だからゲームとかの庶民的な遊びをしたことがなくても全く驚かず、百合は優しい眼差しで彼女に手取り足取り教えてあげることにした。
「じゃあ早速コントローラーの説明からしていくね」
「ああ。よろしく頼む」
こんな感じで二人の一日が始まった。
しかし百合はまだ気づいていなかった。菫がいつもとは全く違う思いでこの家にやって来ているということを。




