102 百合でも問題なかった!
「さて、約束の日になったわけだが、準備はいいかい?」
とうとう約束の日が訪れ、百合たち四人は誰もいない放課後の屋上で大事な話を始める。
「はい…っ!」
「いつでもどうぞ〜」
「………」
二人とお試し期間最後のデートをした後、百合はずっとどうすべきかを考えていた。でも一度も片方を振るという考えには至らなくて、やはり両方のことを好きになっているということに気づいた。
可能ならば二人とお付き合い、という流れにしたいと考えてはいたが、それを彼女たちが受け入れてくれるかはわからない。
だからうまく言葉を出すことができず、その場で立ち尽くしてしまう。
「緊張するか?」
「…うん…」
「気持ちはわかるが、二人のためにもどうか堪えてくれ」
「……」
よく考えてみれば、本来なら葵と心花の方が緊張する場面だ。もしかしたらどちらかが振られるかもしれないのに。まあでもこの前のデートで二人にはちゃんと気持ちを伝えたし、もしかしたら振られないと確信しているのかもしれない。
その場合、緊張しているのは百合だけになってしまうわけで。
(堪えるなんて無理だよぉぉっ…)
流石に心臓のバクバクが止まらない。
しかしこのまま沈黙が長くなるほど緊張は高まってしまうし、とりあえず考えるより先に口を動かすことにする。
「が、頑張るね…」
「声震えてるけど」
「仕方ないですよ。こういう話は緊張するものですから。私も百合さんに告白した時は倒れそうなぐらいドキドキしてましたし」
「っ…確かに言われてみればあたしもそうだった…」
まさか今度はそっち側の立場になってしまうなんて。人生わからないものだ。
「ですから百合さんが緊張するのも無理はありません。まあ私は早く答えを聞きたいですけどね?」
「っ……」
「うっわぁ…あおたそ可愛い顔してエッグいね…」
そんなに急かされても困るけど、待たされている側の気持ちを考えるとなんとなくわからなくもない。
「百合、そろそろ勇気を出せ。私も気になって仕方ないんだ」
「うん…」
「大丈夫だ。百合がどんな結論を導こうと怒ったりする人はいないから」
「…そうだね」
別に振るわけじゃない。よほどのことがない限りは悲しんだり怒ったりすることはないだろう。
「じゃあその、心の準備はいい?」
「はいっ」
「うん」
「ああ」
一度深呼吸。そしてもう一度深呼吸。
できるだけ緊張を取り除き、ようやく気持ちを話す準備が整った。あとは小さな勇気を絞り出し、強張った口を開くだけだ。
「私は…」
「「「………!」」」
「二人と付き合いたいっ!!!」
とうとう言ってしまった。世間なら最低と言われるような発言を、好きな人二人相手にしてしまった。
もう人生終了だ。○されても文句は言えない。
「やっぱりかぁ」
「予想通りですね」
「…え??」
しかし予想に反して、二人は驚きもせずに言葉を受け入れた。
「どうして…?」
「だってアンタみたいな優柔不断女にどっちかを振るなんてことできるわけないでしょ」
「………」
正しすぎて何も言い返せない。流石は幼馴染。百合のことをよくわかっている。
「百合さんはわかりやすい人ですからね。心花さんのことも大好きなのは見ていればわかりましたから」
「そんなにわかりやすいかな…?」
「はい」
「めちゃくちゃな。逆になんでバレてないと思ったのか不思議なぐらいだ」
「………」
そんなに顔に出ていたなんて。流石に恥ずかしすぎて死んでしまいたくなってくる。
しかし彼女らを残して先に逝くわけにはいかず、自分を強く持ってなんとか耐える。
「もういいから早く返事聞かせてヨォ…」
「ふふ、ごめんなさい。少しイジメすぎちゃいましたね」
「まあこれだけふざける余裕がある時点で察してほしいけどね〜」
悪いけどそんな鋭い女じゃないから。言葉にしてくれないとわからない。
そんなことを思っている最中、二人が目を見合わせて悟ったように軽く頷いた。そして同時にこちらを見てきて、パァっと笑みを浮かべながらこちらに言葉をかけてくる。
「あたしはこれからもアンタと歩んでいきたい。幼馴染として、そして恋人として」
「私が始めた恋なので、これぐらいのことは覚悟していました。もちろんこの程度で私の気持ちが揺らぐことはありません。ですので私たちの答えは__」
互いに手を取ってくる。その手を強く握りしめながら、二人は人生最大の決断を下す。
「「喜んで!!」」
長く、そしてとても短かったお試しの恋愛は、うら若き乙女三人を運命で結びつけた。
「…よかったな」
しかしその傍らでもう一つの運命が始まっていたことは、当時の三人には知る由もなかった。




