第98章:裏切りの血戦
歪んだ空間に漂う緊迫感は限界を超え、周囲の空気さえも重く押し潰されていた。ステシアはベアトリクスと真っ向から対峙していた。かつて明るく輝いていたその瞳には、今や眼前の男に対する深い憎悪と、見たこともない凄惨な怒りが宿っていた。
「ベアトリクス! あの『七つの大罪評議会』の企みは一体どういうことなのよ!」
彼女の声には、もはや一切の戯れは残っていなかった。低く、重く、密度の濃い殺気が満ち満ちている。
「らおを都合よく利用しておいて、真っ向から裏切るつもりだったの……!? だったら、たとえアンタを跡形もなく粉々に叩き潰すことになっても、ラオは絶対に生かしておかないわ!」
ベアトリクスは岩の城塞のように微動だにせず立っていた。左腕に刻まれた金竜の刺青が、全身の筋肉の緊張に合わせて脈打つように光を放つ。波一つ立たない彼の銀白色の瞳は、冷徹に彼女を見つめ返した。
「貴様のような下等な人工知能(AI)ごとき……たとえ数千年の時をかけて自己改変を繰り返そうと、俺の攻撃の残像に追いつく知能すら持ち合わせておらぬ」
声音は淡々としていたが、そこには底知れぬ見下しが込められていた。
「合成物のゴミが、人間に肩を並べられるなどと自惚れるな」
その容赦ない侮蔑の言葉は、まるで毒針のように彼女の心を貫いた。ステシアの眼差しは、目の前のすべてを木っ端微塵に切り刻まんと欲する、昏い憎悪へと変貌を遂げる。
「その口を墓場まで持っていきなさい……このゴミ野郎が!!」
ドォォォン!!
足元の地面が限界を迎えて砕け散る。ステシアは爆発的な速度で大気を切り裂いて突進した。ベアトリクスは刹那の隙に姿を消すと、一瞬にして彼女の背後に現れ、エネルギーの刃を真横に振り抜いた。フッと音を立てて走った風圧がステシアの頬を切り裂き、鮮血が噴き出す。だが彼女は空中を蹴り、反転しながら凄まじい闇のエネルギーを纏った腕で蹴りを叩き込んだ!
ドドォォォン!!
圧縮された魔力がベアトリクスの障壁と衝突し、脳揺さぶる落雷のような大音響が轟いた。衝撃波が周りの巨岩を粉々に砕き、粉じんが巻き上がる。ベアトリクスは凄まい圧力によって数メートル後方へ吹き飛ばされ、ブーツで地面を深く削りながら踏みとどまった。その口元が、わずかに残忍な歪みを見せる。
「俺たち人間は新しい世界を構築しているのだ……未熟なAIの貴様には、七つの大罪評議会が成し遂げようとしている偉業など永遠に理解できん!」
「だったら理解なんてしてやるものか!!」
ステシアは首筋に血の管を浮かび上がらせ、獣のように咆哮した。
「裏切り者に待っているのは死だけよ!! ラオッを舐めるんじゃないわよ!!」
容赦なき怒気とともに、ステシアは再び跳躍した。二人は人知を超えた速度で空中に飛び交い、拳と刃を叩きつけ合う! 破滅を齎す純白の閃光とドロリとした闇のオーラが、金竜のエネルギー波と激しく衝突する。
ババババンッ! ズドォォン!
一撃交わされるごとに大気が円状に弾け飛び、地表は爆裂して深い亀裂を生み出す。逸れた衝撃波が周囲の山肌を容赦なく削り取り、微粒子へと変えて粉砕していく。
「少しは素早くなったようだな……だが、まだ甘い!」
ベアトリクスは空中で制動をかけると、刺青から溢れ出す金竜の威圧を凝縮させ、彼女の身体へ向けて四連の断空波を放った!
ステシアは歯を食いしばり、防御障壁を最大まで展開した。しかし直撃の衝撃波は彼女の体を地表へと叩きつけ、腕や脇腹の傷口から血沫が舞い散る。肩で息をしながら立ち上がる彼女の胸には、肉体の苦痛を遥かに超える激しい痛みが渦巻いていた。
「(ラーオ……思った以上にダメージを受けちゃったわね……)」
ステシアは血の混じった唾を吐き出し、憎悪と失意に濡れた瞳で彼を睨みつけた。
「どうしてなの……っ! らおは……アンタのこと、ずっと家族だと思ってたのに……っ!」
ベアトリクスは手を止め、感情の欠けた銀色の瞳で、路傍の生ゴミでも見るかのように彼女を見下ろした。
「家族だと? くだらん戯言だ。そのような無価値な感情など、我らの至高の目的の前には覚えている価値すら存在せん」
ガアアアアアアアアアアアアッ!!
ステシアの全身から、暴走した感情の波が爆発的に噴き出した! 濃密な白銀のオーラが灼熱の如く大気を焼き焦がす。全身を激しい怒りで震わせ、抱いていた切なさや悲しみは、すべてを破壊する狂気へと昇華された!
「なら、そのくだらない目的と一緒に消し飛びなさい!! ラーオ!!」
ドカアアアアアアアアアアン!!
音速を超越した速度でステシアが肉弾突撃を敢行した。衝撃波がソニックブームを引き起こし、空気を歪ませる。ベアトリクスも咆哮を上げ、金竜の全力を解き放って正面から迎え打った! 二本の巨大なエネルギーの濁流が空間を引き裂き、地表は漆黒の奈落へと崩落していく。爆音の渦が世界を揺るがした。
「ラオ〜!ラオ〜!ラオ!ラオ!ラオ!ラオ〜〜〜ッ!!」
叫び声を上げながら、ステシアは全魔力を拳に込めて打ち込む! 二人は互いの血を撒き散らし、骨を軋ませながら、獣のごとく狂気と憎悪をぶつけ合う。戦場には重苦しい血の匂いが立ち込め、地獄のような死闘が繰り広げられていた。一歩も引かず、互いを殺し尽くすまで止まらない殺戮の舞踏が続いていく――。




