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第97章:崩れ去る石の要塞(くずれさるいしのようさい)

岩場の中心に漂う空気は、息が詰まるほどに緊迫していた。「七つの大罪評議会」が放つ闇の力の凄まじい圧力が押し寄せ、まるで心の弱い者の魂をそのまま押し潰そうとしているかのようだった。


「わしらを倒して、簡単にアタナシアスへ入れるとでも思っていたのか?」


黒いローブの男の一人が低く掠れた声で嗤った。彼が手を出しかざすと, その手の上に八角形の黒い魔法陣が浮かび上がり、禍々しい大罪の力が狂暴に渦巻き始める。


「ここで命を落とし、物言わぬ亡骸となるがいい!」


ズドッ……!


漆黒の魔力閃光が、凄まじい速度でミライたちの一行へ向けて放たれた!


「アイリン、レナ、結界を展開しろ!」


ミライが毅然とした声で鋭く命じる。


アイリンは跳躍しながら反射魔法陣を展開し、レナは長刀を振り抜いて鋭いかまいたちを放ち、正面から迎え撃った。そらされた闇の魔導光は隣の断崖に激突し、轟音とともに大爆発を引き起こす。巨大な岩石がガタガタと崩れ落ち、背後の escape ルートを完全に塞いでしまった。


「もう一人は拘束魔法の使い手よ!」


アイリンは地表に着地しながら叫ぶように警告した。


「この岩場全体を封鎖しようとしているわ!」


「シオリ!」


ミライが即座に指示を出した。


「右の男は大罪の鎧を生成している。防御力は高いが動きが鈍い。お前の速さと『徳』の力で、あの防壁を穿て!」


「はい!」


シオリは一瞬の躊躇もなく応じた。


少女は相手に立て直す隙を与えなかった。レナに教わった通り、徳の力を足の裏へと集中させると、嵐に舞う花びらのごとき速さで一気に踏み出した! その速度は初日とは比べものにならないほど跳ね上がっており、掲げた剣身からは清らかな白金のオーラが眩い光を放っている。


右側の黒ローブの男はフードの下でせせらぎのような嘲笑を浮かべた。


「無知な小娘が……この『傲慢の大罪の鎧』が、貴様のような生ぬるい力で打ち破れるはずが――」


言い終わるより早く、シオリは空中での軸移動を完璧にこなし、迫りくる影の爪を優雅にかわしてみせた。そして全身の力を体幹の中心から解き放ち、眩く輝く光の刃を闇の防壁の核へ向けて正確無比に振り下ろした!


パリィン……!


まるで厚いガラスが粉々に砕け散るかのような甲高い音が、谷全体にこだました! シオリの清らかな力が一気に流れ込み、大罪の鎧を浄化しながら一瞬にして霧散させる。胸元の魔術刻印に亀裂が入ると、男は苦痛の悲鳴を上げた。


「馬鹿な……これほどの徳の力だと……? これほど多くの徳を集め、この大罪の力を手に入れたわしが……敗れるというのか……」


男はその場に膝をつき、浄化の反動で全身を激しく震わせた。


時を同じくして、ミライとレナも息の合った連携攻撃で残るもう一人の黒ローブを迅速に鎮圧していた。岩場を覆っていた闇の残滓は、彼らの身体が黒い煙となって消え去ると同時に綺麗に消滅していった。


シオリはすっと背筋を伸ばして身構えを解き、深く息を吐き出した。剣の上の光が自然な速度で静かに収まっていく。彼女は己の力を、真にコントロールできるようになっていた。


「見事だったわ、シオリちゃん」


レナが誇らしげに歩み寄り、彼女の肩をそっと叩いた。


「今の動きには、もう一切の迷いがなかったわね」


「ありがとうございます、レナ様……私、できました」


シオリは晴れやかな笑顔を返した。


アイリンは敵が立っていた場所へ歩み寄り、調査を終えると振り返って通信端末を掲げた。端末の信号ランプが再び青く輝いている。


「第三の谷を塞いでいた遮断結界が消えたわ! これで本部のネットワークと魔法信号がつながるようになります!」


ミライは目前に開けた峡谷の出口を見つめた。夕陽が西の山々を黄金色に染め上げている。


「進むぞ……この峡谷を抜ければ、アタナシアスと私たちの本部が待っている!」


     *


第三の谷の出口を抜け出た瞬間、雄大な雪原と眼前に広がる山脈が、夕暮れの茜色と黄金色に染め上げられていた。澄み切った冷たい風が頬を撫で、峡谷を満たしていた大罪の不快な気配は跡形もなく消え去っていた。


そこに広がっていたのは――「アタナシアス」。


古代の巨大な要塞群が眠る土地だった。幾千もの険しい山々が遥か彼方まで複雑に連なり、いくつもの峰の上には古代の魔導塔や重厚な城塞構造が、気高く荘厳な姿で刻み込まれている。


「ついたのね……ここが、アタナシアス……」


シオリは目の前に広がる圧倒的な光景に目を奪われ、小さく呟いた。


「ええ、そうよ」


アイリンは微笑みながら、中央に聳え立つ群峰を指さした。


「中央のあの重なり合う険しい峰々が見えるかしら? あそこが私たちの『影なき月』のメインベースがある『千峰の谷』よ」


アイリンの手にある魔法通信機がピコンと軽い音を立て、眩しい青い光を放った。本部から直接、応答の魔法通信が届いたのだ。


「身元確認の応答が来ました、ミライさん」


アイリンが報告する。


「前線の要塞にいる受信チームから、基地への受け入れ準備が整ったと連絡が入っています」


レナは疲労の色が見えるシオリへ向き直ると、その腕をやさしく撫でた。


「お疲れ様、シオリちゃん。今日は激しい戦闘も長旅もあったけれど、本部へ着けば、ようやく本当に安全な場所で休むことができるわ」


「ありがとうございます、レナ様」


シオリは温かい笑みを返した。


「でも、皆さんが私を教え、守ってくださったおかげで、ここまで来ることができました」


ミライは静かだが毅然とした足取りで、先頭に立って丘を下り始めた。


「行くぞ。アタナシアスが完全に闇に包まれる前に……。本部へ着けば、七つの大罪評議会のデータ分析や、お前の身体に眠る秘密の解明など、やるべきことが山ほどあるからな」

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