↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/102

第93章 : 静かな夜の誓い

反響の谷は深い夜の闇に包まれていた。天幕の外の空気は凍てつくように冷たく、息を吐くたびに白い息が立ち上る。冷風が松の葉を激しく揺らし、時折微かな擦過音を響かせている。焚き火は火力を落とし、赤く燃える炭だけが周囲を仄かに照らし出していた。


野営地の中では、長旅と一日中続いた重圧から解放され、疲労困憊したしおりとアイリンがすでに深い眠りについていた。少女の規則正しい寝息は、心に抱えていた恐怖がようやく和らぎ、安らぎを得たことを物語っている。


焚き火から少し離れた岩場の脇では、ミライが一人、冷たい夜風の中で静かに佇んでいた。片手には七つの大罪評議会が放った呪符の投げ矢を持ち、月明かりの下でそれをじっと見つめている。その瞳には、重く深い思案の色が反射していた。


カサッ……カサッ……。


微かな足音が近づいてきた。ふわりと厚く柔らかな外套が、慎重な手つきでミライの肩へと掛けられる。どこか懐かしい、野花のようなかすかな香りが鼻をくすぐり、彼の顔に浮かんでいた緊張を瞬時に解きほぐした。


「こんな冷たい風を浴びていたら、風邪を引いてしまいますよ、ミライ様」


レナが柔らかい声でそう言いながら、彼の隣に歩み寄った。ミライはちらりと視線を向け、かつての冷酷さが嘘のように消え去った、暗殺者の美しい横顔を見つめた。


「まだ起きていたのか、レナ?」ミライは彼女が掛けてくれた外套を身に引き寄せながら尋ねた。


「ミライ様がまだ天幕に戻られていないのが見えましたから……。それに、何を考えていらっしゃるのかも分かります」レナは彼の手の中にある投げ矢に視線を移し、その美しい瞳に心配の色を浮かべた。「七つの大罪評議会のこと……そして、しおりちゃんのことですよね?」


ミライは少しの間沈黙し、手を下ろして小さくため息をついた。「ああ……。奴らの力は尋常ではない。これほど早くしおりちゃんの存在を突き止めたということは、奴らの情報網は僕たちが予想していた以上に広く張り巡らされているということだ。それに、奴らの真の目的はただ力を奪うだけではないかもしれない……」


レナはそっと手を伸ばし、投げ矢を持つミライの手を柔らかく包み込んだ。彼女の手のひらから伝わる温もりが、夜の凍てつく空気を越えて染み渡ってくる。ミライはほんの少し肩を揺らし、そして彼女の手を優しく握り返した。


「私の過去は、暗闇と憎しみに沈んでいました」レナは彼をじっと見つめながら言った。「けれどミライ様が……あなたのその言葉と、この手が私を暗闇から引きずり出してくれたおかげで、私は平穏というものを知ることができた。しおりちゃんや、アイリン姉様に出会うことができた……。あなたが私に与えてくれたこの世界は、誰にも壊させないほど大切なものなのです」


ミライはレナをじっと見つめ返した。いつもは無感情な瞳に、かすかに温かな笑みが浮かぶ。「僕は何も与えてなんかいないさ、レナ……。君自身が、自分の足で踏み出すことを選んだんだ」


「それでも、あなたが私に『守るために生きたい』と思わせてくれた理由なのです」レナは真剣な声で言いながらも、月明かりに照らされた頬をほんのりと赤らめた。「立ち塞がる敵が『七つの大罪評議会』であろうと誰であろうと……私はいつもあなたの側にいます。あなたがかつて私の希望の光になってくれたように、私はあなたの剣となり、盾となります」


ミライは空いたもう片方の手を伸ばし、彼女の頬にそっと触れた。細い指先で、冷たい風に揺れる髪をそっと払い除ける。


「ありがとう、レナ……」彼は優しい声で言った。「けれど覚えておいてくれ。君はもう、すべてを一人で抱え込む必要なんてないんだ。僕たちは一緒に乗り越えていく……僕も、君も、しおりちゃんも、アイリンも」


レナは深く感動したように微笑んだ。温かい彼の手のひらに頬をすり寄せるように少し顔を傾け、心底愛おしそうに小さく頷いた。


頬に触れるミライの温もりが、レナの心の奥底に隠されていた深い感情に火を点けたかのようだった。夜の谷の静寂と肌を刺すような冷気が、その複雑で切実な想いをさらに掻き立てていく。


レナは頬をすり寄せるだけでなく、自分の両手でミライの手をしっかりと握りしめた。月明かりの下で、彼女の美しい瞳が彼と交差する。かつて強靭な暗殺者だったその眼差しには、今や隠しきれない揺らぎと、切実な渇望が宿っていた。


「ミライ様……」彼女の声は微かだったが、静寂の中ではっきりと響いた。「レナはもう……ただのあなたの剣や盾でいるだけでは満足できないのです……。どうか、今回だけ……一度だけでいいですから……私、セラフィナのことがとても羨ましかった。私が最初の女になりたかったのに」


ミライはハッと動きを止めた。深い色の瞳で彼女の目を覗き込み、その視線に込められた意味を完璧に読み取る。「レナ……」


「あの激闘の時から……私が命を落としかけた時から……いいえ、あなたが初めて私を助け出してくれたその瞬間から、私の心の中にただ一つはっきりとあった真実は、もうあなたとの間にどんな秘密も、どんな距離も置きたくないということ」レナは彼に向かってさらに一歩近づき、二人の胸が触れ合いそうなほど距離を縮めた。彼女特有の柔らかい香りがミライの鼻をくすぐり、彼を魅了する。「レナはあなたが欲しいのです……。一人の男としての、あなたを」


レナの心の底からの真っ直ぐな願いが、ミライの理性のタガを外した。彼は言葉では答えず、腕を伸ばして彼女の細い腰を強く引き寄せた。レナの体をピタリと密着させ、二人の心臓が同じ激しい鼓動を打ち始める。


「僕だって……君を他の誰かに渡すつもりなんて、もう微塵もないよ」ミライは彼女の耳元で囁いた。その声はわずかに低く、かすれていた。


レナは彼の首に腕を回して引き寄せ、二人の唇が長く、深く重なり合った。温かく甘やかな初めての口づけは、やがて切実で情熱的な求め合いへと変わっていく。レナの体はミライの腕の中でとろけるように熱を帯びた。小さく細い手が彼の背中からうなじへと撫で上がり、彼の力強い抱擁に全身全霊で応える。


唇越しに伝わる熱が、冷たい夜風を完全に溶かして消し去った。二人は天幕から少し離れた大木の陰で、深い感情を分かち合った。それは、男女の絆として、友情と愛情をこれまで以上に強く織り成す特別な時間だった。


情熱的で甘いひとときがゆっくりと落ち着きを取り戻すと、ミライは静かに唇を離した。二人の額は合わさったままで、暗闇の中で温かい息遣いが混じり合う。


レナは小さく微笑んだ。頬は美しく紅潮し、その瞳は願いが叶った喜びに甘く潤んでいる。「ありがとうございます……ミライ様」


「馬鹿だな……お礼なんて言う必要ないさ」ミライは愛おしそうに親指で彼女の唇をそっと拭った。「もう天幕に戻って休むといい。今夜はとても冷えるから」


「はい……」レナは素直に頷いた。別れの印としてもう一度彼の頬に軽く口づけを落とすと、ゆっくりと体を離し、心も体も満たされた軽やかな足取りで天幕へと戻っていった。


ミライは、レナの背中が天幕の中に消えていくまで見送っていた。そして、深く息を吐き出すと、口元に微かな微笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。