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第91章 : 二日目

一行は早朝から出発した。最初の山のふもとへと道が標高を上げていくにつれ、空気は次第に冷え込み始めた。木々は密集して生え揃う針葉樹へと姿を変えていく。


「今日はここから道が険しくなるぞ」先頭を歩くミライが一行に注意を促した。「山岳地帯の魔物にも気をつけろ」


しおりは慎重に後へ続き、時折腰に下げた剣の柄に手を触れて確かめた。


午前半ば頃、先頭を歩いていたレナが不意に足を止め、全員に止まるよう片手を上げて合図した。


「前方に何かいます」彼女は囁き、道の脇の鬱蒼とした茂みへと視線を鋭く向けた。


ミライはその方向へ目を細めた。「血の匂いだ」彼は低い声で言った。「何かがさっき獲物を仕留めたばかりらしい」


突然、茂みから咆哮が轟き、熊よりも巨大な異形の獣が飛び出してきた。漆黒の毛並みに全身を覆われ、鋭く尖った牙を剥き出しにして威嚇の唸り声を上げている。


「巨大なウルフェンですわ!」アイリンが叫んで警告し、後ろへ下がりながら鞘から剣を抜き放った。


しおりも即座に飛び退き、剣を構えた。しかし、その獣から放たれる力は、彼女が以前戦ったスライムとは比べ物にならないほど強大だと肌で感じ取っていた。


ミライは躊躇うことなく前へ進み出た。「僕がやる。君たちは下がっていろ」


彼はしおりがこれまで目にしたことのない次元の速度でウルフェンへと突進した。彼が振るう剣は、ほんの一瞬で獣の首を斬り裂いた。鮮血が吹き出し、巨体は命を失って地面に倒れ伏す。そして、ただの黒い粘液の塊へと変わっていった。


「終わったよ」ミライは剣の血振りをして言った。


しおりは、たった今目の当たりにした速度と力に呆然と立ち尽くしていた。(これが『月無き影の組織』の人たちの実力なのね……って、あれはスライムだったの!?……いやいや、どうして私が驚いているのよ。スライムは自由に姿を変えられるんだから)


ウルフェンを討伐した後、一行はさらに警戒を強めて歩みを進めた。道は次第に急勾配になっていく。


「あんなスライムのウルフェンは、たくさんいるんですか?」歩きながらしおりが尋ねた。


「普段はこれほど多くはないはずだが」ミライは考え込むような顔つきで答えた。「最近、野生の獣が異常に凶暴化しているという報告があってね。この一帯の属性魔力の乱れが関係しているのかもしれない」


小さな谷を半ばまで進んだ時、前方から怒声が響いた。灰色の外套を羽織った荒くれ者たちの集団が姿を現し、立ち塞がる。


「そこで止まれ!」頭目らしき男が短剣を突きつけて叫んだ。「金目の物を置いていけば、命だけは助けてやる」


アイリンはくすくすと笑った。「ただの山賊さんたちですの?」


「自分たちが誰を相手にしているのか分かってねえようだな!」山賊の一人が怒鳴り、襲いかかってきた。


レナがふわりと前へ歩み出た。彼女の刀が目にも留まらぬ速さで閃くと、瞬きする間に山賊の集団は全員地面に倒れ伏していた。誰一人として重傷は負っておらず、ただ戦闘不能にされただけである。


「ごめんなさいね」彼女は刀を鞘に納めながら言った。「私たち、こういうことに時間を割いている暇はないの」


しおりはその光景に圧倒されていた。レナの速さと熟練の技は、彼女がこれまで見てきたどの戦いよりも……あのアイリスとの死闘の時でさえも……遥かに凌駕していた。賞賛の念と、自分自身の弱さへの痛感が入り混じる。


二日目の野営地を設営すると、焚き火の周りはその日に起きた出来事の話題で持ちきりとなった。


「今日は本当に疲れましたわ」アイリンが手足を伸ばしながら言った。「ウルフェンに山賊まで現れるなんて」


「これ以上悪いことが起きなかっただけでもマシさ」ミライが応じる。


レナは考え込んでいるしおりの隣に腰を下ろした。「どうしたの? 何か考え事かしら」


しおりは顔を上げた。「ただ、自分が皆さんに比べてどれほど弱いかと思い知らされて……」彼女は素直に認めた。「今日一日を見て、それがはっきりと分かりました」


レナは理解を示すように微笑んだ。「誰だって、最初は弱いところから始まるものよ。私たちも皆、その道を通り抜けてきたのだから」


「もし興味があるなら、この旅の間に私たちと一緒に少し特訓してみる?」レナが提案した。


しおりは驚いて彼女を見つめた。「本当にいいんですか?」


「もちろんよ」レナは満面の笑みを浮かべた。「強くなればなるほど、将来自分自身を助ける力になるわ。これから先、あなたがどのような道を選ぶにしてもね」


「ありがとうございます」彼女は小さな声で言った。「それなら、私、やってみたいです」


近くで聞いていたミライも賛同して頷いた。「いつでも歓迎するよ。学ぶ意欲のある者が増えるのは良いことだ」


焚き火の火が弱まり始めると、全員がそれぞれの天幕へと引き揚げていった。しおりは幕の天井を見つめながら横たわり、昨夜とはまた違う、新たな感情を胸に抱いていた。

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