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第90章 : 一日目

一行は夜明けとともに出発した。ミライが手に地図を持って先頭に立ち、中央を進むアイリンの手の魔術通信機は時折メッセージを送り続けている。レナとしおりは隊列の最後尾を歩いていた。


「こういう長旅はよくあることなのですか?」


長距離の移動に体を慣らそうと努めながら、しおりが尋ねた。


「ええ、それなりに」レナは笑みを浮かべて答えた。「組織の任務で世界のあらゆる場所へ赴きますから、もっと遠くへ行くこともありますよ」


しおりは一行のペースに合わせようと足取りを整えた。これほどの長旅に耐えうる体力はまだ戻りきっていなかったが、あまり疲れを表に出さないよう耐えていた。


「疲れていませんか?」


額に浮かぶ汗の粒に気づき、レナが心配そうに声をかける。


「なんとか大丈夫です」


息が少し上がり始めていたが、しおりはそう答えた。


日が十分に高く昇った頃、ミライは小さな小川のほとりで休憩を命じた。全員が腰を下ろし、水を飲み、軽い食事をとって体を休める。


「最初の谷にはあと何日で着きますか?」


水筒から水を飲みながら、しおりが尋ねた。


「およそあと二日だ」地図を広げ直し、ミライが答える。「予定通りに進めば、だがね」


昼の休憩を終え、一行は深さを増す森の中を進み続けた。鬱蒼と茂る大木が陽の光を遮り、周囲の空気は次第に薄暗く沈んでいく。


突然、アイリンが足を止めた。通信機を耳元にかざしている。


「返信が届きましたわ」


全員が足を止め、言葉を待った。


「北方の連絡員からの報告によりますと、二週間ほど前、ヴェレンコート王国の近くで謎の集団が目撃されたそうです」アイリンはメッセージを読み上げる。「全員が黒い制服を纏い、胸元には『七』の数字の紋章が刺繍されていたとのことです」


ミライが真剣な面持ちで尋ねる。「より詳細な情報はあるかい?」


「まだそれほど多くはありませんわ。ただ、彼らは『原初の罪の所持者』に関する情報を探っている様子だったそうです」


その言葉を聞き、しおりはかすかに肩を跳ねさせた。原初の罪の所持者——彼女の脳裏に、すぐさまリーゼロッテとアイリスの姿が浮かび上がる。しかし、今それを口にすべきかどうか迷いがあった。


「彼らが体内に罪を宿す者を追っている可能性は高いでしょうか?」


しおりの表情の変化に気づき、レナが問いかけた。


「可能性は極めて高いね」ミライが応じる。「そうなると、しおりちゃんの持っている情報は思った以上に価値があるかもしれない」


重みを増した静寂の中、一行は再び歩みを進めた。それぞれが新たにもたらされた情報について思案を巡らせている。


再び隊列の最後尾を歩きながら、しおりの思考はリーゼロッテとアイリスの存在をどこまで明かすべきかという問いの間を巡っていた。


(もし七つの大罪評議会が本当にあのような人たちを追っているのだとしたら……)彼女は心の中で呟いた。(この件は、私が考えていたよりも遥かに重大なことなのかもしれない)


日が沈み始めると、ミライは一日目の野営地を設営するよう命じた。小さな天幕の囲いの中央に、焚き火が起こされる。


全員で火を囲み、夕食をとった。午後の情報がもたらした緊張感は、温かい食事とともに少しずつ解きほぐされていく。


「明日もう一日歩けば、最初の谷に着く」


食べ物を口に運びながらミライが言った。


「しおりさん」夕食の最中、アイリンが静かに声をかけた。「差し支えなければ、一つお聞きしても宜しいかしら?」


しおりは少し身を構えながら視線を向けた。「はい、どうぞ」


「あなたが遭遇したという『野望の罪』と『忠義の罪』を持つ者たちですが」アイリンは慎重に尋ねた。「彼らはどれほど危険な存在でしたの?」


しおりはしばし言葉を失い、目の前で揺らめく炎を見つめた。


「とても危険です」やがて、彼女は答えた。「一人は周囲の人間の思考を支配し、もう一人は肉体的な痛みを感じません。そして二人とも、何の罪悪感もなく人を手にかけることができます」


それを聞いたアイリンの表情が険しさを増す。「聞くだけで恐ろしいお話ですわね」


「はい……」


しおりは小さく答え、無意識のうちに手を強く握りしめた。


ミライはその反応を見逃さなかったが、それ以上問い詰めることはしなかった。「教えてくれてありがとう」と彼は言った。「そうした情報は、今後の備えにおいて非常に重要だ」


しおりは小さく頷き、それ以上は何も語らなかった。アイリスの記憶と、あの村での出来事が再び胸の奥で疼き始めていた。


夕食が終わり、全員がそれぞれの天幕へ引き揚げていった。割り当てられた小さな天幕の中に横たわり、しおりは風に揺れる天幕の天井をぼんやりと見つめた。


(一日目が終わったのだわ……)


心の中でそう呟くと、身体を包む心地よい疲労感が、彼女をゆっくりと深い眠りへと誘っていった。

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