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第89章 : 七つの大罪評議会

「荷物を整えておけ」


ミライは重厚な声で命じた。


「明日の明け方、準備が整い次第、本拠地へ向けて出発する」


近くで休んでいたアイリンが顔を上げた。「西の彼方にある、あの本拠地のことですの?」


「そうだ」ミライは深く頷いた。「今回の道のりは決して短くない。可能な限り慎重に旅程を組む必要がある」


彼は古い木製の机の上に古びた地図を広げた。細い指先が、鬱蒼とした森と幾つもの山脈を縫うように走る曲折した道を辿っていく。


「このルートは三つの谷を越えることになり、およそ十日の日程を費やすことになる」ミライは説明を続けた。「遠回りにはなるが、教会の領地を横断するショートカットを選び取るよりは遥かに安全だ」


傍らで腕を組みながら観察していたレナも、同意の意を示して頷いた。「先頃の激闘を終えたばかりの私達には、余計な混乱を引き起こしてまで突き進むだけの余力は残されていませんものね」


「私も同感だ」ミライが言葉を添える。「何よりも全員の安全を最優先とする」


取り決めが済むと、ミライは丁寧に地図を畳んで元の場所へと収めた。そしてアイリンと視線を交わす。「もう一つ件がある。道中、お前には事前に重要な指示を広めておいてもらいたい」


「どのような件でしょうか?」アイリンは首を少し傾げて尋ねた。


「七つの大罪評議会だ」ミライはその名を口にすると、声のトーンを一層真剣なものへと引き締めた。「興ったばかりで、お前が手がかりを得たばかりの謎の組織のことだ。奴らに関して、現時点で我々が手にしている情報はあまりにも少なすぎる」


アイリンはすぐさま背筋を伸ばし、その瞳に懸念の色を宿した。「正直に申し上げますと、七つの大罪評議会という名は、極めて組織的かつ体系化された構造を感じさせますわ。一般的な盗賊団や烏合の衆とは一線を画しております。もしかすると、叡智の神に直接繋がる存在なのかもしれません。古の伝承によれば、ソフィアは傲慢と過剰な自尊心を抱え、傲慢の罪を含めたすべての罪を呑み込んだとされていますわ。まさに最も完成された『罪の器』と呼ぶにふさわしい存在です」


「それこそが最大懸念の種だ」ミライは痛切に眉をひそめた。「我々が分析した情報から察するに、奴らの真の目的はソフィアの復活にあるのかもしれない。そしてそれが果たされた時、奴らはそのすべての力を奪い取って己のものとするだろう。成功しようが失敗に終わろうが、もたらされる結末は双方にとっての破滅に他ならない」


「それは、私や教会の人間が用いていたような『罪の特性』と同種のものなのですか?」かつて直面した異様な力を思い起こし、レナが耐えかねて尋ねた。


「その点はまだ判然としない」ミライはありのままに答えた。「同系統の力かもしれないし、全く異なる極性の力である可能性もある。だからこそ、人を遣わして事の真相を正確に突き止める必要があるのだ」


彼は再びアイリンへと向き直った。「各所に配置された我々の連絡網へ指示を出し、構成員のリスト、拠点の位置、そして真の目的を探らせてくれ」


「承知いたしました。ただちに取りかかりますわ」アイリンは承諾し、暗号化された報せを送るべく小型の魔導通信機を取り出した。


その間、しおりは対話の輪から少し離れた場所で静かに佇んでいた。あらゆる言葉に真剣に耳を傾けつつも、口を挟むことはしなかった。自分はただ偶然旅を共にすることになった部外者に過ぎず、この集団の本当の一員ではないという感覚が拭えずにいたからだ。


しかし、胸の奥底では、かつて苦痛と共に直面せざるを得なかった「野望の罪」と「忠義の罪」という言葉が渦巻いていた。


(もし、私が遭遇したものと繋がっているのだとしたら……)


彼女は意を決して立ち上がった。一瞬の逡巡の後、慎重な足取りでミライたちの輪へと近づいていく。


「あの……すみません」彼女が静かに声をかけると、全員の視線が一斉に注がれた。「私、似たような形で『罪』という言葉を聞いたことがあります。もしかすると、この件に関係しているのかもしれません」


ミライは興味深そうな眼差しを向けた。「詳しく話を聞かせてくれるかい?」


しおりは少し躊躇いを見せたが、やがて口を開いた。「自らの力を『野望の罪』と称する者たちと、もう一人『忠義の罪』と呼ぶ者がいました。二人とも常人離れした恐ろしい能力を有していて、私たちが使う通常の魔法とは全く異なっていました」


アイリンは文字を刻んでいた指を止め、警戒感を露わにしてしおりを見上げた。「その者たちが誰なのか、あるいはどのような名で呼ばれていたのか、お分かりになりますの?」


しおりはしばらく絶句した。自分の本名やリーゼロッテの件を、今この場で明かすべきではないと判断したのだ。「私……今その名を明かすべきなのか、まだ確信が持てないのです。私の個人的な事柄にも深く関わっておりまして」


ミライは理解を示し、彼女の葛藤を尊重するように頷いた。「無理に話す必要はないよ。胸にしまっておくといい。だが、いつか話してもいいと思える日が来たら、僕たちはいつでも耳を傾ける準備ができている」


「ありがとうございます」しおりは儚い微笑みを浮かべ、追及されなかったことに安堵の息をついた。


レナもまた友好的な笑みを向けた。「今話してくれた情報だけでも十分に価値がありますよ。少なくとも、そのような力を宿した人間が実在し、それも一人にとどまらないという確証が得られましたから」


話が一段落すると、一行は明日の長旅に備えて荷物の整理へと取りかかり始めた。しおりもまた、いつもの静けさを保ちながら、手分けして天幕や道具の片付けを手伝った。


(もしかすると……私が持っている情報も、本当に彼らの役に立つのかもしれない)


心の中で静かに思った。胸の内に新しい感情が芽生える。行き場もなく当てどなく従うだけの漂流者ではなく、自分もまたこのグループの中に居場所を持ち、価値ある存在になれるのかもしれないという予感が。


ミライは最後に全員の準備状態と滞りがないかを点検し、休息を取らせるべく最終的な指示を発した。


「これからの十日間は、間違いなく険しい道のりになる」彼は皆に向けて告げた。


「だが、何としても一刻も早く本拠地へ辿り着かねばならない。先月の戦いによる傷を癒やすため、そして迫り来る七つの大罪評議会という脅威に備えるために」


全員がその言葉に力強く頷き、命令を受け入れた。

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