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第9章:歳月の彼方

九歳


歳月は、二度と戻らぬ川の流れのようにただ淡々と流れ去っていった。劇的な事件が起きるわけでもない、平穏な日々の積み重ね。しかし、その静かな夜々の連なりこそが、確実に、そして決定的な変化を二人の少女にもたらしていった。


副宮において、イゼキエルがセラフィナのもとを訪れる頻度はますます高くなり、今や事前の約束もなく週に二度は姿を見せるようになっていた。セラフィナもまた、誰に言われるでもなく、兄がやってくる特有の気配と呼吸を自然と察知できるようになっていた。彼女の剣技の進歩は凄まじく、今やイゼキエルが手加減を捨て、全力で集中しなければ受け流せないほどの領域に達していた。さらに兄は、本宮の専属師範から叩き込まれた高度な宮廷剣術の理論や技術を、何一つ隠すことなくそのまま彼女へと伝授していった。


セラフィナの私室には、すでに読み終えた百冊を超える書物が整然と並んでいた。あまりの量に、彼女はドークに頼んで特製の木製本棚をもう一段増設してもらったほどだ。そして少女は、自らの手で新しい手帳に日々の記録を綴りはじめていた。その手帳は、母の遺した日記帳のすぐ隣に静かに並べられた。毎日書くわけではなかったが、白かったページは徐々に、密やかな文字の連なりによって厚みを増していった。


一方、華やかな本宮では、セネスティアが年を追うごとに恐るべき速度で諸学を吸収していた。彼女の膨大な魔力量と制御の才はすでに一人の手におえるレベルを超えており、主任マイスターは他の一流魔術師に協力を要請し、二人がかりで講義にあたらねばならなかった。少女の予定表は、魔術、音楽、宮廷マナー、言語学、さらには歴史や帝王学にいたるまで、息をのむほど過密に詰め込まれ、休息のための時間は完全に削ぎ落とされていた。


皇帝が彼女を召し出す回数も増えていた。しかし、それは親子の情愛を交わすためではなく、ただ「成果の検分」を行うためだった。毎回、セネスティアは全力を尽くして魔力を披露し、毎回、父はただ無言で小さく頷くだけでその場を去った。称賛もなく、さりとて叱責もない。その息の詰まるような沈黙が何を意味しているのか、九歳の少女にはもう、正しく読み解くことができなくなっていた。


そしてモウェンは、愛娘の顔から生来のみずみずしい笑顔が、日を追うごとに消え失せていくのを胸を痛めながら見つめていた。


十歳


セラフィナが十歳を迎えた頃、十五歳になったイゼキエルは、皇太子としての地位がいよいよ公のものとなり、国政の最高評議会に頻繁に駆り出されるようになっていた。当然、彼が副宮の妹に割ける時間は義務と責任の重さゆえに減少していった。しかし、彼はわずかな合間を縫って彼女のもとへ駆けつけるたび、評議会で交わされた国家の最高機密や、貴族たちの醜い権力闘争の裏側を包み隠さず話して聞かせた。セラフィナは、彼が予想していたよりも遥かに真剣な眼差しで、その退屈な政治の話に耳を傾けていた。


「なぜ、お前はこれほど熱心に国政の話を聞きたがるんだ?」


ある日、イゼキエルは不思議に思って尋ねた。


「これらはすべて、お兄様の『未来』に直結する物語だからです」


セラフィナは迷いなく答えた。


「今のうちから私がこれらを深く理解しておけば、いつか来るその日に、少しはお兄様の力になれるかもしれませんから」


イゼキエルは目の前の妹を、ここ数年で最も深い色を帯びた目で見つめた。幼少期の単なる哀れみや好奇心から始まった関係は、今や誰よりも強固な「絶対の信頼」へと昇華していた。彼は自らの胸の内を、他の誰よりも——それこそ、もう一人の妹であるカリスティエにさえ見せたことのない深部まで、彼女にだけは明かすようになっていた。


同じ頃、本宮の結界の内側で、十歳になったセネスティアは初めて公式の国家式典へと臨んでいた。彼女が身にまとった豪華な礼服は恐ろしく重く、息をすることすら窮屈だった。美しく結い上げられ、一分の隙もなく固定された髪は、頭皮に絶え間ない鈍痛を与え続けている。少女は皇帝の傍らにただ人形のように直立し、次々と押し寄せる貴族たちからの、中身の伴わないお世辞と祝辞を延々と受け続けねばならなかった。その大半は、名前も顔も一致しない者たちだった。


「セネスティア皇女殿下も、実に見事にご成長あそばされた。その身に宿す魔力は当代随一とか。まさに陛下のご血統を引く、真の至宝であらせられる」


一人の老貴族が、揉み手をしながら言った。


セネスティアは、幼い頃から完璧に叩き込まれた通りの、非の打ち所のない美しい微笑を浮かべた。


「……恐れ入ります」


彼女は夜が更けるまで、何百回も同じ動作を繰り返した。微笑み、感謝の言葉を述べ、ただ気高く佇む。ようやく深夜に自らの寝室へと帰還した時、少女の顔の筋肉は強張った笑みのせいで完全に麻痺していた。それは、一日中魔力の訓練を続けた時よりも、遥かに身体を芯から疲弊させるものだった。


モウェンがそっと近づき、娘の身体から眩いばかりの宝石や装飾品を、一つずつ丁寧に外していった。


「……とても疲れたでしょう、我が子よ」


モウェンは痛切なまでの労りを込めて、低く囁いた。


「ええ、とても……」


セネスティアは、普段よりも弱々しい声で応じた。


「でも、このような場を心から楽しんでいる大人たちを前にして、私が不満を漏らすことなんて許されないのでしょうね」


「……あなたがしなければならないすべてのことに対して、無理に幸福を感じる必要なんてないのよ、セネスティア」


セネスティアは、鏡越しに母親の目をじっと見つめ返した。


「でも……それでも私は、このまま首をうなだれて、言われた通りに歩み続けなければならないのでしょう?」


モウェンはすぐに答えることができなかった。装飾品を外すその白い手が、一瞬だけ痛ましく宙で止まる。


「……そうね、我が子よ」


やがて、モウェンはそう絞り出した。その声は、セネスティアがこれまでの人生で一度も聞いたことがないほどに、か細く、絶望に掠れていた。


亀裂


しかし、どれほど完璧に隠された秘密であっても、崩壊の兆しは常に最も些細な綻びから始まるものである。


本宮に仕える若き近衛の侍従「レン」は、ここ数ヶ月の間、ある奇妙な違和感を抱き続けていた。皇太子イゼキエル殿下が、ほぼ毎週のように、決まった時間になると必ず皇宮の南翼、あの人通りの途絶えた荒涼とした回廊へと向かわれるのだ。当初、レンはそれほど深く考えていなかった。殿下が一人になって静かに読書でもするための、お気に入りの隠れ家があるのだろうと、その程度に思っていた。


しかし、時間の経過とともに、その小さな違和感は不穏な澱(おり)のように彼の胸の奥で膨らんでいった。


そしてある日、レンはついに一線を越え、殿下の足跡を気づかれぬよう密かに追跡した。距離を慎重に保ちながら辿り着いた先は、皇宮の禁忌とも言える「副宮」の境界だった。若い侍従は錆びついた鉄柵の影に身を潜め、格子戸の僅かな隙間から中を覗き込んだ。


そこで、彼は見てしまったのだ。


皇太子イゼキエルが、一人の見知らぬ少女と、庭の真ん中で木剣を交わしている光景を。


二人の空気は、あまりにも自然で、深く通じ合っているように見えた。それは決して、偶然通りかかって言葉を交わしたような浅い関係ではない。長い、本当に長い歳月をかけて培われ、互いの魂に深く根を下ろした「絆」そのものだった。


レンはその少女の顔を知らなかった。そして当然、彼は「セラフィナ皇女」の姿を一度も見事たことがなかった。なぜなら、その少女がこの世に生を受けて間もなく、本宮の人間で彼女の存在を公に口にする者は完全に消え去っていたからだ。


レンは音を立てぬよう、慎重にその場から足を引き算った。彼の脳内は、今目撃したあまりにも衝撃的な光景への動揺と困惑で、激しく狂いそうになっていた。


三日三晩、激しい葛藤の末に、レンは自らの直属の上司である筆頭侍従長へこの事実を報告することを決意した。彼の行動は、決して皇太子への悪意や陰謀によるものではなかった。むしろ、未来の君主たる皇太子の不審な動向をすべて把握し、報告することこそが、己の絶対的な「忠誠」であり義務であると信じたがゆえの選択だった。


筆頭侍従長は、若者の告発を、恐ろしいほどの静寂を保ったまま最後まで聞き終えた。


「……お前は、その少女が『セラフィナ皇女殿下』であると、間違いなく確信しているのだな?」


「私の口から百度の確証を申し上げることはできません。しかし、少女の年齢は合致しており、何よりあの閉ざされた副宮に暮らしている以上……他に該当する者は存在いたしません」


筆頭侍従長はこめかみに手を当て、長い間、深く思考を巡らせた。


「……これほどの事態だ。私の一存で握りつぶすわけにはいかん。陛下へ直接、上奏せねばなるまい」


彼はついに重い口を開いた。


「しかし、報告の際は、一言一句の言葉選びに細心の注意を払え。命がいくつあっても足りんぞ」


静寂に包まれた皇帝の個人執務室。


皇帝は、筆頭侍従長がもたらした報告を、ただ一人で黙って聞いていた。部屋には彼ら二人の他に誰もいない。皇帝は微動だにせず、その表情には一片の動揺も、怒りも浮かんでいなかった。しかし、長年彼に影のように仕え、その冷徹な本質を知り尽くしている筆頭侍従長にとって、この極限の「沈黙」こそが、最悪の嵐の前に吹く不穏な凪であることを誰よりも理解していた。


「……その動き、いつから始まった?」


やがて、皇帝の低く冷たい声が室内に響いた。


「正確な始まりの時期を特定することは不可能でございます。しかし、近衛の観察によれば、この回廊の移動は極めて組織的かつ定期的であり、すでに数年単位の長い時間にわたって行われていたものと推測されます」


「他に、この事実を知る者は?」


「報告を上げた近衛のレン、そして不肖この私の、二人のみでございます」


皇帝は再び、長い沈黙に沈んだ。執務机の上に置かれた彼の大きな手が、ほんの一瞬だけ、骨が白くなるほどに固く握りしめられ、そして何事もなかったかのように、ゆっくりと開かれた。


「……これ以上、誰一人としてこの件を口外することを禁ずる」


皇帝は静かに、しかし絶対的な威厳をもって命じた。


「この件は……私が自ら、片を付ける」


筆頭侍従長は深く頭を垂れ、主君の命をその魂に刻み込むと、気配を消すようにして静かに部屋を退室した。


主が去った後も、皇帝はただ一人、夜の闇が降りる執務室に取り残されていた。彼の冷徹な視線は、窓の向こう、はるか遠くの暗闇の中に沈む、南翼の回廊とその先にある閉ざされた宮殿の方向を、じっと見据えていた。

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