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第10章:忍び寄る影

春の訪れを感じさせるある朝のことだった。セラフィナはいつものように目を覚まし、洗面を済ませ、身支度を整えると、日常通りヘレンとともに朝食をとるために食卓へ向かった。


だがその日、すべてはひどく異質な空気を孕んでいた。


セラフィナが皿の上の食事を半分も口にしないうちに、ヘレンは手にしていたスプーンをゆっくりと置いた。前触れもなく、静かに彼女は告げた。


「……今日から午後の時間帯に、私たちの副宮を守るために新しい人員が配属されることになりました、皇女殿下」


セラフィナは皿から顔を上げた。「新しい人……ですか?」


「はい。警備の兵が二名、この副宮の警護体制を強化するために派遣されます」


「どうして、急に人を増やす必要があるのでしょうか」


ヘレンはわずかに言葉を溜め、思案した。「……私にも理由は分かりかねます。本宮から直接の命令でして。ただ、警備をより強固にしたいとだけ伝えられました」


セラフィナは乳母の顔をじっと見つめ、それから手元の食事へと視線を落とした。彼女はこれまで、副宮の運営にどれだけの人間が必要で、なぜ今になって変更があったのかなど、深く考えたことはなかった。


「……それが決定事項なら、良いことなのでしょうね」


少女はそう答えて、再び食事へと戻った。


ヘレンはそれ以上何も言わなかったが、窓の外へと向けられた彼女の瞳は、いつもよりもずっと静かで、深すぎるほどの不安の色を湛えていた。


その日の午後、二名の兵士が副宮に到着した。


彼らは庭園の門の前に陣取り、非常に規律正しく、厳格な態度で任務に当たった。一人は年配で世慣れた雰囲気があり、もう一人は若々しく精悍な面構えをしていた。彼らが身に纏う濃い色の軍服は、セラフィナが今まで副宮の生活で一度も見たことのない、本宮の人間だけが着る特別な制服だった。


「これより、命により警備を任されます」


年配の兵士がヘレンに頭を下げた。「門および敷地周辺の巡回を、規定通りに行わせていただきます」


ヘレンは短く頷いた。「……お気遣いなく」


セラフィナはその状況を少し離れた場所から眺めていた。兵たちがフェンスに沿って歩き回り、小さな手帳に何かを書き留めている姿を。


彼女は恐怖や焦りを感じたわけではなかった。ただ、ずっと静寂と孤独の内にあったこの副宮に、突然多くの他人の足音が響き始めたことに、形容しがたい違和感を覚えていた。


翌週、イゼキエルがいつものように訪ねてきた。しかし、彼は門の前に立つ兵士たちの姿を認めた瞬間、足取りを止めた。


すぐには中に入らず、しばらく距離を置いて様子を窺っていた。兵士たちは皇太子である彼を認めると、深々と頭を下げ、道を開けた。


「……あの兵たちは、いつからそこにいる」


庭に入るなり、イゼキエルは声を潜めてセラフィナに尋ねた。


「先週からですよ」


「誰が送った?」


「ヘレンは、本宮からの直接の命令だと言っていました」


イゼキエルは視線を門の方へと戻し、鋭く目を細めた。その表情のわずかな変化を、セラフィナは見逃さなかった。何らかの感情が彼の脳裏を駆け巡ったことは明らかだったが、それがどのようなものか、彼女には言葉にできなかった。


「……誰がこの指示を出したのか、検討はつくのですか?」


「知らない」


イゼキエルは即答した。……あまりにも早すぎる否定に、違和感が残った。


セラフィナは黙って兄を見つめ返した。それ以上追求はしなかったが、その日の剣術の訓練中、イゼキエルが過去に例のないほど心ここにあらずで、何度も集中を欠いていたことは明らかだった。


一方、宮殿の奥深くにいるセネスティアは、副宮で起きている警備増員の出来事など、知る由もなかった。誰も彼女に教える者はなく、この宮殿の中に「副宮」などという場所があることすら、彼女は知らなかったのだから。


しかし、唯一彼女が肌で感じていたのは、皇帝の雰囲気が以前よりもさらに重く、冷徹になっていたことだ。


それは先日の祝典の後から顕著だった。普段ならば、陛下は報告を聞いて即座に断を下すのだが、最近は長い間深い思索に沈み込み、言葉を返すまでに異常なほどの時間を要するようになっていた。


「お父様は、どこか具合でも悪いのでしょうか」


ある日、廊下で偶然すれ違ったイゼキエルに、彼女は尋ねた。


イゼキエルは一瞬、足を止めた。「……なぜ、いきなりそんなことを聞く」


「だって、最近のお父様は、いつもよりずっと無口で……」


「評議会で考えるべき問題が山積みなんだろう」


イゼキエルは淡々と言った。あまりに平坦な言い草に、かえって不自然さが際立った。


セネスティアは兄の顔を覗き込んだ。疑念があったわけではない。ただ、その答えがあまりにも用意されていた台詞のように聞こえ、違和感を覚えただけだった。


「お兄様……何か、私に隠していることや、知っていることがあるのですか?」


「何も知らない。……仕事に戻る」


イゼキエルは語気を強めると、それ以上の問い詰めを許さぬように、早足でその場を去っていった。


セネスティアは兄の背中を見送った。言葉にできないモヤモヤが心に降り積もるが、彼女はそれを振るい落として、ただ頷いた。


マイスターもまた、セネスティアの変化を察知していた。


「今日の君は、まるで集中できていないな」


石を三度も地面に落とした彼女に対し、マイスターが苦言を呈した。


「……申し訳ありません」


「何か心に引っかかっていることがあるのか?」


セネスティアは沈黙した。「いいえ、特に……ただ、最近の宮殿の空気が、どうもひどく奇妙に思えてならなくて」


「奇妙、とは?」


「分かりません。お父様はいつもよりずっと陰鬱だし、お兄様も何かを必死に隠しているような……」


マイスターは静かにその言葉を受け止めた。


「……気のせいかもしれないわね。私が考えすぎているだけかもしれない」


セネスティアは自分自身を言い聞かせるように呟いた。


「そうかもしれないね」マイスターは石を拾い上げ、配置し直した。「だが、今は自分の集中力に集中したほうがいい。それが君のすべきことだ」


セネスティアは頷き、再び集中を取り戻そうと努めた。しかし、胸の奥で渦巻く得体の知れない不安は、消え去ることはなかった。


二週間が経ち、門番の兵は二名から四名へと増員された。


彼らは日常の風景に溶け込んでいたが、彼らの存在そのものが、副宮という場所を確実に変えていた。


ある午後、セラフィナは庭の端で、一人の兵士が門を見つめながら何やら手帳に細かく記しているのを見かけた。


「何を書き留めているのですか?」


好奇心に勝てず、彼女は話しかけた。


兵士は驚いたように肩を揺らしたが、すぐに礼儀正しい笑顔を作った。


「……門を通過する人々の、出入りの記録でございます。本宮から定められた警備規定でして」


「出入りの……誰の記録ですか?」


「この場所へ立ち入る、すべての人物でございます」


セラフィナは理解したふりをして頷いた。しかし、その時彼女は確信した。この男の答えは合理的で完璧だったが、その声の調子と、隠しきれない緊張感が、彼がすべてを話していないことを物語っていた。


彼女は何も追及せず、ただ背を向けて庭へ戻った。


その日の夕方、イゼキエルがやってきた時、彼は門の兵士と何やら言い争うように長い間立ち話をしていた。兵士が短く何かを告げ、それに対するイゼキエルの返答を聞いた瞬間、セラフィナの背筋に冷たいものが走った。


それは、彼女が兄から聞いたことのない、氷のように冷たく、絶対的な権威と断固とした決意に満ちた声色だった。


彼が庭に入ってきた時、その表情はいつものような安らぎを宿してはいなかった。


「……何か、あったのですか?」


セラフィナが恐る恐る尋ねると、彼は短く答えた。


「何でもない」


彼は剣を取り、黙々と練習を始めた。二人の間に流れる静寂は、かつての心地よい沈黙とは似ても似つかない、重苦しい謎のヴェールに覆われたような沈黙だった。


「言いたくなければ、言わなくてもいいです」


セラフィナは剣の音を止めて言った。


「でも、何かが始まっているということだけは、私にも分かります」


イゼキエルは動きを止め、長い間、妹の瞳をじっと見つめ返した。


「……俺にも、何が起きているのか完全には分からないんだ」


彼は絞り出すように言った。


「ただ、これからは……もっと、警戒して生きろ」


「……何に対してですか?」


彼は、答えなかった。


静寂に包まれた皇帝の執務室。


皇帝は、毎週送られてくる副宮の詳細な報告書を、淡々と読み耽っていた。


誰がいつ門を通過したのか、イゼキエルがいつ到着し、何時に帰ったのか。その滞在時間は何分か。


彼は一切の感情をその表情に漏らすことなく、ただ報告書のすべての行を目に焼き付けていた。


筆頭侍従長が、皇帝の執務机の前に佇んで待機している。


「陛下……今後のご命令を」


皇帝は報告書を机の上に置くと、長い間、思考の海に沈んだ。


「……今のところは、何も動くな」


皇帝は最終的に、冷徹に命じた。


「増員したまま、監視だけを継続しろ」


「……皇太子殿下については、どのように対応いたしましょうか。直接お呼び出しして……」


皇帝は再び沈黙した。彼は窓の外へ視線をやり、暗闇に飲み込まれたあの南の翼、閉ざされた宮殿の方向をじっと見つめていた。


「……まだ、その時ではない」


筆頭侍従長は深く頭を垂れ、退室した。


主が去ったあとも、皇帝はただ一人、闇の中で座っていた。机の上の報告書に置かれたその手は、まるで何かを握りつぶすように、微動だにしなかった。

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