第83章 : お茶目な運命の歯車
西の森が誰にも知られぬ影の戦場と化した夜の暗闇の下、影の近衛兵と黒衣の集団との対峙は、静かならぬ激しさを伴って展開された。
かつて暗殺術を誇っていた影の近衛兵たちは、より強力で謎に包まれた黒衣の者たちの手によって、無惨にも足止めされ、完全に制圧された。レナとアイリンが率いる部隊は、一人として逃がすことなく、すべての影の近衛兵のグループを徹底的に排除した。
しかし、その混乱と粛清のさなか……。
「しおりの秘められた力も、帝国の王座も……最終的にはすべて私のものとなる」
純白の法衣を纏った聖なる神官は、離れた大木の頂からその一部始終を見下ろしていた。彼の深淵な瞳は影たちの激突を静かに見つめており、国王の影の近衛兵に手を差し伸べる気配など微塵もなかった。
「影の近衛兵たちよ……私の計画のための生贄となるがいい」聖なる神官は小さく呟いた。その口元には、底知れぬ企みに満ちた笑みが浮かんでいる。
「愚かな国王め。教会がお前と真の同盟を結ぶはずがなかろう。私たちの真の目的は、絶対的な権力を手に入れ、人間の限界を超えた力の秘密を解き明かすこと……。この状況を利用するには絶好の機会だ」
聖なる神官は手のひらを広げた。濃密な銀色の魔力が手のひらの周りに凝縮され、やがて目に見えない小さな波動となって放たれた。それは数十キロメートル離れた、ゾエディア帝国の支配下にある隣国の方角へと飛んでいく。
「この密告のサインにより……隣国は帝国の脆さと、あの『無敗の城塞』の再臨を知ることになる」聖なる神官は喉の奥で低く笑った。「奴らがこの機会を見過ごすはずがない」
聖なる神官は、しおりの木造の小屋が隠されている暗闇の方角をじっと見つめた。その顔には、野心に満ちた冷酷な笑みがはっきりと浮かんでいた。周到な計画の歯車はすでに回り始めており、もはや誰にも止めることはできないのだ!
「愚かで野蛮な帝国をミライとその謎の勢力と衝突させ、互いに消耗させる……。そして両者が極限まで弱り切ったところで、教会が介入し、すべてを一挙に手中に収めるのだ!」
王宮の荘厳な謁見の間には、今にも雷鳴が轟きそうな緊張感が漂っていた。国王は分厚い木製のデスクを力任せに叩きつけ、大きな亀裂を走らせた。
「全隊と連絡が途絶えただと!?」低く威圧的な怒号が広間に響き渡る。「十数年かけて鍛え上げた影の近衛兵部隊が……警告の警報一つ残さず、一夜にして消走したというのか!?」
軍の参謀や総司令官たちは恐れおののき、額に汗を浮かべて膝まずいていた。国王は歯をギリギリと食いしばり、瞳には激しい怒りと、ついに切れ落ちた忍耐の糸が映っていた。彼はこの恐ろしい業を、ライアンただ一人の仕業だと即座に確信した。
「命令を下す!」国王は絶対的な全権を宣言した。「近衛魔術師団、および四つの重装甲師団を出動させよ! 西の森を全方位から包囲するのだ! 法を犯した者を匿う道を選んだというのなら、あの森ごと奴らを叩き潰してしまえ!」
切り替わり、深い森の木造小屋。早朝。
朝の光が木窓から差し込み、まぶたを照らす。しおりはゆっくりと目を覚まし、不思議な静けさに包まれていることに気づいた。鳥のさえずりと風に揺れる葉の音が、昨日のピリピリとした緊張感などまるでなかったかのように、穏やかな空気を作り出している。
彼女が小屋のテラスへ足を踏み出すと、そこには見慣れた短い髪と、いつもの薬師の服を着たライアンの姿があった。彼は丸太に腰掛け、薬草のお茶を煮出しているところだった。彼女の姿を認めると、すぐさま温かな笑みを向けた。
「おはようございます、しおりさん……。ちょうど温かいお茶が淹れ上がったところですよ」
しおりはお茶のカップを受け取り、彼の顔をじっと観察した。ライアンは毎日のように明るく自然に振る舞っていたが、彼女の瞳は、彼の目元に浮かぶかすかな疲労の色と薄いクマを見逃さなかった。
「ライアンさん……」しおりは心配そうに尋ねた。「夕べ……ちゃんと眠れましたか? なんだか少し疲れているように見えますけれど……」
ライアンは一瞬動きを止め、それから頭をかきながら苦笑いをして誤魔化した。「あはは……実は昨日の夜、村の人たちのための痒み止めの薬草をすり潰すのに夢中になってしまいましてね。もしまた兵士たちが戻ってきた時に、村人の薬が足りなくなったら困りますから……。心配するようなことじゃないですよ」
しおりは暫く彼を見つめた。胸の内に小さな違和感を覚えつつも、静かに頷いて手元のお茶に口を付けた。
しおりが治療器具の準備のために小屋の中へと戻ると、ミライの感覚器官だけに触れる微かな波動が脳裏で跳ねた。「アイリン」からの魔術通信が、真剣なトーンで彼の頭の中に響く。
『ミライ……情報筋からの報告によると、隣国が国境付近で部隊を動かし始めたわ。あの聖なる神官が暗号サインを送った目論見通りね』
ミライはそっとカップを置いた。顔に浮かんでいた温かな微笑みは消え去り、代わりに冷徹で深淵な瞳が露わになる。
(奴らに動かしておけ……)ミライは念話で静かに返答した。(聖なる神官は帝国と隣国の両方を捨て駒にして、自分の道を切り開くつもりだろう……。ならばこちらは盤面を変え、奴自身を追い詰める罠にしてやるまでだ)
ミライは西の空を見上げた。聖なる神官と国王の手を裏で引き抜く計画は、すでに頭の中で組み上がっていた。そして今回……彼はこのゲームをこれ以上長引かせるつもりはなかった。




