第80章 : 振り返り
しおりは、昨夜から心の中に渦巻いている考え事に苛まれながら目を覚ました。彼女は体を起こし、いつものようにライアンの朝食の準備を手伝うために足を踏み出した。しかし、二人の間に流れる静寂は、昨日までとは違う、どこか重苦しい空気を孕んでいた。
「昨日の午後のことを、まだ考えているんですか?」湯気の立つ粥を一緒に食べている最中、ライアンが口を開いた。
「ええ……」しおりは隠すことなく、素直に答えた。「一晩中、そのことばかり考えてしまって」
「それで……何か答えは出ましたか?」ライアンは急かすこともなく、いつもの落ち着いた低い声で尋ねた。
しおりは小さく首を横に振った。「まだ、はっきりとは分かりません……でも、自分の考えが二つの道に分かれていることには気づきました」
「どんな道ですか?」
彼女は少しの間沈黙し、考えをまとめてから説明し始めた。「一つ目の道は……このままここに留まること。このような素朴で穏やかな生活を送り、過去や、自分でも理解できないあの謎の力と向き合うのを避ける道です」
「では、もう一つの道は?」
「答えを探しに踏み出すことです……」彼女は声を潜めて答えた。「あの力が一体何なのか、どうして生まれたのか、そして私がそれとどう向き合えばいいのかを」
ライアンは真剣に耳を傾け、話を遮って自分の意見を押し付けるようなことはしなかった。「どちらの道にも、それぞれの理由と重みがありますね」
「はい……」しおりも同意した。「でも一番の問題は、今の自分がどちらの道に進む覚悟ができているのか、全く分からないということなんです」
彼女は視線を落とし、半分残った粥の椀を見つめた。「もしこのままここに留まることを選べば、一生答えを知ることはないでしょう……でも、もし踏み出すことを選べば、そこで何に直面することになるのか、全く予想もつかないんです」
「あなたは、どちらの方が怖いですか?」ライアンは単刀直入に尋ねた。「一生無知のままでいることと……踏み出した先で待ち受けているかもしれないものに立ち向かうこと、そのどちらが」
しおりは長い間、言葉を失って立ちすくんだ。そのあまりにも真っ直ぐな問いは、彼女が思っていた以上に、自分の心の奥底を深く見つめ直すことを強いたのだ。
「私……どちらも怖いんです」彼女はついに答えた。その声は微かに震えていた。「自分自身のことが永遠に分からないままなのも怖い……でも、もし理解できたとしても、今よりもっと残酷な真実に直面しなければならないかもしれないと思うと、それも恐ろしいんです」
「前に溢れ出した、あの赤いオーラの力のように……」彼女は言葉を続け、検査の儀式での惨劇や、死闘を思い返した。「すごく恐ろしかった。あの圧倒的な力も、それが流れ込んできた時の感覚も……まるで、私ではない何か危険なものが、私の理性を食い破って支配しようとしているみたいで」
ライアンは静かに座って耳を傾け、彼女が心の内の恐怖をすべて吐き出すのに任せた。
「もし答えを探しに踏み出して……その力が、到底制御しきれないほど危険なものだと分かったら、どうすればいいんでしょうか」彼女は問いかけた。目の前の彼に何か特別な解決策を期待しているわけではなく、ただ胸の中に渦巻く恐怖を声に出して確かめたかっただけなのだろう。
ライアンは少し考えてから答えた。「僕自身、大魔法に関する深い知識はそれほど持ち合わせていませんが……」彼は謙虚な態度で話し始めた。「あなたがここで暮らしているのを見ていて気づいたことがあります。その力が溢れ出すのは、あなたが最も深い絶望に沈んだ時だけであって……怒りに駆られた時や、誰かを傷つけようと悪意を抱いた時ではないですよね」
しおりは顔を上げ、驚きと関心の入り混じった眼差しで彼を見つめた。
「もしかすると……それ自体が歪んだ危険な力というわけではないのかもしれません」彼は続けた。「それはただ、体が耐えきれないほどの激しい痛みから身を守るための、防衛反応に過ぎないのではないでしょうか。もしあなたが、その痛みとうまく向き合い、対処する方法を学べば……その力は、あなたが思っているほど恐ろしいものではなくなるかもしれませんよ」
しおりは長い間沈黙し、その言葉を静かに噛み締めた。それは今まで考えたこともなかった、全く新しい視点だった。これまで彼女は、あの赤い力を自分とは切り離された異物であり、恐れ、抑えつけなければならない邪悪な敵だとばかり思っていたのだ。
(でも、もしそれが自分自身の魂の一部で……傷や痛みに反応しているだけのものだとしたら?)
「もしかしたら……あなたの言う通りかもしれませんね」彼女は小さく呟いた。「でも、私にはまだ分からないんです……その痛みに、どうやって対処すればいいのか」
「誰だって、すぐに答えを悟れるわけじゃありませんよ」ライアンは答えた。「時間が必要なんです……あなたがこの一ヶ月間、ゆっくりと癒やされ、回復してきたのと同じようにね」
しおりはゆっくりと頷いた。どちらの道を選ぶか、まだ明確な決断を下せたわけではないが、それでも自分の思考の向かう先が、少しずつ形を持ち、輪郭を帯びてきたように感じられた。
「私、思うんです……」彼女は頭の中の論理を確かめるように、一言ずつゆっくりと口にした。「今はまだ、踏み出す準備はできていないかもしれない……けれど、一生ここに留まったまま生きるのも嫌なんです」
「それなら、今すぐどちらか一方の道を急いで選ぶ必要なんてないじゃないですか」ライアンは提案した。「今ある時間をゆっくり使って、体と心を十分に強く回復させてから……もう一度決断しても、決して遅くはありませんよ」
昼食後、しおりは一人で村の周辺を散歩に出かけた。将来の道についての考えはまだ頭の中を巡っていたが、以前の夜のように、心を苛むほど重苦しいものではなくなっていた。
村のそばにある小さな野花の咲く野原を歩きながら、彼女は立ち止まり、風に揺れる色とりどりの花々を見つめた。そして、この世界に足を踏み入れた最初の日、目を覚ましたあの花畑のことを思い返していた。
(あの時……私は新しい人生を始められるんだって、そう思っていた……)
彼女は心の中で考えた。今も……その思いは変わらない。ただ、それをどんな形で始めればいいのかが、まだ分からないだけなのだ。
花畑の中心に腰を下ろし、頭上に広がる澄み切った青空を見上げる。恐怖や迷いはまだそこにあるけれど、昔のように心を押し潰し、粉々に打ち砕くほどの勢いで襲いかかってくることはもうなかった。彼女はただ、流れる時間に身を委ねた。
「今はまだ、急いで決断しなくてもいいんだ……」
彼女は自分自身に言い聞かせるように呟き、ライアンがくれた諭すような言葉を心の中で反芻した。焦らずに、少しずつ時間をかけて前へ進んでいけばいい……そうすれば、答えは自然と明確になっていくはずだから。
彼女は日が傾き始めるまで、草花に囲まれながら風を浴びて座っていた。その心は、今朝よりもずっと穏やかで、ずっと軽くなっていた。




