第76章 : 森の中の抵抗
午前の静寂は、三十人近い帝国軍兵士たちの重く規則的な足音によって破られた。光沢のある鉄の鎧に身を包んだ彼らは、整然と山を登ってくる。鋭い眼光を放つ大柄な騎士が率いるその部隊の目的は、「高位治癒魔法使い」を力ずくで連れ戻し、反逆する村人たちを根絶やしにすることだった。
しかし、彼らが小屋の周囲の森に足を踏み入れた瞬間、しおりの描いた魔方陣からの警報が彼女の手のひらで震えた。要所に潜んでいたしおり、ライアン、そして村人たちは、互いに目配せをして役割を確認し合う。
「来ましたね……」ライアンは木製の弓を強く握り締め、声を潜めて言った。「作戦を忘れないでください。正面からぶつかってはいけません。森と罠を利用するんです」
帝国軍が細い山道に差し掛かった時、大木の上に潜んでいた猟師が、ライアンの作った木製の仕掛けを即座に引いた!
バサッ!
強い痒みと幻覚作用を引き起こす薬草の粉末がたっぷり詰まった大きな麻袋が枝から落下し、兵士たちの輪の真ん中で破裂した。しおりが微かな風の魔法で煽ると、淡い黄色の粉末は風に乗って瞬く間に広がっていく。
「なんだこの煙は!?」一人の兵士が叫んだ。彼の目は焼け付くように痛み、皮膚は激しい痒みに襲われ始めていた。
「隊列を崩すな! ただの村人の罠だ——」部隊を率いる騎士が言い終わる前に、別の仕掛けが発動した。しおりとライアンが協力して調合した強力な睡眠薬の粉末が放出され、兵士たちの感覚と視界を奪い、方向感覚を失わせていく。
村人や猟師たちは地の利を活かし、暗がりからクロスボウを放ち、奇襲をかけた。接近戦に持ち込むことなく、この強大な軍隊を大混乱に陥れる。しおりは支援魔法を駆使し、村人たちの些細なかすり傷を治癒しながら、警報の結界を通して敵の位置を絶えず知らせていた。
「くそったれ! こんな森のふざけた毒や、下等な村人どもごときが帝国軍を止められるとでも思っているのか!」騎士は麻痺の感覚を気力でねじ伏せ、鋼の剣を振り回して煙を切り裂き、狂ったように木造の小屋へと真っ直ぐに突進していった。
しかし、彼が小屋の前の広場に足を踏み入れた瞬間、しおりが前に進み出た。彼女の細い両手が風と温かな光の魔方陣を丁寧に描き出し、それが騎士の体にまともに激突した。命を奪うためではなく、武器を弾き飛ばし、動きを封じるための一撃だった。
騎士の体は吹き飛ばされ、太い丸太に激突した。手から剣が弾け飛ぶ。後を追って突撃してきた他の兵士たちも、睡眠薬と薬草の粉末の効力で次々と意識を失い、地面に崩れ落ちていった。
部隊を率いる騎士は、まだ意識のある兵士たちと共に体を支え合いながら、逃げるように素早く山を駆け下りていった。家と彼らの薬師を守り抜いた村人たちの、喜びに満ちた歓声が響き渡る。
しおりは小屋の前の丸太に腰を下ろし、村人たちが肩を組み合い、ライアンと共に笑い、喜び合っている光景を見つめた。幸福と誇りの涙が、再び彼女の頬を伝い落ちる……。
しかし、罠と薬草の粉末による敗北は、帝国軍の傲慢な誇りを完全に打ち砕くには至らなかった。傷だらけでボロボロになった騎士は、怒りに歯をギリギリと食いしばった。彼は無理やり立ち上がり、二本目の剣を胸の高さで引き抜くと、冷酷で残忍な声で森全体に響き渡るように怒鳴り声を上げた。
「愚かな村人どもが! 俺たちを倒したからといって、これで終わると思っているのか!?」騎士は殺意に満ちた目で村人全員を睨みつけた。「帝国の指名手配犯を匿い、援助することは反逆罪にあたる。誓ってやる……帝都からの増援が到着した瞬間、お前ら全員、この村の家族全員を一人残らず広場に引きずり出し、処刑してやる!」
反逆罪による死刑という脅しに、多くの村人たちの顔から血の気が引いた。恐怖が全員の心を蝕み始める。
後ろに立っていたしおりはその光景を目の当たりにし、心臓が締め付けられるように痛んだ……。自分に関わったせいで、この罪のない人々にこれ以上の犠牲を強いるわけにはいかない。
しおりは一人で前に進み出た。彼女の周囲の空気が緊張感に変わり、濃密な魔力の粒子が手のひらの周りに集まり始める。高位魔法を解き放ち、戦い、そしてすべてを一人で背負うために、彼女は唇を開いた。
そっと……。
ライアンの大きくて温かい手が、彼女の肩に優しく触れた。しおりはハッとして振り返る。ライアンは静かな、しかし不思議なほどの温かさと揺るぎない安定感を秘めた瞳で彼女を見つめ返した。そして、彼女の頭を優しく撫でると、彼女の背中を庇うように前に歩み出た。
「そこまでで十分ですよ、しおりさん……。残りは僕に任せてください」
ライアンは長く息を吐き出し、一人で帝国軍の前に立ち塞がった。いつも笑顔で優しげだった若い薬師の気軽な態度は一瞬にして消え去り、代わりに恐ろしいほどの静寂が彼を包み込んだ。
ズンッ!
突然、小屋の周囲の空気が、まるで巨大な山がのしかかってきたかのように重く沈み込んだ! 落ち葉の音すら聞こえるほどの静寂。計り知れないほど深くて巨大な魂の威圧感が、ライアンの体から溢れ出した。何人もの帝国兵が膝から崩れ落ち、呼吸を詰まらせ、まるで死に絶えるかのように胸をかきむしった。
部隊を率いる騎士は、極限の驚愕に目を極限まで見開いた。握っていた剣が震え、今にも手から滑り落ちそうになる。これほどの威圧感は、普通の人間、いや、高位の騎士でさえ持ち得るものでは絶対にない!
ライアンは静かで、しかし心臓の奥底まで凍りつくような冷たい視線で騎士を見据え、全員の頭の中に響き渡るような平坦な声で口を開いた。
「率直に言わせてもらうと……」ライアンは静かに言った。「僕に勝てそうな人間は、聖なる神官か、この王国の国王くらいしかいませんよ」
森全体を静寂が覆い尽くした。傲慢に聞こえるその言葉が、決して揺るがない真実であることを、騎士と帝国兵たちは瞬時に悟った……。彼らの目の前に立っている男は、ただの深い森の薬師などではないのだと。
「帝国軍が、攻撃を仕掛ける前に溶けて消え去りたくないのなら……」ライアンは彼らを冷たく見下ろした。「お前の部下を連れて、今すぐ立ち去れ」




