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第75章 : 家と領域

声なき静寂が、三人の兵士が立ち去った後の木造の小屋の周囲を取り戻した。しかし、それまでの数日間のような穏やかな空気はすっかり失われていた。午後の風が、重苦しい緊張感を運んでくる。


ライアンは山を下りる道から目を離し、小屋の中に戻ると、しっかりと戸締まりをした。部屋の中心でじっと立ち尽くしているしおりを見つめる。彼女の顔立ちは穏やかで、狂乱した様子は微塵もなかったが、その心臓は過去の記憶と激しく戦っていることを彼はよく知っていた。


「あいつらはこれで引き下がりません……」ライアンは低く落ち着いた声で言った。「彼女がここにいると確実になれば、遠からず、もっと大規模で周到な部隊が戻ってくるでしょう」


しおりは静かに頷いた。「分かっています……皇帝の手の者たちは、自分たちが『財産』だと思うものを決して手放したりはしませんから」


ライアンはしばらく考え込んだ後、彼女に歩み寄り、適切な距離を保ったまま、真摯な眼差しで彼女を見つめた。「しおり……もしここを離れたいなら、裏山の隠し道を使って逃げることができます。帝国軍の手の及ばない辺境の村がある。そこで安全に新しい人生を始めることができるはずだ」


しおりは少しだけ動きを止め、薬草採りの男の温かな瞳を見つめ返してから、かすかな笑みを浮かべて首を横に振った。


「いいえ……ライアンさん」その声は微かだったが、不思議なほど揺るぎなかった。「これまでの人生で……何か悪いことが起きるたびに、私はただうつむいて運命を受け入れるか、逃げ続けるしかなかった。心が完全に壊れてしまうまで……。でも、ここ、この小屋だけは、私に『生きるということ』を教えてくれた場所であり、私に『新しい自分』を与えてくれた場所です……ここは私の家なのです」


彼女は少しだけ前に歩み寄り、目を逸らさずに彼を見つめた。「もう二度と逃げません……それに、この家を壊したり、私に新しい命をくれた人を傷つけたりする者など、誰一人として許さない」


ライアンは長く彼女の顔を見つめた。その拒絶は頑固さや一時的な感情からくるものではなく、心を取り戻した人間の「意志」によるものだった。これ以上説得しても無駄であることを彼は悟り、そしてその胸の奥底では、今まで感じたことのない温かさが広がっていた。


「それなら……」ライアンは顔に薄い笑みを浮かべた。「一緒に、僕たちの家を守りましょう」


午後から夜にかけて、かつて距離を置いていた二人の赤の他人は、一つの心のように協力し合った。ライアンは自身の隠し場所から、幻覚作用のある毒草、強力な麻酔薬、そして濃いかゆみを引き起こす植物を取り出した。


彼はしおりを連れて小屋の周りを偵察し、それらの薬草を茂みや通路に巧妙に隠していった。侵入者がそれを踏めば、ライアンが作った簡単な木の仕掛けがすぐに毒の霧を撒き散らす仕組みになっていた。


一方、しおりは薬草の抽出液を浸した筆で、小屋の周囲の木の幹に小さな魔方陣を丁寧に描いていった。それは、悪意ある気配が境界を越えた瞬間に警告を発する、かすかな「隠蔽と警報の結界」を作り出した。


「この薬草の霧は、侵入者の方向感覚を狂わせ、一時的に気絶させます……」と、しおりは大木の幹に最後の魔術の線を描きながら言った。「そしてこの結界は、私たちが事前に察知するための時間を稼いでくれる」


ライアンは、木の質感にゆっくりと溶け込んでいく淡い青色の魔方陣を見つめ、感嘆した。「完璧に調和していますね」


夜のとばりが降りる頃、二人は小屋の中の炉端に座ってくつろいでいた。薪がパチパチと音を立て、温かな光を放つ。外の暗闇から忍び寄る影も、二人の心の中の静けさを壊すことはできなかった。


「ありがとう……ライアンさん」しおりは温かいスープの椀を両手で包み込みながら言った。もう二度と震えることのないその両手で。「私をここに受け入れてくれて」


「こちらこそ、感謝しなければいけないのは僕の方です……」ライアンは炎を見つめながら答えた。「あなたがいてくれたから、この古びた小屋が……本当の『家』のように感じられるようになったんだから」


その夜、しおりは小屋の境界を守る結界に包まれ、そして部屋の反対側で眠る男への深い信頼を胸に、穏やかに眠りについた。翌日は大きな嵐を連れてくるかもしれないことを二人は知っていたが、今度は……もう一人きりで立ち向かうわけではなかった。


翌朝の日の光が空全体を照らし出すより早く、大勢の足音が森の静寂を切り裂いて山道の下から響いてきた。昨夜しおりが描いた魔方陣からの微かな振動が、彼女の手のひらに伝わってくる。


しおりとライアンはハッと目を覚ました。二人は緊張した面持ちで視線を交わし合う。ライアンは自分の小型ナイフと愛用の弓をしっかりと握り締め、しおりは手元の魔術の刻印に微かな魔力を集め、予想される帝国軍の部隊を迎撃する準備を整えた。


しかし、二人が足を踏み出して小屋の外に出た時、目の前の光景にしおりの息が止まった……。


小屋を取り囲んでいたのは、恐ろしい鎧を着た兵士たちではなかった。他ならぬ、この数十日間に彼女が治療の手を差しのべてきた村人たち、森の猟師たち、そして患者たちだった!


重傷を負って死にかけた巨体の猟師は背中に木製の古びた弓を背負い、絶望の淵にあったかつての負傷兵は頑丈な杖をしっかりと支えに立っていた。その他にも十数人の村人たちが、クロスボウ、木の杖、そして日用の農具を手にしていた。全員の瞳には決意と守る意志が満ちていた。


「あなた方……ここで何をしているんですか?」しおりは動揺を隠せない声で尋ねた。


巨体の猟師が前に進み出、彼女とライアンに心からの笑みを向けた。「街の村人から聞いたんだ。帝国の兵士たちがしおり先生を脅しにここまでやって来たと……あいつらは大軍勢を引き連れて戻ってくるそうだ」


「それなら……なおさらここにいるべきじゃありません! 私のような厄病神を助けるために来る必要なんて……」しおりは激しい不安に駆られて声を張り上げた。「あいつらは帝国の兵士です……あなたたちが危険に巻き込まれてしまう!」


「先生……」元軍人の男が近づいてきて、重みのある力強い声で言った。「私たちが怪我をして絶望していた時、どの兵士も、いや帝国でさえ、私たちに見向きもしなかった……手を差し伸べて、死の淵から引き上げてくれたのは、しおり先生とライアンさん、あなたたちだけだ」


「私たちなんて、ただのしがない村人かもしれないが……」感染症で重篤だった子供の母親が付け加え、しおりの手をしっかりと握りしめた。「恩というものを知っているし、誰を守るべきかも分かっている。しおり先生は私たちにとってよそ者でも厄病神でもない。私たちの恩人で、この小屋は私たちの希望なんだ!」


「そうだ! もしあいつらがしおり先生に手を出し、この小屋を壊そうとするなら……まずはこの地域の村人たちの死体を乗り越えていってもらうさ!」村人全員から、決意に満ちた叫び声が轟いた。


その言葉が、しおりの心に築かれていた感情のダムを完全に決壊させた……。


これまで彼女は、自分には誰からの愛や保護を受ける資格などないと固く信じ込み続けていた。


しかし今、何の身分もない、かつて彼女が見下していたはずの普通の人間たちが、何の見返りも求めず、ただ彼女の安全のために、自ら進んで盾となって立ち上がったのだ。


感謝と感動の涙が、整った頬を伝い流れ落ちた。嗚咽はなく、ただ魂の奥底まで染み渡るような温かさが広がっていた。しおりはそっと手を伸ばし、村人の手をしっかりと握り返した。喉のつかえを抑えるために、深く息を吸い込む。


ライアンがそばに歩み寄り、周囲の村人たちを見回しながら温かな笑みを浮かべた。彼はしおりの方を向き、優しく頷いた。


「ねえ、しおりさん……」ライアンは穏やかな声で言った。「あなたはもう、一人ぼっちじゃないんですよ」


しおりは頬の涙を拭い、顔を上げて、今までになく澄んだ、確固たる、そして生命力に満ちた瞳ですべての人々を見渡した。


「ありがとうございます……皆さん、本当にありがとうございます」しおりは心からの笑みを浮かべて言った。「それなら……一緒に私たちの家と、大切な人たちを守りましょう!」


森全体に響き渡るような力強い歓声が上がった。しおりを縛り付けていた過去の暗い影は完全に消え去り、そこには揺るぎない意志と、人々の温かい愛と真心の結びつきによって築かれた広大な防壁だけが残されたのだった。

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