第71章 : 二日目、三日目、四日目
二日目
しおりは窓の木枠から差し込む柔らかい光で目を覚ました。癒えきっていない深手により、全身が酷く痛む。彼女は暫くじっと痛みを耐え忍んでいたが、意を決して身を起こした。
ライアンは炉の前に立ち、忙しく立ち働いていた。香ばしい粥の匂いがかすかに漂ってくる。物音に気づいた彼が振り向くと、その視線と重なった。
「少しは眠れましたか?」
彼はいつも通りの落ち着いた低い声で問いかけた。
「少しだけ……」
彼女は短く答えた。
彼は湯気の立つ粥の椀を、昨日と同じ近すぎず遠すぎない絶妙な距離に置いた。今度のしおりは、昨日みたいに冷めきるまで放置したりはせず、震える手を伸ばしてすぐに椀を持ち上げた。
見知らぬ二人は静寂の中で食事を進めた。無駄なお喋りは一切ない。だが、初日のような息も詰まる緊張感はそこになかった。
朝食を終えると、ライアンはいつものように薬草を摘むため背負い籠を手に森へ向かった。しおりは一人、小屋に残される。
一人きりになると、しおりはゆっくりと体を支えて立ち上がり、窓辺へと歩を進めた。視線の先にはどこまでも広がる青々とした森がある。見慣れた風景ではなかったが、耐えがたいほどの違和感は感じなかった。
彼女は傷跡と包帯が残る自分の両手を見つめた。二日前にライアンの首を絞めた指先が、その場の記憶を思い出して再び震え始める。
(私……どうやって元の自分に戻ればいいのか、まだ分からないよ……)
心の中で静かに呟き、元の部屋の隅に戻って膝を抱えた。
三日目
三日目の朝も前日と同じようなリズムで過ぎていった。しかし、しおりは少しずつ暗がりから抜け出し、動き始める。傷む体を確かめ、リハビリするかのように小屋の中をゆっくりと歩き回った。
午後になり、ライアンが薬草の入った籠を背負って森から戻ると、初日のような暗い隅っこではなく、窓辺で風に当たっている彼女の姿があった。
「少し良くなったみたいですね」
彼は背負い籠を下ろしながら声をかけた。
しおりは何も言わず、軽く頷くだけにとどめた。
「その薬草……何に使うんですか?」
不意に彼女が尋ねた。ここに来てから、彼女が真剣な興味を示して言葉を発したのはこれが初めてだった。
ライアンは少し驚いたように彼女を見つめ、それから薄く微笑んだ。
「主に傷の治療や熱冷ましに使います。一部は近くの村で日常品と交換するために取っておくんです」
彼は濃い緑色の葉を一枚拾い上げた。
「例えばこの葉は、お湯で煮出して飲むと熱をよく下げてくれるんですよ」
しおりは真剣な様子でその説明に耳を傾けた。相変わらず無口ではあったが、その瞳には初日のような生気のない虚無感はなかった。ほんの僅かな欠片に過ぎないかもしれないが、確かな光が戻り始めていた。
ライアンも無理に会話を促したり、問い詰めたりはしなかった。ただ次の薬草の効能を淡々と説明し、彼女が心地よく感じられるペースに会話を委ねた。
四日目
四日目の朝、しおりは初めてライアンよりも早く目を覚ました。少しずつ差し込んでくる朝日を見つめる。体にはまだ痛みが残っていたものの、以前よりずっとスムーズに動かせるようになっていた。
ライアンが目を覚ますと、彼女が炉の前で薪を並べようと奮闘している姿が目に入った。傷が塞がりきっていないため、手つきはまだぎこちない。
「無理をしなくても大丈夫ですよ」
彼は慌てて駆け寄り、彼女の体を支えようとした。
「何かしていたかったんです……」しおりは蚊の鳴くような声で答えた。「ただじっとしていると……色々と考え込んじゃうから」
自分の内なる感情を素直に口にしたのは、これが初めてのことだった。たった一言ではあったが、彼女の魂が再び動き始めたことを示す重要な兆候だった。
ライアンは大げさに喜んだりせず、理解を示して深く頷いた。
「じゃあ、重荷でなければスープの野菜を切るのを手伝ってもらえますか?」
しおりはまだ少し震える手で包丁を受け取り、真剣な眼差しで作業に取りかかった。
良い兆しが見え始めてはいたものの、過去の影は定期的に彼女を苛みに現れた。特に、一人で暗闇に沈む夜の時間は酷かった。
四日目の夜、彼女は背中に冷や汗をびっしょりと描きながら、激しい悪夢から覚めない呼吸を荒らげて飛び起きた。
部屋の反対側で寝ていたライアンはその音に気づいたが、起き上がってしつこく問い詰めるような真似はしなかった。ただ彼女が心を落ち着かせ、感情を整理できる個人の空間を残しておいた。
「ごめんなさい……起こしちゃって」
しおりは暗闇に向かって掠れた声を絞り出した。ライアンが起きていることは分かっていた。
「気にしないでください」
部屋の向こう側から返ってきた声は、まだ眠たげだったが温かかった。「また悪夢ですか?」
彼女は少しの間沈黙し、やがて小さく答えた。
「はい……毎晩なんです」
「少しずつ良くなっていきますよ」
ライアンは言った。無理な約束はせず、ただ自分の実感として語る。
「今日や明日すぐには無理かもしれません……でもいつか、絶対に良くなります」
しおりはそれ以上何も答えなかったが、前の日の夜のような押しつぶされそうな孤独感はもう感じていなかった。
暗闇の中で木の天井をしばらくじっと見つめた後、彼女はゆっくりとまぶたを閉じた。全身を苛む痛みは相変わらずそこにあった……けれど、それは四日前の夜のように、彼女の心を完全に粉々に打ち砕くほど重いものではなくなっていた。




