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第68章 : 敗北を受け入れる知恵の女神

天を突くほどにそびえ立つ天空の白亜の塔。その最上階へと通じる螺旋階段を、三人の英雄たちは、先ほどの戦闘による満身創痍の体を引きずりながら、重く気だるい足取りで登り詰めていた。


轟音と共に巨大な石扉が押し開かれ、傷の癒えぬ彼らはそのまま石畳の床へと這いつくばるようにひざまづく。


玉座の間の中央。漆黒の石で作られた巨大な玉座に、一人の圧倒的な威圧感を放つ男が深く腰掛けていた。見下ろす深紅の瞳には、底知れぬ怒りと冷徹な苛立ちが宿っている。無造作に広げられた黒髪、不機嫌に引き結ばれた薄い唇、そして屈強な肉体を包む黄金の刺繍が施された黒のローブ――そのすべてが、圧倒的な支配者の風格を物語っていた。


「こんな簡単な任務すら、満足に遂行できないだと?」


レオナルドは感情の乗らない、だがそれゆえに凍てつくような低音で言った。その一言を発した瞬間、彼から放たれた強烈なプレッシャーが、部屋の空気を一変させる!


ドオオオオオオオオオッ!!


空間が歪み、押し潰すような重力が三人の英雄の肩にのしかかった。あまりの重圧に、彼らは頭を床スレスレまで押し付けられ、息をすることすらままならず、冷や汗が滝のように滴り落ちる。


セレスティンは死力を振り絞るようにわずかに顔を上げ、震える声で弁解しようとした。


「あ、あの……我々は――」


だが、言葉を最後まで紡ぐことは許されなかった。彼女の頭上から、さらに何倍もの破壊的なプレッシャーが一点集中で叩きつけられる!


バキッ……!


か弱い彼女の肉体は、冷たい床にペチャンコに押し潰されそうになり、悲鳴すら漏れない。


「誰が話していいと言った」


レオナルドの冷たい血走った瞳が、虫けらを見るような侮蔑の光を宿して彼女を捉えた。


「英雄崩れの役立たずが、勝手に口を利くな」


セレスティンは恐怖と屈辱に全身を痙攣させながら、唇を強く噛み締めて黙るしかなかった。


エドリアンは、処刑台へと歩を進めるような覚悟で歯を食いしばり、必死に声を絞り出した。


「レオンハルト様……! 我らはブルーベルの守護者と交戦し、その最中に未知の介入者による強襲を受け――」


ドオオオオオオオオオッ!!


再び、先ほどを上回るすさまじい重力が襲いかかり、三人はもはや這いつくばる小虫のように床へ縫い付けられた。


「たかがその程度の『簡単な仕事』だというのに!」


レオナルドの怒号が空間を揺るがす。彼の苛立ちは頂点に達していた。


「お前たちにはそれを完遂する頭すらないのか! 『ソフィア』ごときの残滓など、とうの昔に消え去ったはずの二千年前の過去の亡霊にすぎんというのに!」


三人が恐怖に震えながら身を縮こまらせる中、静かな足音が玉座の間へと響いた。


そこに現れたのは、夜の羽毛のように艶やかな黒髪を揺らす一人の美しい女性だった。深紅の瞳には、レオナルドとは対照的な柔らかな光が宿っている。彼女は優雅な身のこなしで玉座へと近づき、そのひじ掛けに腰掛けると、自然な仕草でレオナルドの首に両腕を回した。


「そんなに怒らないで、あなた……」


彼女は甘えるような、鈴を転がすような優しい声で囁いた。


「せっかくの機嫌が台無しになってしまうわよ……」


――その瞬間。


バシッ!!


レオナルドは容赦なくその細い腕を掴み上げ、ためらうことなく彼女の体を玉座の脇へと力任せに投げ飛ばした!


ドサッ……!


華奢な体躯が硬い石の床に激しく打ちつけられ、鈍い音が広間に響く。


「エヴァンジェリン! 何度言わせる気だ!」


レオナルドは立ち上がり、憎悪に満ちた目で彼女をにらみつけた。


「お前の生んだあの役立たずの娘、ソフィアのせいで! 奴が死んで二千年が経った今なお、その呪われた影響が我々の計画を邪魔し続けている!」


彼は玉座から歩み寄り、這いつくばる女性の目の前に仁王立ちした。


「あの時、お前が私に背いて産み落とさず、私の命令通りに始末していれば、こんな面倒な事態に陥ることもなかったはずだ!」


エヴァンジェリンは痛みに顔を歪めながらも、震える手で首筋を押さえ、うなだれた。その目から熱い涙が零れ落ち、床の冷たい石を濡らす。


「も、申し訳ありません……」


彼女の声はか細く、罪悪感に引き裂かれていた。


「すべては私が愚かだったから……あなたのお言付けに従わなかった、私の過ちです……」


彼女は涙を拭うこともせず、ただひたすらに夫の怒りを受け止めるように頭を垂れた。


「今の私には、自分がどれほど愚かだったのかが痛いほどよく分かっています……」


床に這いつくばる三人の英雄たちは、その異様で歪み切った夫婦の光景を目の当たりにし、息を殺すしかなかった。プレッシャーはいくらか和らいでいたが、代わりに背筋が凍るような恐怖が彼らを支配していた。


エドリアンは視線の端でその光景を捉えながら、頭の中で思考を巡らせる。


(ソフィア……あの『敗北を受け入れた知恵の女神』と称された、神話の時代の存在のことか……?)


かつて伝説の中で語り継がれた名前が、この塔の最高権力者と、その妻の間の深い亀裂と憎悪の根源に繋がっている。それは彼らにとって、知ってはならない禁断の秘密の領域だった。


レオナルドは冷たい視線を再び三人の英雄へと戻した。彼の纏う殺気がふたたび重圧となって彼らを押し潰す。


「次はない。次に同じような失態を犯せば……お前たちの命ではない、その存在そのものを消し去ってやる」


「は、はっ……!!」


三人は震える声で同時に答えるのが精いっぱいだった。


「失せろ」


レオナルドが冷たく吐き捨てると、三人は這うようにしてその場から後ずさり、重い石扉が音を立てて閉まるまで、一度たりとも顔を上げることはできなかった。


ガチャン……!


扉が完全に閉ざされ、玉座の間の重苦しい空間から解放された瞬間、セレスティンはその場に崩れ落ち、荒い息を何度も繰り返した。


「あいつは……狂っている……」


彼女は恐怖に震えながらかすれた声を漏らす。


「日を追うごとに、あの男の狂気と残虐さは増していくわ……」


バルナバスは彼女の肩にそっと手を置き、周囲を警戒しながら低い声で諭した。


「これ以上、余計な口を聞くな。命がいくつあっても足りんぞ」


エドリアンだけは静かに立ち上がり、すでに閉じられた重厚な石扉を見つめていた。その脳裏には、先ほど耳にした「ソフィア」という名と、支配者たちの歪んだ関係の記憶が深く焼き付いていた。


(……この塔の隠された歴史の裏側には、我々の想像を絶するほど深く、そして暗い闇が眠っているらしい)

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