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第60章 : Eranis Generation Gamma

すべての王国の都の中心に、突如として巨大な映像スクリーンが浮かび上がった。街を行き交う人々は足を止め、言葉を交わすのも忘れて、放映される映像へと一斉に視線を注ぐ。番組のシンボルマークが現れた瞬間、周囲のざわめきが嘘のように静まり返った。


画面には、すらりとした長身の青年が映し出されていた。濃い金髪を後ろへと綺麗に撫でつけ、エメラルドグリーンの瞳には茶目っ気が宿っている。仕立ての良い紺色のスーツに、黄金のストライプが入ったネクタイを締め、彼は親しみやすい笑みをカメラに向けていた。


「本日の司会を務めます、エラニスです。そして——」


隣に寄り添うのは、純白のロングヘアに身を包んだ美しい女性だった。髪にはきらめく音符型の髪飾りが揺れ、星屑のように微かに光る銀の刺繍が施された白いロングドレスを纏っている。彼女は優しげな瞳でカメラを見つめ、ふわりと微笑んだ。


「アーセシアでーす!」


「さて、引き続き『音楽の王国エミシア』からお届けしております」エラニスが話を継ぐ。スタジオ内は古代の楽器と最先端のテクノロジーが入り交じる奇妙な空間だった。「現在は名前も『アーセシア』に改められましたが、場所はそのままです。アーセシアちゃんがどうしても場所の移転を許してくれないものだから、本当に頭が痛いところですね」


「何をおっしゃっているんですか」アーセシアは小さく頬を膨らませて上品に笑う。「だいたい、私たちが保有する古代のアーティファクトがなければ、どうやってこの映像を中継するっていうんですか?」


「おっと、脱線しすぎましたね」エラニスは軽く笑うと、「それでは本題に参りましょう。『エラニス・ジェネレーション・ガンマ』の任命、いよいよ開始です」


アーセシアは胸元にそっと手を当て、瞳をワクワクと輝かせた。「春の訪れとともに芽吹く花々のように、岸辺へと押し寄せる新たな時代のうねり……。彼らこそが、自らの手でこの時代の強さの定義を形作る者たちです」


「これこそが、古びた慣習を吹き飛ばし、取って代わる新たなエネルギー、新たな才能の象徴ですね」エラニスが少し真面目なトーンで付け加えた。


「今のセリフ、私には関係ありませんからね」アーセシアがすかさず割り込む。


「またまたぁ……アーセシアちゃん」エラニスは困ったように眉をひそめた。


「それでは、栄えある最初のお方からご紹介しましょうか」アーセシアは微笑みながら、背後のスクリーンへと視線を向けた。そこに映し出されたのは、剣を携えた一人の青年だった。「エンデリアの代表、エンデリア皇太子——エヴェリン・ラックスフォート・エンデリア・イゼキエルです」


「彼はですね、剣術において並外れた才能を持っており、まさに天才と呼ぶにふさわしいお方です」エラニスが言葉を継ぐ。「現在はミリティア学園に在籍し、生徒たちに剣術を教える指導者として、絶大な敬意を集めています。数々の王国間戦争にも参戦した経験を持っていますよ」


彼は一度言葉を切って、さらに付け加えた。


「しかも、皇太子としての身分もお持ちです。エンデリア皇帝は、戦闘力ランキングにおいてなんと第11位に君臨するお方。その皇太子殿下は、ほんの数ヶ月前、あのミンタをも打ち破っているのですからね」


「ええっ——!?」アーセシアは驚きに声を弾ませた。「四大超大国の一つから来たお方ですって? しかも、あの奔放な『エラニス・ジェネレーション・アルファ』のミンタに勝ったというんですか!?」


「お兄様のお話が出たとなれば、当然、妹君のお話もしなければなりませんね」エラニスは画面を切り替えた。そこに映し出されたのは、穏やかな笑みを浮かべる少女の姿だった。「魔法の天才です。この一年間で新たな魔法の数々を研究・開発し、さらには『存在論理』という新たな理論を提唱されました」


「これまでのカリキュラムでは、『人間の存在は肉体と魂で構成されている』としか教えられてきませんでしたからね。そこには数え切れないほどの穴があったわけですが、お姫様の理論はその穴を完璧に埋めてしまったのです」


「あ……圧巻の、千年に一人の天才ですね」アーセシアは感嘆の声を漏らし、胸の前で両手をパチンと合わせた。


「そして、皇族といえば、この方を外すわけにはいきませんね」エラニスは隣の相棒へと優しい笑みを向けた。「我がアーセシアの女王陛下です」


「当然ですわ」アーセシアは迷いなく胸を張り、満面の笑みで答えた。


「王位を継承されるやいなや、王国の構造改革を断行し、王国の名前をご自身のものへと改称。さらに経済を猛烈な勢いで拡大させ、今や『オタクカルチャーの聖地』『世界で最も自由な王国』と呼ばれるまでに育て上げられました」エラニスは驚異的な実績を次々と読み上げていく。「ほかに何かアピールポイントはありますか?」


「そうですね!」アーセシアは誇らしげに胸を張る。「音楽や歌、アイドル活動はもちろんのこと、マンガや小説といったサブカルチャーも充実しています! 例えば、主人公が別の世界に飛ばされる『異世界もの』、魔法が存在しない『現実系ファンタジー』、そして女性の間で大人気の『BL』に、男性を魅了してやまない『百合』まで完璧に網羅していますわ!」


「まあ、そういうことですね」エラニスは苦笑交じりに頷いた。


「かつての小国が、今や『第5の超大国』と称されるまでの影響力を持つに至ったわけです」


「お次の方は、知性と慈愛に満ちたお方です」アーセシアが続ける。スクリーンの画像が切り替わり、柔らかな微笑みをたたえた女性の姿が映し出された。「リセルロット様です。彼女の卓越した補佐があってこそ、エンデリアは最強の超大国へと登り詰めることができたのです」


エラニスも深く頷く。「彼女の行政手腕と外交能力は、本当にずば抜けていますね。怒りの感情を表に出した姿を一度たりとも目撃された者がいない、と言われているほどです」


「そして、この方について語らないわけにはいきませんね」エラニスは急に声を弾ませ、一段と興奮した口調になった。「レナリン様です。『蒼藍の白竜』の異名を持ち、影なき月組織に所属するお方。あの『ジェネレーション・ベータ』であるアイリン様やミライ様をも凌駕するほどの戦闘力をお持ちです」


「昨年は、その圧倒的なスピードと居合によって、あの『頭の悪いロリっ子』——ステシアを八つ裂きにしたことでも知られていますね。まさに驚異的なスピードで進化を遂げる、最も危険で強力なニューウェーブと言えるでしょう」


その瞬間。


画面のコメント欄に大量の「ディスライム(低評価)」と、あるアカウントによる不自然な連続スパム質問が叩き込まれ始めた。


「私たちは頭が悪くありません」


「愛しのステシア001」、「愛しのステシア002」、「愛しのステシア003」、「愛しのステシア004」、「愛しのステシア005」、「愛しのステシア006」、「愛しのステシア007」……と、システムでブロックしきれないほどの膨大なアカウントが連投されていく。


エラニスは冷ややかな目を向け、鬼気迫る笑みを浮かべた。


「ステシア、これ以上スパムを続けるなら、アーセシアへの入国を一生禁止処分にしますよ。いくら古代のアーティファクトをいくつか持っているからって、調子に乗らないことですね」


すると、間髪入れずに『ステシアは世界一可愛いのだ』というアカウントから返信が飛んできた。


「そんな冷たいこと言わないでよ……まるで生き地獄じゃない。アーセシアに入れないなんて、私耐えられないからね」


「とまあ、こんなハプニングもありつつ」アーセシアはやれやれといった様子で軽く息をついた。「今年は特に、傑出した実績を残した人たちが多すぎますね。中でもエンデリア勢の勢いが凄まじいですわ」


「本当ですね」エラニスも同意する。「皇太子の兄妹に、それを裏から支えるリセルロット様。エンデリアだけで一気に三人もスターを輩出しているのですから」


「視聴者の皆様からも、たくさんのご質問が届いていますよ」アーセシアは手元の小さな紙束に目を落とした。「『なぜ今年は北方の王国からの代表者が一人もいないのですか?』という質問が多いですね」


「ああ、その件ですか」エラニスは苦笑いを浮かべる。「まあ、今年はエンデリアが全ての話題をかっさらっていきましたからね。来年にはもっとチャンスが増えることでしょう」


「それから、こんな質問も。『なぜエラニス様はいつもアーセシアをからかってばかりいらっしゃるのですか?』ですって」


エラニスは声をあげてケラケラと笑った。「そりゃあ、アーセシアちゃんのリアクションが最高に可愛いからですごく面白いからですよ」


「全然可愛くありませんわ」アーセシアはうっすらと頬を赤らめつつも、プロとしての表情を必死に取り繕う。「エラニス様、毎回の番組でそういうことばかりおっしゃるんですから」


「だって、毎回ちゃんと反応してくれるからやめられないんですよねえ」


「でしたら、次の回は私もエラニス様をからい返して差し上げますわね」アーセシアは小悪魔的な笑みを浮かべた。「あなたが昔、十歳の子供との勝負に負けた黒歴史について、詳しく暴露しちゃおうかしら」


「なっ——! ちょっと待ってください! それは極秘事項のはずです!」エラニスは一瞬で顔面蒼白になり、声を上ずらせた。


「あら、うっかり口が滑ってしまいましたわ」アーセシアはわざとらしく手で口を押さえ、これ以上ないほど嘘くさいショック顔を作ってみせる。「皆様、ごめんなさいね。私としたことが、つい口が過ぎちゃいましたわ」


「アーセシアちゃんっ!」エラニスは羞恥心に顔を赤らめながら叫び、半ば無理やりカメラのほうへ向き直った。「さっ、それでは本日の放送時間も終了となりました! また次回の番組でお会いしましょう!」


「そんなにあからさまに話を逸らさなくてもいいではありませんか」アーセシアはくすくす笑いながら、改めてカメラに視線を送った。「『エラニス・ジェネレーション・ガンマ』をお楽しみいただいた皆様、ありがとうございました」


「新しい時代のうねりが、この世界にさらなる彩りをもたらしてくれることを願っております」エラニスは司会者としての真面目なトーンにすぐ戻り、そう締めくくった。


「それではまたお会いしましょう……あ、そうだ、皆様もぜひアーセシアにお引っ越ししてきてくださいね! 誰よりも早く最新情報を知る権利が手に入りますし、番組宛てに質問のファンレターを送ることもできちゃいますからね」アーセシアは愛らしく手を振ってみせた。


世界中の街角に浮かんでいた二人の姿が、ゆっくりと粒子のように霧散していく。最後に番組のシンボルマークだけが宙に残り、それもやがてプツリと消え去った。


小さな森の端にある村。


中継を見ようと集まっていた村人たちは、画面が消えた後も興奮冷めやらぬ様子で口々に語り合っていた。


「今年のエンデリアはとんでもねえ化け物揃いだな……」


「皇太子も皇女も、まだ若いって話だぞ」


人垣の少し離れた場所で、その光景をじっと見つめていたシオリは、無表情のまま佇んでいた。誰も気づかなかったが、彼女の細い指先は、布の上から拳を強く握りしめていた——その名が耳に飛び込んできた瞬間からずっと。

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