第59章 — 祝宴の夕餉
小屋に近づくにつれて、小さな木造家屋からは料理のこうばしい香りが漂ってきた。シオリが大きく息を吸い込むと、タイミングよく腹の虫が盛大な音を鳴らす。
「おや、来たかい、シオリさん!」老人が出迎えの扉を開け、満面の笑みを浮かべた。「中へ入りな、ちょうど料理ができたところだ」
温かな暖炉の灯りと美味しそうな匂いに包まれた室内へと彼女は足を踏み入れる。老人の連れ合いである優しげな老婆が炉端に立ち、湯気の立つ大鍋を大きな木べらでかき混ぜていた。
「今夜は精一杯ご馳走するからね」老人はテーブルに腰を下ろしながら言った。「お前さんが退治してくれたスライムの肉を使って、特製の料理を作ったんだ」
シオリは興味津々といった様子で顔を上げた。「スライムの肉ですか?」
「そうさね」老婆は湯気の立つ鍋を食卓の真ん中へと運びながら答えた。「うちの村じゃ、無駄にするものなんて何もないのさ。討伐したスライムの肉は、こうして調理すりゃなかなかのごちそうになるんだよ」
鍋の蓋が外れると、とろりとした湯気が一気に広がり、白濁したゼリー状の肉がじっくりと煮込まれた濃厚なスープ、そして色とりどりの野菜や香草の姿があらわになった。
(スライムって、別に世界一美味しい食べ物ってわけじゃないけれど……)
鍋の中のスープを見つめながら、シオリは懐かしい記憶に浸る。
(ぷるぷるしていて柔らかくって、口の中で溶けるような食感なのは確かだけどさ。でも、これが毎日続くと、さすがにちょっと飽きが来るんだよね)
この村に足を踏み入れたばかりの頃のことが思い出される。あの頃は、食材が手軽で一文もかからないという理由で、ほとんど毎日のようにスライム肉が食卓に並んでいたものだ。
(まあいいか。もう三ヶ月も口にしてなかったわけだし、久しぶりに食べればそれなりに美味しいはずよね)
「遠慮せずにたくさん食べておくれよ」老人が大きな皿にたっぷりとスライム肉をよそってくれた。
シオリは笑みを浮かべて器を受け取る。「ありがとうございます」
箸でスライムの身をつまみ上げると、半透明の肉片が手の動きに合わせてぷるぷると心地よく揺れた。そのまま口へと運ぶ。舌の上で広がるのは、紛れもなくあの懐かしい食感だった。柔らかく弾力のある身が、軽い咀嚼に合わせて優しくほぐれ、素材の自然な甘みとコクのあるスープの味が絶妙に溶け合っていく。
「とっても美味しいです」彼女は心の底からの笑みを浮かべて言った。
「お前さんは魔法も剣の腕も一流だが……」老人は自分の碗にスープを注ぎながら話題を振った。「いったいどこであんな修羅場をくぐってきたんだい?」
シオリはほんのわずかに動きを止めたが、すぐに穏やかな口調で返した。「自分で少しずつ独学で覚えたのと……あとは、かつて私にいろいろ教えてくれた人たちのおかげです」
「自分の過去のことは、あまり話したくないようだな」老婆は彼女の様子を察し、優しく微笑みかけた。「まあいいさね。誰だって、あまり掘り下げられたくない思い出の一つや二つはあるもんだよ」
「ご理解いただき、ありがとうございます」シオリは心の底から救われたような気持ちで答えた。二人が干渉しすぎない距離感を保ってくれることが心地よかった。
「昔はこの村も、スライムの群れにしょっちゅう荒らされていてねぇ」老人が昔話を語り始める。「お前さんが来る前なんて、毎月のように畑の作物の半分以上が台無しになっていたもんだ」
「今はすっかり落ち着きましたね」シオリは微笑む。「これからも、この村を守る力になれればいいのですが」
「お前さんのおかげで、もう十分すぎるほど助かっているよ」老婆は慈愛に満ちた目を向けた。「お前さんが来てからというもの、この村はすっかり平和になった。子供たちだって安心して外で走り回れるようになったんだからね」
シオリは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じながら、その言葉に耳を傾けた。この小さな村を守るという役目が、これほどまでに自分に生きがいを与えてくれるとは、かつての彼女には想像もつかなかったことだ。
(この場所には……私が誰だったかなんて知る人は誰もいない。余計な期待をかけられたり、勝手に値踏みされたりすることもない)
次のスライム肉を口に運びながら、彼女は静かに思った。
(ただ純粋に、私のしたことに対して心から感謝してくれる人たちがいるだけ)
他愛のない世間話や村の日常の笑い声に包まれながら、夜の時間は穏やかに過ぎていった。シオリは、ここしばらく感じたことのないほど深いリラックスを覚えていた。
「もう少し食べるかい?」老婆が尋ねるやいなや、返事を待つこともなくスライム肉を追加でよそってくれた。
「いただきます」シオリは苦笑交じりに受け取る。すでに腹はいい具合に膨れていたが、差し出された温かな好意を断る気にはなれなかった。
心づくしの夕餉が終わり、シオリは片付けを手伝ってから席を立った。
「今夜は美味しいご飯をありがとうございました」彼女は深々と頭を下げて礼を言う。
「礼を言わなきゃいけないのはこっちの方さ」老人は笑った。「いつでも好きな時にメシを食いに来な。遠慮はいらないからね」
すっかり暗くなった夜道を通り抜け、彼女は自分の小さな小屋へと戻っていく。頭上の夜空では、無数の星々が申し合わせたようにきらめき始めていた。
質素な木製のベッドに横たわり、シオリはぼんやりと天井を見上げる。そこには微かなひび割れがあった——それは彼女の遥か遠い記憶の片隅に存在する、どこかの部屋の天井の傷によく似ていた。
満腹の心地よさと、一日中動き回った肉体の適度な疲労が相まって、彼女は普段よりもずっと早く、心地よい眠りの底へと落ちていった。




