第54章 : 戻らざる者
一ヶ月後。
調査にはほぼ丸一ヶ月を要し、ようやく結論が出た。皇帝が特命を下した調査チームは、真犯人が最初から身代わりとして仕組まれていたグループであることを突き止めた。セラフィナに向けられていたすべての書類や証拠はひっくり返され、見事に偽造されたものであることが判明した。
宮廷の誰も知ることはなかったが、連行された真犯人もまた、セネステリアが事前に用意していた一つの駒に過ぎなかったのだ。
セラフィナは、重いが確実な足取りで地下牢の扉から歩み出た。その肉体にはまだ生々しい傷跡がはっきりと残り、肌は以前よりも一段と青白く、両目の周りはまるで長きにわたって泣き濡れて涙が枯れ果てたかのように赤黒く腫れ上がっていた。
だが、肉体の傷よりも恐ろしいのは、彼女のその瞳だった。
そこにはもはや恐怖のかけらすら残されておらず、表情に痛みが表れることもない。ただ底知れぬ冷徹さと、誰にも窺い知ることのできない深い悲しみだけが混ざり合っていた。
出口では皇帝が待ち構えており、その顔には不安と罪悪感が入り混じっていた。
セラフィナは皇帝を一瞥することもなく、足を止めることすらなかった。まるで皇帝など存在しない空気であるかのように、そのまま通り過ぎていく。
「セラフィナ」
不安に満ちた声で皇帝がその名を呼んだ。
彼女は足を止め、無機質な態度で形式通りに軽く頭を下げた。「お気遣いありがとうございます、陛下」
「王家転覆の件だが……」皇帝は適切な言葉を探しながら続けた。「お前がやったのではないことが分かった」
セラフィナはしばらく押し黙ったあと、光の失われた瞳をまっすぐに向けて顔を上げた。
「そんなこと……もうどうでもいいのです」彼女の声は異常なほど平坦だった。「みなさんが望む結論が出たのですから、私はこれにて失礼します」
(またこうして顔を合わせ、こんなボロボロの姿であっても、最初に口にするのは私が濡れ衣を着せられた事件のこと……)
身体のあらゆる痛みを堪えながら、形式的な礼儀を尽くしながら彼女は心の中で呟いた。
(陛下はとうとう答えを出されたのですね。私がどれほど足掻いても、あなたの眼中に一度たりとも入ったことはなかったのですね)
皇帝からの返答を待つことなく、彼女はその場を通り過ぎた。
心配して出迎えに集まっていた多くの兵士や使用人たちが、彼女が通り過ぎるのを見るやいなや駆け寄ってきた。
「お姫様、お怪我を……お手を貸しましょうか?」一人の使用人が善意から手を差し伸べた。
セラフィナはその手を即座に払い除け、感情の欠片もない冷淡な声を放った。「宮廷のどの隅にでも勝手にいればいいわ。だけど、二度とその面を私に見せないで」
その場に立ちすくんでいた使用人たちは一様に息を呑み、もはや誰も彼女に近づこうとはしなかった。
セネステリアが、この上なく心配そうな顔をしながら駆け寄ってきた。「セラちゃん! やっと出てこれたのね、私、すごく心配して——」
だが、彼女が言い切るより早く、セラフィナは王宮の真ん中で彼女の頬を張り飛ばした。バチンという乾いた音が響き渡り、右の頬に強烈な平手打ちが叩き込まれる。
セネステリアがまだ呆然として体勢を立て直せないうちに、セラフィナは今度は手の甲で左の頬をもう一度叩きつけ、彼女を地面へと這いつくばらせた。
「失礼」セラフィナの声には、後悔の色など微塵もなかった。「ただ、あなたの顔を見たら無性に腹が立ったし、目障りだったものですから。ところでエゼキエルはどうしたのかしら? これまでこっそり聞いていた情報によれば、戦場に赴いてもう二十七日ほどになるはずよね。姉さんが釈放されたというのに、とんだ役立たずの兄貴ね」
彼女は地面に倒れたままのセネステリアの耳元に顔を寄せ、二人だけに聞こえる小さな声で囁いた。
「もう演技はやめたらどうかしら」
それから何事もなかったかのように立ち上がり、振り返ることなく歩き出した。
周囲にどよめきが広がる。通りかかった貴族や使用人たちは信じられないものを見る目で立ち止まった。
「オルドリン王女殿下が、どうしてあんなことを……」
「きっと精神がイカれてしまったんだわ、あんな事件があった後だし」
「だけどセネステリア様は何も悪くないのに……」
セラフィナは、今の出来事にすっかり言葉を失っている皇帝の元へと歩み寄った。
「陛下、オルドリン王女を叩いたことに対する処分なら、いかようにもお受けしますわ」揺るぎない、芯の通った声だった。「どのような罰も受け入れる覚悟です。ですがその代わり、私との血縁関係を破棄する書類を発行し、署名していただけますか」
皇帝はショックの色を隠せず、呆然と立ち尽くした。「セラフィナ、お前はいったい何を——」
「私は今夜、ここを出て行きます」皇帝の言葉を遮るように彼女は続けた。「この王国から姿を消し、二度とこの地に足を踏み入れることはありません」
皇帝はしばし言葉を失い、彼女を引き止めるための言葉を探しあぐねた。「セラフィナ、そこまでしなくても——」
「陛下が一番よくご存じのはずですわ」セラフィナは言葉を切り、その声に鋭さを帯びさせた。「私が無能で、魔力もなく、皆が口を揃えて言う通りの『足手まとい』なのだとしたら……」
彼女は言葉を止め、地下牢から出て以来初めて、皇帝の顔をまっすぐに見据えた。
「それなら、なぜ私を縛り付けておくのですか? それともお父様は、次の機会にまた私を『身代わり』として仕立て上げるために、手元に置いておきたいとでもお思いですか?」
その問いかけが周囲の空間に響き渡った。聞き届ける距離にいた者たちは皆息を呑み、身動き一つせず言葉を失った。
皇帝は立ち尽くしたまま、何かを言おうと口を開いたものの、一言も言葉を発することができなかった。普段は表情を崩さないその顔には、隠しようのない後悔と衝撃が色濃く浮かび上がっていた。
セラフィナはしばらく返事を待ったが、何の言葉も返ってこないのを確認すると、静かに小さく頷いた——まるで、最初から望んでいた答えを得たかのように。
「わかりましたわ」声を潜めながらも、意志の強さを失わない口調だった。
彼女は背を向け、その場を歩き出した。満身創痍の肉体でありながらも、その足取りはしっかりと未来へと刻まれていく。
少し離れたところで様子を窺っていたヘレンが、目に涙を浮かべながら駆け寄ってきた。「お姫様——!」
セラフィナは足を止め、その目にほんのわずかな柔らかさを宿してヘレンを見つめた。その冷徹な瞳に小さな亀裂が入ったのは、今日初めてのことだった。
「一緒に離宮へ戻りましょう」彼女は優しく、しかしどこか本来の彼女らしさを残した声で告げた。
「ヘレン、今夜がそこで過ごす最後の夜になるわ。そして真夜中になったら、王宮の出口の門で私を待っていてちょうだい。最後のお別れをするために。ピタとドークにもそう伝えておいて」




