第52章 : 恐るべき完璧主義
皆がそれぞれの部屋へと引き揚げた後、リゼロットは隠れるように証拠保管室へと忍び込んだ。手に持つ一本の蝋燭の明かりが、長机の上にずらりと並べられた書類や物的証拠の山をぼんやりと照らし出している。
彼女はまずセラエルの手記を手に取り、入念にページをめくった。その表情は、やがて疑念から面倒くさそうなものへと変わっていく。
「どいつもこいつも愚か者ばかりね」心の中でそう吐き捨て、彼女は手記を置くと別の書類へと手を伸ばした。
「一つひとつの証拠をバラバラに切り離して見れば、どれも中身はスカスカで、論拠としてはあまりにも軽すぎる。その一方で、一見すると怪しげに見えるものもあったとしても、それだけで誰かを裁く決定打には到底なり得ないわ」
王宮の離宮における兵士の動静に関する報告書を、彼女はもう一度読み返した。
「離宮で孤独に育った7歳の子供なら、好奇心旺盛なのは当然よ。兵士や兄に何を手帳にメモしているのか尋ねたり、非常口や逃げ道について聞いたりしたところで、それは年齢相応の発達過程にすぎないわ。クーデターのためのスパイ活動なんかじゃない。こんな事まで結びつけるなんて、幼少期の歴史の歪曲もいいところね」
書類を置くと、今度は誕生パーティに関する報告書を手に取る。
「誕生日の事故——テーブルクロスが引っ張られたことや、床が滑りやすかったことなど、これらは私が裏で仕組んだことではあるけれど、一般人の常識から考えれば、落ち着きのない子供やまだ身体のバランスが慣れていない年頃ならよくある不手際よ。注目を集めるためにわざと躓いたふりをしたなんて言うのは、大人の都合の良い勝手な妄想の押し付けでしかないわ」
聖職者による魔力検査の報告書へと視線を移す。
「赤い魔力が暴走し、実際に危険を伴ったのは事実よ。だが、それはセラフィナ自身にはどうにもコントロールできなかったものだ。14年間にわたって積もりに積もった恨みから起きたものだと、彼女が無意識のうちに抱えていた魔力の不具合や呪いをこじつけて解釈するのは、人々の恐怖心を煽って彼女を悪者に仕立て上げるための手法にすぎない」
最後に、目撃者の証言録を手に取る。
「10歳の頃の発言に関する証言ね。何年も前の、何の書面記録も残っていない子供の言葉なんて、使用人たちが聞きかじった程度のものでしかない。いくらでも尾ひれをつけられるし、盛大な勘違いだって起こり得るわ。口頭の証言なんて、証拠としての価値が一番低いものよ」
彼女はすべての書類を机に置くと、別に分けて置かれていた残りの三点へと向き直った——「内容が書き換えられたセラエルの手記」、「暗号が刻まれた古い腕輪」、そして「セラフィナの過去の実際の行動を、悪質な計画書へと丸ごとすり替えて新しく書き直した陰謀の計画ノート」だ。
彼女は小さく息をつき、三冊の手記を机の上に綺麗に並べた。「もし議会の貴族どもが少しでも頭を使って、証拠を一つひとつ冷静に切り分けて吟味すれば、こんなものたち秒でボロが出て崩れ去るわよ。穴だらけのガバガバじゃない」
彼女は顔を上げ、部屋の暗がりへと目を凝らした。「それなのに……あのセネステリアの野郎、よくこんな博打を打てたものね」独り言のようにぽつりと呟いた。
「人間というものはね、筋の通った『物語』が大好きな生き物なのよ」
暗がりの中からセネステリアの声が響き、リゼロットはわずかに肩を跳ねさせたが、すぐに冷静さを取り戻した。
セネステリアが影から姿を現し、その顔にはいつもの不気味でミステリアスな笑みが浮かんでいる。「一つひとつの部品に分解すればくだらないものに見えるかもしれないけれど、それらをひとまとめにして繋ぎ合わせれば、一瞬にして完璧なタイムラインとして組み上がるのよ」
リゼロットは彼女を値踏みするようにじっと見つめた。「なるほどね……すべてのピースが一直線に綺麗に並べられていれば、部外者から見れば『最初から計画的に仕組まれていたこと』にしか見えなくなる。その一貫性があるからこそ、人間は簡単に信じ込みちまうってわけね」
「その通りですわ」セネステリアは頷き、近くにあった椅子に優雅に腰を下ろした。
リゼロットは言葉を継いだ。「もしおかしな出来事がせいぜい一回や二回しかなければ、人はそれをただの偶然や不運として片付けるわ。だけど、これほど膨大な量の証拠が山積みにされていたら、人間の脳は『確証バイアス』ってやつで働き始める。最初の証拠を見た時点で、あとに続く証拠のすべてが『世の中に偶然なんてない、すべてはこの女の計算通りだ』という方向へと頭を引っ張っていくのよ。結果として、『あれはただの事故だ』なんて言い訳は、誰の目にも単なる見え透いた嘘に映るようになるわけだ」
「呑み込みが早くて助かりますわ」セネステリアの笑みがさらに深まる。
「だけど、どう転がってもリスクが高すぎるわよ」リゼロットはなおも追及した。視線は机の上の証拠品から離さない。「あんな狂気じみたマネをしておいて、遅かれ早かれいつかは尻尾を掴まれるに決まっているわ」
セネステリアは椅子の背もたれにふっそりと体重を預け、まるで日常の他愛のない世間話でもするかのようにリラックスした態度を崩さない。「私の目的は彼女を処刑台に送ることではありませんからね。それに、まだ見つかっていない新しい証拠が発見されたり、あらかじめ用意された身代わりが現れたりすれば、いずれにせよ彼女はいずれ釈放されることになりますのよ」
「もし、まだ見つかっていないはずのその『新しい証拠』ってやつに、誰かが疑いの目を向けたらどうする気よ?」リゼロットは挑発するように言った。「これまでの証拠も、これからの証拠も、一瞬ですべて水泡に帰すことになるわよ」
セネステリアは意味深な笑みを浮かべたまま答える。「そこにあるノートを開いてご覧なさいな」
リゼロットは表紙の新しいその計画ノートを手に取り、慎重にページをめくった。紙の質感とインクの染み込み具合を、その目にじっくりと焼き付けるように凝視する。
「なによこれ……表紙は新しいくせに、インクの滲みや掠れ具合が、まるで本当に長い年月を経て使われてきたみたいに見える……」彼女はさらに顔を近づけ、指先で紙の表面をそっと撫でた。
「古い羽ペンや昔の万年筆を使って、古い紙に文字を書けば、インクは紙の繊維に沿ってわずかに滲むものよ。ページをめくるごとに、まるで時間が経過したかのようにインクの馴染み方が変化している……」
彼女は最後のページへとパラパラと捲り、最初のページと比較してみせる。「そこかしこに微細な埃があり、指先から移ったわずかな油分の汚れや、自然についたような小さな染みがある。ページの紙質もしっとりとしていて、隅には見事に折り目がついているわ」
リゼロットはわずかに震え始めた手で計画ノートを机に置き、代わりにセラエルの手記を手に取った。追加の文字が書き加えられたページを開く。
彼女はインクの線の細部を徹底的に観察した。セラエルが生きていた頃に書かれた本来の文字と、後から書き足された文字とを交互に見比べる。「昔の文字と、後から継ぎ足された文字……インクの濃さにわずかな違いがあるけれど、それはまるで、当時のインク瓶の底をかき混ぜて使ったかのような絶妙な掠れ具合だわ」
彼女は文字が重なっている部分を指でそっと撫でた。「古い線の上から新しい文字が上書きされているのに、乾いたインクの盛り上がりや層が、何年も前に新しいインクが完全に乾ききってからピタリと馴染んだかのように自然に見える」
彼女は手記を蝋燭の光にかざし、ページごとのインクの色合いを執念深く観察した。「昔のインクは、七、八年という歳月が経つとこんな風に薄く黄褐色に変色していくものだけど……」
彼女は顔を上げ、恐怖と不信感が入り混じった眼差しでセネステリアを射抜いた。「あんた、このインクの経年変化の色合いまで完璧に再現したって言うの……?」
セネステリアは椅子に座ったまま微笑みをたたえ、その質問に対してこれといった驚きの色も見せない。「細部に宿るリアリティこそが、すべての信頼性を決めるのですわ、奥様。何かを成し遂げたいのなら、完璧にやり切るか、あるいは初めからやらないかのどちらかですわね」
「これだけのものを完璧に偽造するために、どれだけの時間を費やしたわけ?」リゼロットの声には、次第に警戒の色が色濃くにじみ出ていた。
「それなりに時間はかかりましたわ」セネステリアは含みを持たせた言い方をする。「ですが、得られる結果に見合うだけの価値は十分にありましたわね、違いますこと?」
リゼロットは手記をゆっくりと机の上に置き、目の前のセネステリアを先ほどとは全く違う目で見つめ始めた。
彼女はこれまで、自分こそはこの宮廷において誰にも負けない謀略とハッタリの専門家だと自負していた。だが、目の前に座るこの女は、自分が持っている技術の遥か上を行く領域に達しているのだと、今まさに思い知らされていた。
「これほどの執念を注ぎ込んで、人間離れしたレベルで完璧な偽の証拠を作り上げるだなんて……」彼女は心の中で呟いた。称賛と悪寒が入り混じったドロドロとした感情が胸の内にわき起こる。「こいつは、私が思っていたよりもはるかに危険な人間だわ……一刻も早く、本来のセネステリアを取り戻さなきゃならない。あの『野望の罪』に魂を乗っ取られている今のセネステリアを何とかしないと……」
「それで、あんたが用意した『身代わり』ってのは一体誰なのよ?」リゼロットは最後にそう切り出した。
セネステリアはフッと笑みを深くし、優雅に椅子から立ち上がった。「それを今教えるのはお楽しみというものですわ、奥様。内緒にしておいたほうがサプライズとしては効果的でしょう?」
彼女は出口の扉へと歩きかけ、途中で足を止めると振り返った。「ですが、奥様ご心配には及びませんわ。すべては計画通り、隙なく進んでおりますから——先ほどご覧になったあのノートの通りにね」
セネステリアは闇の中へと歩み去り、リゼロットを一人、常軌を逸した完璧な証拠の山と共にその場に残していった。
静まり返った部屋の中で、リゼロットは閉ざされた扉をぼんやりと見つめたまま立ち尽くしていた。
「本当のセネステリアの原初は深い闇の底に眠っているというのに……今この身体を動かしているこいつは、私のこれまでの人生で一度も出会ったことがないほど、気味が悪いくらいの卓越した手腕を持っている」
彼女は周囲の証拠品を注意深く元の場所へと片付け、それから重苦しい足取りで部屋を後にした。入ってきた時よりも、頭の中ははるかに重い思考で埋め尽くされていた。
「このゲームは、私が思っていたよりもずっと、はるかに厄介な迷宮に入り込ちまったらしいね」




