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第49話 : 王宮本殿での暮らし

儀式での出来事から二日後、セラフィーナは見慣れない部屋で目を覚ました。


天井は離宮よりもはるかに高く、朝の陽光が薄い絹のカーテン越しに柔らかく差し込んでいる。


彼女はしばらく横になったまま、自分がどこにいるのかを思い出そうとした。


やがて、儀式での記憶が少しずつ蘇ってくる。


砕け散った結晶。


赤い光。


そして、名前すら付けられないほどの激痛。


「お目覚めになりましたか?」


ベッドの傍らからヘレンの声が聞こえた。


彼女は見守るために座っていた椅子から、慌てて立ち上がった。


「ヘレン……」


セラフィーナは掠れた声で尋ねる。


「ここは、どこですか?」


「王宮本殿です。陛下が、完全に回復するまでこちらで休むようにとお命じになりました」


それから間もなく、皇帝自らが見舞いに訪れた。


その表情には、普段はあまり見せることのない強い心配が浮かんでいる。


「具合はどうだ?」


皇帝はそう尋ねながら、ベッドの傍らへ腰を下ろした。


「もう大丈夫です。ただ、まだ少し身体に力が入らなくて……」


セラフィーナが答える。


「宮廷医師によれば、もうしばらく療養が必要だそうだ」


皇帝は心配そうな声で続けた。


「しばらくは王宮本殿で休みなさい。完全に回復するまで、ここにいるんだ」


セラフィーナは頷いた。


まだ状況のすべてを理解できているわけではない。


それでも、父から向けられる心配と優しさに、胸の奥が温かくなるのを感じていた。


その日の午後、セネステアが大きな花束を持って見舞いに訪れた。


その笑顔は、いつもと変わらず温かい。


「セラちゃん!」


セラフィーナが目を覚ましている姿を見た瞬間、彼女は声を上げた。


「目を覚ましてくれて、本当に嬉しい! すごく心配したんだからね」


「ありがとうございます」


セラフィーナは笑顔で答えた。


「みんなに心配をかけちゃって……ごめんなさい」


「謝らなくていいんですよ。セラちゃんは何も悪くないんですから」


セネステアは花束をベッド脇のテーブルへ置き、いつもと変わらない自然な仕草で隣に腰を下ろした。


そこには、前夜に交わされた秘密の会話を示す痕跡など一つもない。


セラフィーナの目には、すべてが以前と何も変わっていないように見えていた。


「いったい、私に何が起きたんですか?」


セラフィーナは尋ねた。


その声には、困惑が滲んでいる。


「覚えているのは赤い光が見えたことと、それからすごく痛かったことだけです。その後のことは、何も覚えていません」


セネステアは少し黙ってから答えた。


「誰にも、まだはっきりしたことは分かっていないんです。司祭や専門家の方々が調べていますけど、まだ明確な答えは出ていません」


「あの力はいったい何だったんでしょう。私には、今まで魔力なんて一度もなかったのに……」


「だからこそ、みんな混乱しているんですよ」


セネステアは答えた。


その表情には、本当に心配しているような色が浮かんでいる。


「でも、今はそんなに心配しなくて大丈夫です。今、一番大切なのは、セラちゃんが元気になることですから」


セラフィーナは、少しずつベッドから起き上がれるようになった。


まだ身体には多少の力が戻っていないものの、彼女は部屋のバルコニーに座り、王宮の庭園を眺めていた。


そこは、離宮にあった小さな庭とは比べものにならないほど広大だった。


イセキエルは、いつものように新しい本を持って見舞いにやって来た。


今では二人とも、もう隠れて会う必要はない。


「これ、読んでみて」


彼はそう言いながら本を差し出した。


「たぶん、気に入ると思う」


「ありがとうございます」


セラフィーナは本を受け取り、表紙を眺めた。


「壁に叩きつけられたときの腕、まだ痛むんですか?」


「まだ少し痣は残ってるけど、大丈夫だよ」


イセキエルは答え、隣の椅子へ腰を下ろした。


日々は少しずつ過ぎていった。


セラフィーナは、離宮とは大きく異なる王宮本殿での暮らしに、少しずつ適応していった。


毎朝、何人もの侍女たちが彼女の身の回りの世話をしてくれる。


部屋も以前よりずっと広い。


それでも、彼女には恋しく感じるものがあった。


「離宮が恋しいですか?」


ある日、ヘレンが服を整えながら尋ねた。


「恋しいです」


セラフィーナは素直に認めた。


「ここはずっと豪華ですけど……あまり家って感じがしないんです」


「それも無理はありませんよ。ずっと離宮で育ってきたのですから」


モヴェンとカリステールは、セラフィーナが療養している間、何度も見舞いに訪れた。


二人で一緒に来ることもあれば、それぞれ別々に訪れることもあった。


「このラベンダー茶、飲んでみてください」


モヴェンはそう言いながら、彼女のために茶を注いだ。


「気持ちが落ち着きますよ」


セラフィーナは茶を受け取り、口をつけた。


淡い香りが鼻を抜け、心が少し穏やかになる。


「美味しいです。ありがとうございます」


少し離れた場所では、カリステールが座っていた。


彼は以前よりもずっと温かな眼差しでセラフィーナを見つめる。


「お前は本当に強い子だな。あんなことを経験して、それでもこうしていられるんだから」


「ありがとうございます」


日常生活は何事もなかったかのように過ぎていった。


それでも、あの謎の力についての疑問だけは、セラフィーナの心から離れなかった。


ある夜、彼女は部屋の机に座り、持ってきていた自分の日記帳を見つめていた。


『あの力はいったい何だったんだろう』


彼女は日記にそう書き込んだ。


しばらくペンを止めたあと、再び書き始める。


「どうしてあのとき現れたんだろう。どうして、最初から起きるはずのなかったあの儀式をしていたときだったんだろう」


セラフィーナはペンを置いた。


そして、真っ暗な窓の外を見つめる。


これらの疑問には、まだ明確な答えがない。


それでも彼女には、それを簡単に放置してはいけないほど重要なことだという気がしていた。


宮廷医師はまだ、療養中のセラフィーナが剣の稽古をすることを許していなかった。


そのため、普段通りに身体を動かせないことに、彼女は息苦しさを感じていた。


「もう、今にも稽古したくてたまらないです」


ある日、セラフィーナはイセキエルに愚痴をこぼした。


「もう少しだけ我慢しよう」


彼は微笑みながら答える。


「まずは身体を完全に回復させないと」


「でも、なんだか色々なことをたくさん逃している気がします」


「逃してなんかないよ」


イセキエルは慰めるように言った。


「元気になったら、また今まで通り一緒に稽古しよう」


一週間、また一週間と過ぎていった。


セラフィーナは少しずつ回復していき、ついに宮廷医師から、普段の活動を少しずつ再開してもよいという許可が下りた。


リゼロットも時折、見舞いに訪れた。


いつものように優しく話しかけてくる。


その姿には、彼女が抱えている困惑も、背後に隠された計画も、何一つ表れていなかった。


「皇女殿下がお元気になられて、本当に嬉しいですわ」


ある日、リゼロットはそう言いながら、果物の籠を差し出した。


「ありがとうございます」


セラフィーナは礼儀正しく答えた。


リゼロットに対して以前から感じていた、どこか奇妙な感覚は今も心の奥底に残っている。


けれど、療養中の今では、それについて考えることも以前ほど多くなくなっていた。


やがて身体が完全に回復すると、セラフィーナは再びイセキエルと剣の稽古をすることになった。


場所は、王宮本殿の庭園だった。


「なんだか変な感じですね。離宮じゃなくて、ここで稽古するなんて」


セラフィーナは構えを整えながら言った。


「まあ、そうだな」


イセキエルが答える。


「でも、こっちのほうがずっと広いだろ。もう肘を壁にぶつける心配もしなくていい」


二人は昔の記憶を思い出し、笑い合った。


そして、いつも通りに稽古を始める。


二人の間にある慣れ親しんだ関係も、これまで築いてきた絆も、何一つ変わっていなかった。


ある涼しい夜。


セラフィーナは部屋のバルコニーに座り、空に浮かぶ星を眺めていた。


離宮から見ていたものとは違う星空だった。


彼女は、この数週間の間に起きたすべての出来事を思い返す。


謎の力に対する疑問。


少しずつ強くなっていく家族からの温かな愛情。


そして、まだ慣れなければならない、自分の生活の変化。


「王宮本殿での暮らしも、悪くないかも」


彼女は心の中でそう思った。


離宮での素朴な暮らしをまだ少し恋しく思いながらも、ここでの生活にも少しずつ慣れ始めていた。


「でも、あの力についての疑問は……いつかきっと、答えを見つけないと」


セラフィーナはしばらくの間、夜空の星を眺め続けた。


やがて立ち上がると、静かにベッドへ向かって歩いていった。

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