第47話 : 試験結果
セラフィーナは儀式台へと歩み寄った。司祭長は石造りの台座に埋め込まれた、大きな透明な結晶のような形をした装置を彼女の前へ差し出し、手を置くよう促した。
「両方の手のひらを結晶に置いてください」司祭は指示した。「そして心を落ち着かせ、力を抜くのです」
セラフィーナは慎重に言われた通りにした。両手をひんやりと冷たい結晶の表面へ置く。不安から、心臓が激しく鼓動していた。
儀式が始まった証のように、結晶が淡い金色の光を放ち始める。部屋にいる全員が、期待を込めた眼差しで儀式台を見つめていた。
しかし、放たれていた金色の光は、異常なほど急速に濃い赤色へと変化していった。
「これは……」
司祭は驚愕したように呟き、すぐさま後ずさった。
結晶は次第に激しく振動し始めた。表面には小さな亀裂が次々と現れ、その亀裂から濃い赤色の光が、まるで血が溢れ出すかのように噴き出していく。
「今すぐ離れてください!」
司祭が驚愕の声を上げた。
しかし、セラフィーナは自分の手が結晶に張り付いていることに気づいた。引き離そうとしても、どうしても動かすことができない。まるで何かに強く引き留められているかのようだった。
観衆の中に立っていたリゼロットは、目の前で起きている出来事を、異様なほど冷静な眼差しで見つめていた。
「計画では、この結晶が破裂して、彼女に皆の前で恥をかかせるはずだった。彼女には何の力もないということを、はっきりと示すために」
彼女は心の中でそう考えながら、次第に激しさを増していく赤い光を見つめた。
「でも、これは……計算していたよりも、あまりにも激しすぎる」
初めて、その顔に浮かんでいた自信が揺らいだ。
結晶が轟音とともに粉々に砕け散った。
濃い赤色の光が、まるで果てのないエネルギーの波のように、あらゆる方向へ一気に放たれていく。
「早く避けろ!」
あちこちから叫び声が上がった。
儀式台の近くに立っていた貴族たちは、エネルギーの波に吹き飛ばされて次々と床へ倒れた。中には壁へ叩きつけられる者もいる。苦痛に呻く声と、器具が砕け散る音が交互に響き渡った。
セラフィーナは、赤いエネルギーの嵐の中心に立っていた。
両手はいまだに砕け散った結晶の欠片へと張り付いたまま。彼女の顔には、恐怖と困惑がありありと浮かんでいた。
「何が起きているんだ!」
イセキエルが叫びながら助けに駆け寄ろうとする。しかし、エネルギーの波があまりにも激しく、近づくことすらできなかった。
皇帝はすぐさま玉座から立ち上がり、極度の驚愕を浮かべながらセラフィーナを見つめた。
「セラフィーナ!」
セラフィーナの身体から噴き出している赤いエネルギーは、次第に奇妙な形を取り始めていた。
それは、これまで誰も見たことのない、通常の魔法とは明らかに異なるものだった。
まるで自ら意思を持っているかのように、歪み、ねじれ、形を変え続けている。その動きには、何一つとして規則性がなかった。
セラフィーナは、全身を駆け抜ける凄まじい激痛を感じていた。
まるで何かが、身体の内側から自分の魂そのものを引き裂こうとしているかのようだった。
「やめて!」
彼女は絶叫した。
それでも、エネルギーは止まることなく噴き出し続ける。
何人もの司祭が事態を鎮めるための魔法を唱え、状況を制御しようと試みた。
しかし、セラフィーナから放たれるエネルギーは、彼らの手に負えるほど生易しいものではなかった。
「こんなエネルギー、記録には一度も存在しない!」
一人の司祭が、恐慌に陥った声で叫んだ。
カリステールは負傷した貴族たちを危険区域から急いで引き離していく。モヴェンはセネステアを強く抱き締め、危険すぎる場所へ近づかないようにしていた。
セネステアは、赤いエネルギーの嵐の中で苦しみ続ける妹を、驚きと極度の不安に満ちた眼差しで見つめた。
「セラちゃん!」
リゼロットと、本当の困惑
混乱の渦中にありながら、リゼロットだけはその場から動かなかった。
かつては揺るぎない自信に満ちていたその表情に、初めてはっきりと困惑の色が浮かんでいた。
「こんなの、私が計画していたことじゃない」
彼女は心の中で呟きながら、セラフィーナの身体から止めどなく噴き出している赤いエネルギーを見つめる。
「私はただ、結晶が少しだけ破裂するようにしたかった。彼女が恥をかく程度に。それなのに、どうしてこうなったの? このエネルギーはいったい何なの? どうして、こんなにも激しいの?」
これまで彼女の顔に現れたことのなかった不確かな感情が、隠そうとしても隠しきれないほど露わになり始めていた。
赤いエネルギーは次第に一つの形へと集まり始めた。
それは巨大な槍のような形へと変化し、次の瞬間、明確な方向性すら持たないまま、最も近くにいた人々へ向かって突き進んだ。
「危ない!」
叫び声が響いた直後、エネルギーの槍が出口付近に立っていた貴族たちの集団へと襲いかかった。
皇帝は一瞬の判断でその前へ飛び込み、間一髪のところで防御魔法を展開した。
エネルギーと防御障壁が激突し、再び凄まじい爆発音が部屋中に轟いた。
「全員、今すぐこの部屋から出ろ!」
皇帝は威厳に満ちた声で命じた。
セラフィーナは、自分の身体から流れ出続けるエネルギーを制御しようとした。
しかし、抑えようとすればするほど、エネルギーはますます制御不能になっていく。
「やめて……お願い、やめて」
彼女は泣きながら呟いた。
激痛と恐怖が、心を覆い尽くしていた。
赤いエネルギーは再び新たな形を作り始めた。
今度は巨大な輪となり、少しずつその大きさを増しながら、毎秒ごとにより広い範囲を覆っていく。
イセキエルは再び妹のもとへ向かおうとした。
しかし今度は、あまりにも激しいエネルギーの波に吹き飛ばされ、部屋の壁へと叩きつけられてしまった。
「イセキエル!」
リゼロットが本当の驚愕から叫び声を上げ、すぐさま彼のもとへ駆け寄った。
皇帝はセラフィーナの前に立ち、可能な限り強力な防御魔法を展開しながら、エネルギーに傷つけられることなく彼女へ近づこうとしていた。
「セラフィーナ、聞くんだ」
荒れ狂うエネルギーの轟音をかき消すように、皇帝は叫んだ。
「心を落ち着かせるんだ。ゆっくりと呼吸しろ」
セラフィーナは、混乱の中から父の声がかすかに聞こえてくるのを感じた。
押し寄せる激痛の中で、必死にその声へ意識を集中させる。
「息を吸うんだ」
皇帝は続けた。
その声は、どれほど状況が混乱していても揺るがなかった。
「息を吐く。ゆっくりでいい」
セラフィーナは言われた通りにしようとした。
激痛がすべての神経を駆け抜ける中、苦しみながらも深く息を吸う。
赤いエネルギーの動きが、次第に不規則になっていった。
激しく噴き出すこともあれば、わずかに弱まることもある。
それは、彼女の呼吸に合わせるかのように変化していた。
「落ち着かなきゃ……落ち着かなきゃ……」
彼女は心の中で何度も繰り返した。
感情を制御するためのヘレンの教えを思い出す。
算数を教えてくれたときのドルクの顔を思い出す。
そして、自分がこれまで王宮の別邸で過ごしてきた、すべての穏やかな時間を思い出した。
その瞬間だった。
赤いエネルギーが再び変化を始めた。
今度は外へ広がり、破壊を撒き散らすのではない。
セラフィーナ自身へ向かって、急速に収縮し始めたのだ。
「これは、まさか……」
一人の司祭が驚愕した声を漏らした。
しかし、この先に何が起こるのかは、誰にも分からなかった。
すべてのエネルギーがセラフィーナを取り囲む巨大な球体へと集束していく。
そして、その球体は徐々に小さくなっていった。
やがて、巨大なエネルギーの塊は完全にセラフィーナの身体の中へと吸い込まれ、跡形もなく消え去った。
儀式の間は、突然、静寂に包まれた。
そこに残ったのは、荒い呼吸の音と、負傷者たちの呻き声だけだった。
セラフィーナはその場に膝から崩れ落ちた。
身体は激しく震えている。
周囲に散らばった結晶の破片が、部屋に残された蝋燭の光を反射していた。
皇帝はすぐさま駆け寄り、彼女の身体を支えた。
「セラフィーナ、大丈夫か?」
「わたくしは……」
彼女はかすかな声でそう呟いた。
そして、そのまま父親の腕の中で意識を失った。
完全には収まっていない混乱の中、リゼロットは少し離れた場所に立っていた。
負傷したイセキエルを支えている彼女の手は、今もわずかに震えている。
「これは……いったい何なの?」
彼女は心の中でそう呟いた。
皇帝の腕の中で意識を失っているセラフィーナを見つめる。
これまで満ち溢れていた自信が、かつてないほど大きく揺らぎ始めていた。
「あんなエネルギー……私が予想していたものとは、まるで違う。彼女は、皆がずっと信じていたような無力な人間なんかじゃなかった。なら、本当に彼女の中に存在しているものはいったい何なの?」




