第44話 : 祝福の日
十二月三十一日の朝。
王宮の大広間は、これ以上ないほど壮麗に彩られていた。
高天井からは白と金の豪勢な花々が垂れ下がり、無数の燭台の灯火が、部屋全体に飾られたクリスタルのカット面に反射してきらきらと輝いている。
長テーブルは中央の広い舞踏エリアを囲むように美しい U 字型に配置され、夜に控えた舞踏会の準備も万全であった。
広間に集まり始めた貴賓たちのさざ波のような歓談の声が空気に溶け込む中、誰もが今か今かと、本日の主役二人を迎える大扉へと視線を注いでいる。
やがて重厚な大扉がゆっくりと開き、最初に足を踏み入れしたのはセラフィナであった。
輝くばかりのプラチナホワイトの髪は洗練された手際で整えられ、毛先がゆるやかに巻かれている。
ハーフアップのハイポニーテールにまとめられた髪の脇からは、柔らかい一束の後れ毛が彼女の輪郭を可憐に縁取っていた。
頭の左側には白いリボン型のヘアクリップが飾られ、周囲の燭光を受けて密やかにきらめいている。
深みのある紫色の大きな瞳はキラキラと輝き、その表情には可憐さと、自分へ注がれる全視線に対する微かな驚きが入り混じっていた。
ピンクと白を基調としたロリータスタイルのプリンセスドレスが、彼女の一歩ごとにひらひらと揺れる。
レースがあしらわれたピンクのパフスリーブと、胸元に置かれた深紅のリボンが、繊細なフリルの中で鮮やかな存在感を放っていた。
重なり合う多層のスカートからは、レースフリルが覗く白いインナースカートが見え隠れし、弧を描いて開いたピンクのアウタースカートには煌びやかな金糸の刺繍が施されている。
両腰の大きなリボン全体に甘い華やかさを添え、歩くたびにロングスカートの裾が優雅に尾を引いていた。
足元では、足首に繊細なクロスストラップが巻きついたピンクのローヒールが、大理石の床を叩いて軽やかな音を奏でる。
そのすぐ後ろから、セネスティアが続いた。
ダークブラウンの髪はサイドのハイポニーテールに結い上げられ、顔周りの毛束が柔らかに揺れている。
紫のバラとレースで彩られた小さなトーク帽が、頭上にちょこんと完璧なバランスで載せられていた。
くりっとした紫の瞳は眩しいほどに輝き、彼女特有の温かみのある笑顔が溢れている。
白地に紫の縁取りが映えるふんわりとした長袖のトップスには、胸元に鮮やかな紫のハート型ジュエルが輝き、折りたたまれたレースの襟元が上半身に圧倒的な気品を与えていた。
パニエで膨らんだスカートは白、金、紫が見事な調和を見せ、交互に走るラインが立体的な美しさを生み出している。
独特な魅力を放つ紫のクロスストラップと、シアーな紫のオーバースカートが後ろへと長く伸び、裾には淡い紫のバラと濃い紫のリボンが等間隔で飾られていた。
厚底の紫のパンプスに合わせたのは、履き口にフリルレースが施された白い靴下。足首にあしらわれた小さな羽のディテールが、全体の愛らしさを引き立てている。
「なんと……息を呑むほど美しい……」
群衆の中から、ある貴婦人の感嘆の囁きが漏れた。
「お二人とも、甲乙つけがたいほど輝いていらっしゃいますわ」
セラフィナとセネスティアは並んで広間の we 中央へと歩みを進めた。誰もが羨望と賛嘆の眼差しを二人へ向けている。
セネスティアはセラフィナへ温かい視線を向けた。
「準備はよろしくて?」
「ええ……」
緊張を滲ませながらも、セラフィナはそう頷いた。
再び大扉が開かれ、今度はイゼキエルとリゼロットが婚約者として並んで入場してきた。
イゼキエルは白のパイピングと金のボタンが輝く、丈の長い黒のフォーマルスーツに身を包んでいる。
腰に渡された飾りのチェーンが、歩幅に合わせてかすかに揺れた。
白いシャツと黒のネクタイの上に重ねたグレーのベストが、彼に重厚で洗練された佇まいを与えている。
少し跳ねた黒髪とは対照的に、深く鋭い紅の瞳はどこまでも冷静に前方の空かを捉えていた。
白いスラックスと白い革靴が、重厚さと清潔感の絶妙なバランスを保っている。
その隣を歩くリゼロットは、どこまでも柔らかな微笑みをたたえていた。
毛先に向かって淡いグレーへとグラデーションを描く水色の髪がふわりと揺れ、顔周りの髪が彼女の澄んだ大きな青い瞳の愛らしさを際立たせている。
パステルブルーと白を基調としたショートドレス。
袖口にあしらわれた白いファーが暖かみと愛らしさを添え、襟元の大きな青いリボンと肩にかけた白いファーショールが、控えめでありながら極上の気品を醸し出していた。
ふんわりと広がる薄青のフレアスカートの裾には、濃紺のラインが施されている。
腰元に付けられた小さな鈴のオーナメントが、彼女が動くたびに可愛らしくチリンと可憐な音を響かせた。
アシンメトリーな靴下が独特の個性を引き立て、濃紺のローヒールパンプスが、可憐さと気品を同居させた装いを完璧に締めくくっている。
セネスティアが嬉しそうに兄へ手を振ると、イゼキエルは口元をわずかに緩めて頷いて見せた。
セラフィナは近づいてくる二人を見つめた。
リゼロットに対して抱くあの正体不明の違和感は未だ胸の奥に潜んでいたが、それでも彼女は精一杯の誠実な笑顔で二人を迎えた。
「ようこそおいでくださいました」
「ありがとうございます」
リゼロットは優しく微笑んだ。
「お誕生日おめでとうございます、セラフィナ殿下」
間もなくして、みたび大扉が開き、モーヴェンとカリステールが並んで姿を現した。
モーヴェンは、美しいフリルデザインが施された白のオフショルダー長袖トップスを着用し、首元を締めるダークカラーのチョーカーが洗練された美しさを際立たせていた。
豊かなダークブラウンの髪はしなやかに背へと流れ、頭の後ろで結ばれた鮮やかな赤のリボンが髪の中で一際目を引いている。
エメラルドグリーンの瞳には歓喜の光が宿り、重なり合った深紫のミニスカートが歩みに合わせて優美に揺れていた。
その隣を歩くカリステールは、圧巻の存在感を放っていた。
わずかに波打つ漆黒の髪と、頭頂部にすっと立つ毛束が威厳を漂わせている。
左目の下に刻まれた赤い紋様と鋭い紅の瞳が、無表情で傲岸な彼女の顔立ちに妖艶な魅力を与えていた。
頭上には赤い宝石が嵌め込まれた小さな金の王冠が恭しく戴かれている。
肩の羽毛と金の縁取りが眩しい鮮血のような赤のルージュマントが、歩くたびに優雅に翻る。
黒ボタンが並ぶ白いコルセットに黒のスーツジャケットを羽織り、その完璧なプロポーションを際立たせていた。
高くスリットが入った黒のロングスカートには赤の羽毛と金のチェーンが垂れ下がり、極上の華やかさを添えている。
膝まで伸びる白い編み上げソックスと、赤の宝石が埋め込まれた十字架の装飾が、力強くも美しい姿を完璧に完成させていた。
「カリステール様」
セラフィナは恭しく頭を下げた。
「ご出席いただき、ありがとうございます」
「欠かすはずがないでしょう」
カリステールはめったに見せない薄い笑みを浮かべた。
「大切な日なのですから、来るのは当然です」
モーヴェンはセネスティアを優しく抱きしめた。
「おめでとう、我が子よ。本当に美しく育ちましたね」
「ありがとう、お母様!」
セネスティアが満面の笑みを咲かせる。
広間に主要な顔ぶれが揃ったその時、ファンファーレの音が高らかに響き渡った。
広間の中で最も巨大な中央の大扉が、静かに、そして重厚に開かれる。
最後に姿を現したのは、アマラトスであった。
短く跳ねた金髪と、鋭くもどこか神秘的な雰囲気を纏う紫がかったピンクの瞳。
身体に寸分違わず仕立てられたシルバーグレーの軍服風の礼服が、彼の威厳と気品を否応なしに際立たせていた。
二列に整然と並ぶ銀ボタン、襟元と cuffs(袖口)に施された刺繍は芸術品のように精緻である。
両手には白い手袋が隙間なく嵌められ、漆黒のストレートパンツと、グレーの縁取りがされた白いアンクルブーツが、揺るぎない足取りで踏み締められていく。
彼の登場と共に、広間中の誰もが一斉に深く頭を下げた。
彼という存在が放つ絶対的な尊厳によって、空間の空気が一瞬にして凛と張り詰める。
「「「皇帝陛下に敬礼――」」」
唱和するような拝礼の声が広間に響いた。
アマラトスはわずかに頷き、紫ピンクの瞳で室内を見渡すと、中央に立つセラフィナとセネスティアへ視線を止めた。
その口元に、普段めったに見ることのできない微かな笑みが浮かぶ。
「誕生日おめでとう」
静寂に包まれた大広間に、彼の声が心地よく通った。
セラフィナとセネスティアは顔を見合わせ、晴れやかな笑顔で同時に深く一礼を返す。
双子の姫君の十四歳を祝う誕生祭が、豪華な賓客たちの祝福と、それぞれの笑顔の裏に秘められた複雑な思惑と共に、今まさに公式に幕を開けようとしていた。




