第39章 : モーヴェンのある一日
太陽が地平線から顔を出す前に、モーヴェンは目を覚ました。どれほど年月の経とうとも、身についた習慣は変わらない。今となってはセネスティアも十分に成長し、大抵のことは自分でこなせるようになったため、これほど早起きする必要などどこにもないのだが。
彼女は鏡の前に腰を下ろし、時間をかけて丁寧に髪を梳かした。鏡の中に映る自身の姿——時代の流れとともに、微かに刻まれ始めた小さな皺を見つめる。
(私も三十六歳か……)
胸の中で呟き、鏡の中の自分に向かって小さく微笑んだ。その自然な変化に対して、陰りや悲しみを覚えることは少しもなかった。
モーヴェンはいつものように朝食の席へ向かったが、セネスティアはまだ眠っているようだった。そのため、静けさの中で一人で朝食を摂ることにした。
侍女が作法に従って淹れたての温かい紅茶とパンを運んでくる。彼女はゆっくりと紅茶を口にし、高い窓の外へ視線を向けた。朝露をいっぱいに宿した瑞々しい葉が輝く、早朝の王宮庭園の風景が広がっている。
(今日は何をしようかしら……)
彼女は心の中で考える。今日は出席すべき公式の公務は何一つない。帝国の妃としての日常にあって、滅多に訪れない貴重な余白の一日だった。
朝食を終えると、モーヴェンは何年も前から自らの手で慈しみ育ててきた小さな薬草園へと足を運んだ。ここはいわば、彼女にとって最大のささやかな楽しみの場所だった。
彼女は腰をかがめ、最近植えたばかりのラベンダーの苗を観察した。その葉は一週間前よりもずっと青々と茂り、新しい芽を伸ばしている。
「ずいぶんと大きくなったのね……」
昔からそうしてきたように、苗に向かって優しく声をかける。それはセネスティアが幼かった頃からの癖でもあった。
庭師が歩み寄り、一礼を捧げた。「モーヴェン様、本日は素晴らしいお天気で、水やりに絶好の朝にございますね」
「そうね……」モーヴェンは微笑みながら応えた。庭師が控えて手助けをしてくれるものの、彼女は時折、自らの手で水を注ぐその時間を心から愛していた。ジョウロを手に取り、丁寧に水を与えていく。
薬草園からの帰り道、モーヴェンは向かい側から歩いてくるカリステルと鉢合わせした。
「おはようございます」モーヴェンが声をかける。
「おはようございます、モーヴェン様……」カリステルは一礼して応えた。「薬草園へ行かれていらしたのですか?」
「ええ、ラベンダーが綺麗に育ち始めていたのよ。今度摘み取って茶を淹れますから、味わってみてくださいね」
「楽しみにしておりますわ……」カリステルは微笑みを深めた。「……モーヴェン様の淹れてくださるラベンダーティーは、王宮で一番の絶品ですもの」
二人は並んで歩きながら、取り留めのない日常の会話を交わした。思い重苦しい話題など何一つない。長年連れ添い、互いをよく知り尽くした者同士の、穏やかで心地よいひとときだった。
昼食を済ませると、モーヴェンは小さめのプライベートな図書室で読書をして過ごした。ここは、王宮へ足を踏み入れた最初の頃からのお気に入りの場所だ。
読んでいるのは、南部地方の薬草や植物に関する文献だった。彼女はページをめくりながら、興味深い処方箋を見つけると小さな手帳にメモ書きを走らせる。
夕刻が近づいた頃、魔法の講義を終えたセネスティアが図書室へ顔を出した。
「お母様……」彼女は声をかけ、母親の隣へと腰を下ろした。
「今日はどうだったの……?」モーヴェンは本を閉じ、尋ねた。
「いつも通りよ。マエスターがまた新しい課題を出してくださったの」
「大変だったかしら?」
「少しね……でも大丈夫」
モーヴェンは正式に本を置くと、愛娘へ惜しみない視線を向けた。「お母様に話したいことでもあるの?」
セネスティアは一瞬考えると、パッと花が咲いたような笑顔を見せた。「今日、セラちゃんを訪ねたの。彼女、どんどん修練が上手になっているわ」
「それは良かったわね……仲良く過ごせているようで、何よりだわ」
「ええ……」セネスティアは頷いた。「……あの子と出会えて、私、本当によかったと思っているの」
モーヴェンは温かな笑みを浮かべ、セネスティアの髪を優しく撫でた。「お母様も、あなたのことがとても誇らしくて嬉しいわ」
太陽が沈む前、モーヴェンは寝室の外にある小ぶりなバルコニーへと出た。茜色と淡い桃色が混ざり合う黄昏の空を見上げる。
それは、一日の中でモーヴェンが最も愛する時間だった……すべてが闇に包まれる直前の、深い静寂に満ちた時間。
侍女が淹れたてのラベンダーティーを運んできた。彼女はゆっくりとそれを口に含み、立ち上る心地よい香りを深く吸い込んだ。
(このような生活の中にこそ……本当の幸せがあるのね)
過剰な野心も、今ある以上のものを望む欲望も、彼女の心には一切なかった。
その夜、多忙を極める皇帝が珍しく足を運び、共に夕食を囲むこととなった。
「今日はどんな一日だった……?」食事の合間に、皇帝が問いかけた。
「とても穏やかで良い一日でしたわ……」モーヴェンは答えた。「……薬草園の手入れをして、本を読んで、それからセネスティアと少しお話ししましたの」
「良い一日だったようだな」
「ええ……」モーヴェンは微笑みを浮かべた。「……時に、このようなごく普通の日々こそが、思いのほか掛け替えのないものに思えますわ」
皇帝は静かに頷き、それ以上は何も語らなかった。だが、モーヴェンの傍らにいる時の彼の表情は、普段の険しさが抜け、どこか解き放たれた柔らかさを帯びていた。
夕食を終えると、モーヴェンは寝室へと戻った。再び鏡の前に腰を下ろし、身につけていた装飾品をひとつずつ丁寧に外していく。
鏡に映る己の姿を見つめながら、静かに過ぎ去った今日という日を振り返る。
特別めざましい出来事など何一つなかった……けれど、間違いなく素晴らしい一日だった。
彼女はろうそくの火を吹き消すと、ベッドへと入った。一日を通じて積み重なった純粋で温かな満ち足りた心地よさに包まれながら、静かに眠りにつくのだった。




