第35章 : 見抜く者
リセロットは、王宮に到着して以来の過分なおもてなしとご恩寵に対し、正式に感謝の意を捧げたいという名目で、皇帝への謁見を申し出た。
皇帝は謁見室の椅子に腰を下ろし、寸分の狂いもない見事な礼節をもって進み出て、深々と礼を捧げるリセロットの姿をじっと見つめていた。
「リセロット嬢……」皇帝はいつもの淡々とした調子で声をかけた。「余に何か望みでもあるのかな」
「いえ、ただ感謝の意をお伝えしたく参上いたしました……」リセロットは、可憐でどこまでも優しげな笑みを浮かべて答えた。「お迎えいただいて以来、格別のご配慮を賜りましたこと、深く感謝申し上げております」
「余の責務を果たしたまでに過ぎぬ」皇帝は短く返した。
リセロットはそこで怯んだり諦めたりはしなかった。彼女は巧みに磨き上げてきた鋭い観察眼を発揮し、自然な会話の口火を切る。
「陛下は歴史に深いご関心をお持ちだと伺っております……」彼女は柔らかい声で言った。「私どもも過去の出来事には大変興味がございまして。特に、このエンデリアン帝国が建国された折の歴史には強く惹かれております」
「ほう……」皇帝の返答はただ一言のみで、それ以上の興味を示す素振りは見せなかった。
それでもリセロットは退かない。溢れんばかりの自信を込めた声で、さらに言葉を重ねる。「かつて皇国の創世記を記した古記録を読んだことがございますの……初代皇帝陛下がいかにして諸国を一つに束ね上げられたのか、そのご決断の数々には深く感銘を受けました」
「遠い昔の話だな」皇帝はそう言いながら、視線をリセロットへ向けることなく、机の上の執務書類へと落としたままであった。
皇帝はリセロットの放つ一言一言にしっかりと耳を傾けていた。表面上は静かで無関心に見えるものの、その内心ではあらゆる細部を克明に評価し、分析している。
この少女の言葉は、そのすべてが極めて慎重に選び抜かれ、吟味されたものだ……。
一瞬の隙も、計算違いもない……。
まるで完璧に稽古を重ねた演劇の役を演じているかのようであり、自然発生的な会話の体をなしていない。
これまでに数え切れないほどの政治的駆け引きと権力闘争をくぐり抜け、追従や媚態を売る人間を嫌というほど見てきた皇帝にとって、リセロットの発言パターンは、彼女自身が想像している以上に既視感のあるものだった。
しかし、だからといって特に怒りや嫌悪感を覚えているわけでもない……。
(より高い身分や地位を追い求めるのは、人間の業というもの……取り立てて奇異なことでもあるまい)
「陛下は、現在の帝国のご統治についてどのようにお考えでございますか?」リセロットは皇帝の関心を惹きつけられる話題を探ろうと、質問を続けた。
「しかるべき道筋に従って行われているだけだ」皇帝は再び短く答えた。
「陛下は誠に優れたご遠謀をお持ちでいらっしゃいますわ。このように帝国を穏やかで揺るぎないものとしてご統治なさっておられるのですから」
ここで皇帝は、この会話の中で初めて顔を上げ、リセロットを正面から見据えた……その双眸は無表情で静まり返り、同時に底知れぬ深みをたたえている。
「嬢は、この余と国家の統治について議論しに参ったのか?」皇帝は尋ねた。その声に明確な感情の色はない。
リセロットは一瞬の手落ちを察知し、すぐさまスマートに言葉を修正した。「滅相もございません……ただ関心があり、より多くを学びたいと存じただけでございます」
「そうか……」皇帝はそう言うと、再び机上の書類へと視線を戻した。
「嬢にも、他に片付けるべき務めがあるのではないか?」皇帝がついに発したその言葉は、穏やかでありながらも決定的な会話の終了を告げる合図であった。
「はい……」リセロットは恭しく頭を下げた。「お忙しい中、貴重なお時間を割いていただき感謝申し上げます」
彼女は身を起こすと、礼儀作法に従って優雅な動作でゆっくりと部屋を退出していった。謁見室のドアが閉まる間際、彼女はもう一度だけ皇帝に向かって笑みを浮かべて見せた。
皇帝は小さく頷いてそれに応えると、すぐさま目の前の書類へと意識を戻した。まるで、今交わされたばかりの会話など、自身の心に何の足跡も波紋も残さなかったかのように。
静まり返った室内で、皇帝は一人佇んでいた。片手には羽根ペンを握り、もう片方の手は書類の上に添えられている。
(この娘……非常に賢悪で、野心が勝っておるな)
皇帝は心の中でそう評したが、その事実に驚きも動揺もしなかった。数十年におよぶ治世の中で、この手の人間など腐るほど見てきたからだ。
だが、それが悪だというわけでもない。この王宮に足を踏み入れる者は誰もが、それぞれの目的と望みを抱いているものなのだから。
皇帝はそれ以上深く考えることもなく、目の前の公務へと戻った。百戦錬磨の統治者の目から見れば……若い者の抱く野心など人間の業の一部に過ぎず、ことさらに警戒すべき危険な代物でもない。
その野心がしかるべき一線を越えぬ限りは……自ら介入したり、心を乱したりする必要など微塵もないのだから。




