第23章:急を要する計画
翌日の朝、一睡もできなかったリゼロットは、新しい窓に取り替えられた自室の中を行ったり来たりと歩き回っていた。窓枠にはまだ塗られたばかりのペンキの匂いが微かに残っている。修理を命じられた使用人たちには、音を立てず、余計な質問を一切しないよう厳命してあった。
彼女は自分の爪の先を噛み、赤くなった指先を見つめながら、新しくなった窓を警戒に満ちた目で睨みつけた。
「最悪だわ、最悪すぎる……あんな危うい連中に目をつけられるなんて」
彼女は独り言を呟く。
「あのふしだらなエリインめ。ただの売れっ子かと思いきや、犯罪組織の情報網の端くれだったなんて。自分の体を餌にして情報を集めるなんて卑劣で哀れな女だ。すっかり引っかかったわ。『色欲のエリイン』と呼ばれるだけでなく、裏の世界では『狂乱の女神』とも恐れられている存在……くそっ、あの時うろたえて余計なちょっかいを出さなければよかったわ。しかも、その正体は十七年前に処刑されたはずの第一皇女、『リノセロンテ』だなんて……」
彼女は突然足を止め、両手でこめかみを押さえた。
「一刻も早く計画を早めなければ。一刻も早く王宮の中に入り込まなければならないわあそこなら、あんな女たちも簡単には手出しできないはずよ」
だが、すぐにその場で大きく深呼吸をし、ぐっと目を閉じた。
「……いや、落ち着いて、リゼロット」
彼女は低く、自分自身に言い聞かせるように呟く。
「あなたはこの程度のことでパニックを起こすようなタマじゃなかったはずよ」
彼女が目を開けると、先ほどまで宿っていた恐怖の色は消え失せ、再び冷徹な落ち着きを取り戻していた。
「たとえ殺されたところで、この『力』さえあれば、何度でも蘇ることができるんだから」
彼女はドレッサーへと歩み寄り、新しく新調された、まだ見慣れない鏡に自分の姿を映し出した。
体は完全に元の状態に戻っており、かすり傷一つ残っていない。まるで昨夜の惨劇など初めから存在しなかったかのように。
だが、記憶だけは鮮明に焼き付いていた。痛みを感じる間もないほどの瞬時の死、その後に訪れた漆黒の闇、そして朝の光が差し込む前にその暗闇から再び目覚めたときの感覚。
(この能力はまだ十分に機能している。……だけど、過信して何度も試すべきじゃないわね)
リゼロットは隠し場所から手帳を取り出し、昨夜書き留めたページを開いた。そして、元々立てていた本来の計画に目を落とす。
——《当初の計画》:美術を話題にして時間をかけ、ゆっくりと殿下の心証を良くしていく。適切なタイミングをじっくり待つ。
彼女はその一行に容赦なくペンでバツ印をつけ、より素早い筆跡で新たな文字を書き殴った。
——《新たな計画》:一刻も早く実行に移す。優雅に待っている時間など残されていない。
彼女はしばらくの間、指先でテーブルをリズミカルに叩きながら考え込んだ。
「昨夜のレナの出現はいったいどういう意味だったのかしら? あれだけ周到に隠れていた私の正体を、どうしてあいつらは突き止めることができたの? もしかして、彼女はただ私を脅すために現れただけで、本当に殺すつもりなんて最初からなかったの……?」
その仮説に行き着いた瞬間、彼女の動きがピタリと止まった。
もしレナが本気で彼女を完全消滅させるつもりだったなら、あの復活の力が発動する隙すら与えなかったはずだ。
「それとも……あいつは私の『蘇生能力』の存在に気づいていない?」
彼女の口元に、かすかな笑みが戻ってきた。自信が再び血管を巡り始める。
リゼロットは立ち上がり、再び窓辺へと歩み寄った。青く晴れ渡った朝の空には、昨夜の嵐や雷の痕跡など微塵も残っていない。
「この屋敷に留まり続ければ、私は格好の標的でしかないわ。だけど、王宮の中に入ってしまえば話は別よ。皇帝陛下の厳重な警備と高い壁は、私にとって最高の盾になる。たとえあの『白藍の竜』レナがどれほど化け物じみた強さを持っていこうとも、王宮の奥深くまで単身で踏み込むのは、ヴェレンコート家の屋敷のようにはいかないはずだわ」
「イゼキエル殿下に私を選ばせるの。……できるだけ早く、一刻も早く」
彼女は部屋の外に控えていた信頼できる使用人を呼び入れた。
「追加で調べてほしいことがあるの」
リゼロットは、いつもの愛らしいお嬢様のトーンに戻した声で命じた。
「殿下の今週のスケジュールについてよ。どこに行き、何をされるのか、詳細をすべて」
「かしこまりました、お嬢様」
「それと」リゼロットは付け加える。声の温度がわずかに下がった。「もし姉様たちが私のこと聞いてきたら、『昨夜は眠れなくて少し体調を崩している』とだけ答えて。余計なことは一切口にしないでちょうだい」
使用人は深く頭を下げると、静かに部屋を退出していった。
リゼロットは再び椅子に腰掛け、新しい窓の外をじっと見つめた。
脳裏に、レナの冷徹な姿が焼き付いて離れない。冷たい宝石のような青い瞳、人を殺すことを何とも思わない淡々とした声音。
「『白藍の竜』レナ……この名には、私が思っている以上の意味が隠されているに違いないわ」
彼女は、レナが直前に口にした奇妙な言葉を思い出した。まるで古びた暗号のような一節。
——《黄金の空が輝く時、人民こそがこの国の主なり》
(いったい、あれはどういう意味なの……?)
だが、今はその謎に深入りしている暇はない。「そんなことは後回しよ。今はとにかく、王宮へ入る計画を成功させることだけに集中しなさい」
その日の午後、使用人は頼んでいた情報を持ち帰ってきた。
「イゼキエル殿下は、来週王宮内で開催される芸術展覧会におもむかれるご予定とのことです。殿下が毎年必ず足を運ばれる、お気に入りの催し物でございます」
その言葉を聞いた瞬間、リゼロットの唇に完璧な笑みが浮かんだ。
「芸術展覧会、ね……」
彼女は呟いた。
「それなら、最高の舞台だわ」
彼女の頭の中で、すでに次の駒の配置が始まっていた。持ち込む絵画の選定、言葉を交わすベストな立ち位置、そして最も無垢に見える表情の作り方。
「今度は絶対に失敗しないわ。そのためには、何を犠牲にすることになってもね」
彼女は再び窓の外へと視線を向けた。何事もないかのように穏やかな昼下がり。嵐の訪れを予感させるものは、もうどこにもなかった。




