第15章:あの日、その前
カリステール — 十三年前
カリステールが初めて王宮の門をくぐったのは十七歳の時だった。皇帝の第一皇妃として——当時はまだ、重圧を背負った皇太子だった彼のもとへ。
最初の年は、ただひたすら掟と作法を学ぶ日々だった。完璧な所作、厳格な礼儀、そして全身にのしかかる巨大な重圧。ある晩、晩餐会でほんの些細な作法を誤り、有力な老貴族に公衆の面前で激しく叱責された。カリステールは部屋に戻り、一人で泣き明かした。
その凍てつくような夜、彼女の心を癒やしにやってきたのは夫である皇太子ではなかった。温かい紅茶を差し出してくれた、一人の侍女だった。
「誰もが間違いを犯します。あの方たちの言葉など、気に病む必要はありませんよ」
その優しい言葉は、十数年経った今でもカリステールの心に深く刻まれている。
モーヴェン — 十一年前
カリステールの四つ年後にやってきたモーヴェンを、最初に出迎えたのはカリステールだった。親密とは言えないまでも、誠実で丁寧な歓迎だった。
「分からないことがあれば、いつでも聞きなさい。ここは厳格な場所だけれど、学ぶことは不可能ではないわ」
モーヴェンは感激した。噂では第一皇妃は冷酷だと言われていたからだ。二人は親友にはなれなかったが、同じ運命を背負う者同士、互いに深い敬意を抱くようになった。
セラエル — 九年前
最後に来たのは、最も若いセラエルだった。彼女が到着した時、カリステールとモーヴェンは二人揃って出迎えた。
「ようこそ。何かあれば、いつでも頼りなさい」
セラエルは微笑んだが、その瞳には隠しきれない不安が宿っていた。派閥争いや競争が渦巻く王宮で、三人の関係は脆く、繊細だった。
変化の時 — 四年目と五〜六年目
セラエルは徐々に孤立し始めた。招待状の数、公の場での扱い……彼女は次第に心を閉ざすようになった。ある夜、庭で独り月を眺めるセラエルに、モーヴェンが寄り添った。
「馴染めなくて、寂しいのね」
「……ええ」
「私も最初はそうでした。でも、時間をかけて向き合えばきっと分かち合えるわ」
後日、カリステールもまた、セラエルの部屋を直接訪ねた。「何か悩みがあるなら言いなさい」
「私は……この場所に相応しくないのです。政治も、駆け引きも、あなたたちのように上手くできない……」
カリステールは静かに微笑み、肩に手を置いた。「私だって、最初に来た時は同じことを思っていたわ。誰だって、最初から完璧になんてなれないものよ」
転機:嵐の夜
三人を変えたのは、あの大嵐の夜だった。王宮の一部が損壊し、セラエルの部屋にも雨が降り注いだ。カリステールとモーヴェンは即座に駆けつけ、雷鳴と激しい雨の中、泥だらけになりながら荷物を運び出した。
「突っ立ってないで、早く手伝いなさい!」カリステールが侍従たちを叱咤し、三人で力を合わせて朝まで戦った。
嵐が去った後、ずぶ濡れのまま仮設の部屋で休んだ。その時、初めて三人は本音で語り合った。
「もう……運命がどうであれ、私たちはここで同じ苦しみを分かち合う仲間ね」
その夜、三人の間に真の絆が生まれた。
七年目と八年目:運命の日
七年目、平和な日常の中で、カリステールは呟いた。「いつか子供たちが生まれたら、私たちのようにならず、仲良く育ってほしいわね」
だが一年後、セラエルの妊娠と、それが命を削るものであることが判明した。カリステールとモーヴェンは必死に止めた。
「命を捨ててまで選ぶ道ではないわ!」
しかしセラエルの決意は固かった。「二人とも、私の大切な友だちです」
セラファナが生まれた夜、セラエルは帰らぬ人となった。
カリステールは五歳のイゼキエルを抱きしめ、涙を隠して言った。「悲しいことがあるのよ」
モーヴェンは生まれたばかりのセネステียを抱き、セラエルの死を知って一人泣いた。「あの子は、あなたに会うことはないのね……」
それからというもの、二人は深い罪悪感の中で生きた。カリステールはセラファナに密かに贈り物や服を送り続け、モーヴェンは侍従を通じて彼女の安否を常に気にかけ続けた。二人はこの痛みを、まるで最初から存在しなかったかのように心に深く埋め込んだ。
現在
カリステールは部屋の窓から、南の離宮の方角を見つめていた。イゼキエルから、セネステียがセラファナを訪ね、二人が思いのほか打ち解けているという知らせを聞いたばかりだった。
長年胸を締め付けていた罪悪感と苦しみが、少しずつ解けていくのを感じた。私たちが解決できなかった過ちが、子供たちの代で癒やされようとしている。
カリステールは立ち上がり、机に向かった。上質な紙を取り出し、万年筆を手に取る。十二年ぶりの、セラファナ宛ての手紙を綴るために。




