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第14章:剣を弾く

セネステียが最初の面会から三日後、再び副宮を訪れた。その瞳には、前回を上回るほどの好奇心が宿っている。


「今日は……二人の剣の稽古を見せていただいてもいいですか?」


門をくぐるやいなや、彼女はそう切り出した。セラフィナは背後に控えるイゼキエルを一瞥した。兄は肩をすくめ、どちらでもいいという合図を送る。


「ええ、構いませんよ」セラフィナが答えた。


セネステียは嬉しそうに手を合わせ、庭のベンチに腰を下ろした。まるで特別な舞台の開演を待つ観客のような熱気だった。


「さあ、始めてください!」


イゼキエルは二本の木剣を手に取ると、その一本をセラフィナに投げ渡した。


「今度は……手加減なしでお願いしますね」セラフィナが小さく囁く。


「俺が手加減をしたことなど、一度もないさ」イゼキエルは口角をわずかに上げ、そう答えた。


二人は間合いを取り、足場を固めた。膝を軽く折り、重心を安定させる。セネステียは身を乗り出し、食い入るようにその光景を見つめていた。本宮での型にはまった堅苦しい稽古とは全く違う、生き生きとした動きに彼女は魅了されているようだった。


イゼキエルが先手を取った。最初の数撃は儀式のような滑らかな運びだったが、セラフィナはそれをいとも簡単に受け流し、流れるように反撃へと転じる。


「二人とも、すごく自信に満ちているように見えます!」ベンチからセネステียの弾んだ声が飛ぶ。


「数年、こうして積み重ねてきましたから」セラフィナは応じながらも、集中を途切れさせずイゼキエルの動きを追った。


攻防のテンポが徐々に上がる。イゼキエルが速度を上げると、セラフィナもまた呼応するように加速した。


その時、空気が変わった。


セラフィナは守りに徹するのをやめ、自ら踏み込んだ。一歩、また一歩と距離を詰める彼女の鋭い気迫に、イゼキエルは一瞬だけ驚きの表情を浮かべた。彼は慌てて木剣を掲げ、かろうじて彼女の連撃を防ぐ。


「お前……」イゼキエルが言いかけたが、次の激しい突きに対処するために言葉を飲み込んだ。


セラフィナは無言だった。彼女の視線は一直線に兄の動きを捉え、その剣先は以前よりもはるかに鋭く、速かった。イゼキエルは一歩、また一歩と後退を余儀なくされる。


セネステียはベンチから立ち上がり、息を呑んでその光景を見守っていた。


セラフィナは攻撃の角度を巧みに変え、イゼキエルのリズムを崩しにかかる。イゼキエルの額に、じわりと汗が滲み出る。彼にとって、これほど集中を強いられる打ち合いは久しぶりだった。


(……この数年、セラフィナはどれほど密かに精進していたんだ)


イゼキエルが強烈な一撃を放ち、セラフィナはそれをしなやかに躱す。そして次の瞬間、彼女は隙のない軌道で踏み込み、イゼキエルの剣を力強く弾き飛ばした。木剣は虚空を舞い、緑の芝生の上に転がった。


一瞬の静寂が訪れる。


「……負けだ」イゼキエルが荒い息を整えながら言った。


セラフィナもまた、自分の成し遂げたことに呆然としていた。張り詰めていた集中が解け、自分が何をしたのかを自覚する。「……申し訳ありません。少し力が入りすぎてしまいました」


「いいや、完全に俺の負けだ」イゼキエルは地面に落ちた木剣を拾い上げると、愉快そうに笑った。


「すごい! 最高です!」セネステียが歓声を上げ、駆け寄ってきた。「あんな風に兄様の剣を弾き飛ばすなんて、見たことがありません!」


「そんな……大したことはありません」セラフィナは顔を赤らめた。


「最高だったわ! あなたの剣筋、とっても綺麗で勇ましいのね」セネステียは目を輝かせている。


セラフィナは、人生で初めての賞賛に当惑しながらも、胸の奥から湧き上がる温かさを感じていた。


イゼキエルは少し離れた場所から、二人の少女を見つめていた。彼の胸には、驚きと同時に言いようのない感動が広がっていた。


(この子は、ただ静かに耐え忍ぶだけの少女ではなかったんだ)


内に秘めていた情熱、勝利への渇望、そして自分の力を証明したいという子供らしい素直な欲求。セラフィナという名前が持つ「炎(熾天使)」の響きが、今初めて彼女の内に宿る熱量と一致したように思えた。


「セราフィナ……今の動き、とても良かったぞ」イゼキエルが声をかける。


「ありがとうございます……セネステียに見ていてもらいたくて、つい」彼女は恥ずかしそうに下を向く。


「いいんだ。誰かを見て頑張りたいと思うのは、人間として当然のことだ」


セネステียが目を輝かせて頼み込んだ。「ねえ、私も教えて! 剣術を教えてほしいわ!」


イゼキエルは少し驚いた。「君には専門の師範がついているだろう?」


「いいの! ここで、二人と一緒にやりたいのよ」


セラフィナはセネステียの瞳を見て、自分の中で何かが確実に変わり始めたのを感じた。


「……基本からでよければ、私が教えます」


「本当? やった!」


イゼキエルは、その光景を静かに見守りながら、ふと何かの記憶の断片を抱いた。かつて誰か大切な人が、同じように熱い情熱を持って生きていたような……。名前も顔も思い出せないが、その温かな感覚だけが、イゼキエルの心に深く刻まれていくようだった。


「……いい光景だ」彼は小さくつぶやいた。


そして彼の脳裏に、今のセラフィナの輝きと重なる、遠い日の思い出の誰かの面影が、一瞬だけよぎった。それはとても暖かくて、切ない記憶のようだった。

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