第7話――奈落の底で
待て待て、まだ底に着いてない。
……いや、何が面白いって?
俺のブレザーが、突き出た岩に引っかかっていることだ。
いや、本当にありがたい。引っかかったのが服だけでよかった。しかも、岩の先端も尖っていない。
ただ、急に体重がかかったせいで、一瞬首が絞まるかと思ったけどな(笑)。
俺は腕を組んだまま、宙ぶらりんになっていた。
……まあ、地面に叩きつけられてミンチになるよりはマシか。
それにしても、上から落ちていった小石が地面にぶつかる音すら聞こえてこない。
……どれだけ深いんだよ、この穴。
うーん……まあ、食料や飲み物なら作れるし、そう悪い状況でもないか。
どうせ魔力も一日あれば全快する。
……とはいえ、どんな状況でも避けられないものがある。
そう、自然現象だ。
「……トイレ、行きたいな」
運がいいのか悪いのか、そんなことを考えていた、その時だった。
何かが震えるような感覚が伝わってきた。
「うおっ!?」
少し驚いた直後、上から叫び声が聞こえた。
……女の子?
俺は顔を上げた。
すると、本当に女の子が落ちてきていた。
「うわっ、ちょっ……!」
反射的に手を伸ばす。
そして――
「よし、捕まえた!」
……うん。
足を。
「あっ、あっ、待て待て待て!」
俺は必死に腕を引き、彼女の体が壁にぶつからないように力いっぱい引っ張った。
落下の勢いがあるせいで、彼女の体は振り子のように大きく揺れている。
「んぐぐぐぐっ……!」
「うっ……!」
……ん?
今、何かが折れるような音がしなかったか?
…………。
あ。
もしかして、俺が掴んでいる足か?
勢いよく引っ張りすぎたうえに、変な角度で力がかかったせいで……。
……折れた?
「…………」
うわぁ……絶対痛いやつだろ、それ。
しかし、不思議なことに、彼女はもう叫んでいなかった。
……気絶したのか?
「……悪い」
いや、謝ったところでどうにもならないんだけどさ。
俺は恐る恐る、下を見た。
「…………」
…………。
「うわ、最悪だ……!」
彼女のスカートが重力に引っ張られ、逆さまになった体勢のせいで、下着が丸見えになっていた。
…………。
……いや、見るな。
俺は紳士だ。
そういうものを見てはいけない。
……うん、見てない。俺は何も見ていない。
それよりも、このままじゃまずい。
「……この体勢、そろそろ限界なんだけど」
彼女の足を掴んでいる腕が、どうにもおかしい。
……もしかして、捻ったか?
いや、そもそも片腕で人間一人をぶら下げている時点で無理がある。
「……参ったな」
そう呟いた、その瞬間。
なぜか、妙に見覚えのある感覚がした。
……ああ。
俺、今――
「浮いてるな」
どうやら、俺を支えていた岩が折れたらしい。
…………。
……うん。
「……今日は、二人そろって厄日ってことか」
俺は彼女の体を抱き寄せた。
そして、地面に叩きつけられる瞬間に彼女が先にぶつからないよう、自分の体を回転させる。
……いや、待て。
これ、普通に痛いどころじゃ済まないよな?
「……ったく、結構重いな……!」




