第45話 魔法の授業04
イスズは、少し困ったようにレオーネを見る。
「さて……レオーネ様への魔法の授業は、どうしましょうか」
そう呟き、イスズは考え込んだ。
すると、レオーネが意を決したように顔を上げた。
「先生。お願いがあります。僕に、先生の魔法を教えてください」
レオーネは真剣な顔でイスズを見る。
「絶対に誰にも言いません。誰にも見せません。だから……お願いします」
イスズが少し驚いたように目を瞬く。ストリーガは、そんなレオーネをしばらく見つめていた。
やがて、考え込むように腕を組む。
「……確かに、イスズ殿の魔法は非常に有用です。レオーネ様が覚えておくこと自体は、将来必ず役に立つと思います。決して悪いことではないでしょう」
そう言ってから、ストリーガはイスズを見る。
「ですが、条件をつけたほうがいいでしょうね。まず、絶対に他人へ見せないこと。そして、この魔法について他人に話さないこと。それを誓っていただく必要があります」
ストリーガはレオーネへ向き直った。
「レオーネ様。それが約束できるのであれば、私は教えていただいてもよいと思いますが」
ストリーガは、改めてレオーネを見る。
「ですが……もう一つ、覚えておいていただきたいことがあります」
その声が、少し低くなった。
「もし万が一、この魔法のことがアトミカ教の関係者に知られてしまったら……イスズ殿は、教会に捕らえられる可能性があります。良くても、教会の施設に拘束され、魔法を厳しく制限されたまま、一生そこから出られなくなるかもしれません」
ストリーガは、一度言葉を切った。
「そして、最悪の場合は……先ほどお話ししたように、異端の魔法使いとして『魔女』と認定される可能性もあります」
レオーネの顔から、笑みが消える。
「そうなれば、イスズ殿だけの問題ではありません。レオーネ様も、魔女と呼ばれる者から魔法を教わった者として、ただでは済まなくなるかもしれない」
ストリーガは、静かに問いかけた。
「それでも、レオーネ様はイスズ殿から魔法を教えていただきたいのですか?」
レオーネは、少しも迷わなかった。
そして、真っ直ぐにイスズを見る。レオーネは、強く頷いた。
「はい。絶対に成人するまでは、この魔法を誰にも見せません。誰かに知られてしまったとしても、イスズ先生から教わったとは言いません。だから……教えてください」
ストリーガは、しばらくレオーネを見つめた。
やがてイスズへ向き直る。
「……それが約束できるのであれば、教えていただいてもよいのではないでしょうか」
イスズは、少し考えるようにレオーネとストリーガを見た。
けれど――。
本人としては、そこまで重大な話だとは思っていなかった。なにしろ、イスズはすでに弟や妹たちにも、自分の魔法を教えている。
一人増えたところで、今さら何が変わるというのだろう。
「では、レオーネ様に教えますね」
イスズが、いつものように明るく微笑む。
そのあまりにも軽い返事に、ストリーガは思わず苦笑した。
「……イスズ殿。もう少し、事の重大さを考えていただけると助かるのですが」
そして、授業が始まった。
「まずは、基本的なことからですね」
イスズは、レオーネに向かって穏やかに話し始めた。
「前にもお話ししましたが、血の管に沿って魔力を全身に巡らせます。前の授業では、それで『アウラ』という風の魔法を発動させましたね」
レオーネが頷く。
「あのときも、ある程度は全身に魔力が巡っていました。でも、今回はもっと細かいところまで意識してみましょう」
イスズは自分の腕を指差した。
「太い血管だけではありません。そこから分かれている、もっと細い血管まで魔力を巡らせるんです。身体の隅々まで魔力が行き渡るようになれば、同じ魔法でも、もっと少ない魔力で発動できるようになります」
イスズは、少し考えてから付け加えた。
「上手くいけば、今までの十分の一くらいの魔力で発動できると思いますよ」
「十分の一……」
レオーネが目を丸くする。
「はい。そして、もう一つ大事なことがあります」
イスズは続けた。
「本来、『アウラ』は魔法陣を頭の中に思い浮かべ、そこへ魔力を流しながら詠唱して発動する魔法です」
「はい」
「でも、身体中の血管に魔力を巡らせることで、魔法陣の代わりに身体そのものを魔力の通り道として使うことができます。だから、前にレオーネ様が使ったときは、魔法陣を思い浮かべなくても、詠唱だけで発動できたんです」
レオーネが驚いたように目を瞬く。
「じゃあ、もっと細い血管まで魔力を巡らせたら……?」
「はい。さらに効率が良くなります」
イスズはにっこりと笑った。
「そして、血管の隅々まで魔力を巡らせることができるようになれば……詠唱すら必要なくなります」
そう言って、イスズは右手を軽く前へかざした。
「アウラ」
呟いた瞬間、イスズの前から風が生まれた。そよ風が、二人の間を静かに吹き抜けていく。
レオーネは目を見開いた。
「……今、詠唱してませんよね?」
イスズは何でもないことのように微笑んだ。
「ええ。これが、次に覚えてほしいことです」
前に一度、魔法の授業を描いていたことを失念しておりました。
すでにボツにしたものだと思い込んでいたため、
今回の話で設定の辻褄を合わせています。
そのため、以前の文章にも一部、微調整を加えました。
その点をあらかじめご了承のうえ、お読みいただければ幸いです。




