67. せやし、ここから非公式ラストな~?
「どうゆう終わり方なん。これ」
ばさりと紙束をテーブルに置いて、わたしは伯母を見る。
「あかんか~? 今どきのヤング向け、破滅的メリー・バッドエンド」
一応いまどきの若者に属するも、主流からはじかれているわたしは首を傾げた。
伯母は調理台の前、ことこと煮える鍋の蓋を取って中身をかき回すと、わたしに向き直った。
「読者が嬉しがっても、主人公が納得せんのではあかんな。どのへんが気に入らん? ウーにゃん」
「いや、だってこれ。全然事実と違ってるやんか」
「そらそうやー、わたしノンフィクション作家ちゃうもん。虚構を虚構たらしめてなんぼ、の小説家やでえ。それがほんとのことしか書いたらあかんとなったら、クランドルハの出版界には私小説しか出なくなる。おそろしいな、一体だれが美魔女の日常物語をお金出して買うっちゅうねん」
「けど……」
「それにな~、ウーにゃん。ここはこうして、竜姫さまを呪いごと、青空に散らしといた方がええねん。世界のどこかに生きのびて眠っているとしたら、現実にあてはめて封印を探しに行ったり、起こして利用したろと企てる輩が出るかもしれんやろ~? そうゆうのをあえてぶっ潰す意図も込めて、の悲劇的エンディングやねんか」
それを言うなら、そもそもわたし達をモデルに小説なんて書かなければいいのに……。突っ込みの余地ありまくりだけど、伯母にはもちろん言えない。
「まあ……。そう言う切ない話の方が、売れるんなら。これはこれでありなんかな。情景としては絵になる感じやし、流れもまとまっとるよね」
肩をすくめて、適当に言っておく。伯母はうんうんとうなづいた。
完徹……はもう無理だから、朝三時起きして仕上げた伯母の最新作・完結章。その原稿をテーブル越しに返すと、伯母は壁の時計を、次いで窓の方を見た。
「うん、オートなミールのお粥そろそろええやろう。ウーにゃん、行って呼んでおいで」
「お茶、淹れといてね」
立ち上がってつなぎ農作業着の襟を上まで閉め、わたしは台所の勝手口を開けた。伯母の早口独白が、背中にひっついてくる。
「そう。だから『竜のつばさの眠り姫』公式ラストはこんなもん。最大の売りは、謎と呪いを背負った儚い美少女ヒロイン……。そこは譲れんな、編集さんの意向やしな。だいぶん推敲するとしても、この点は確保しとこ……」
十月初めの朝、もうかなり冷えて息も白い。けれど空に満ちる曙光はばら色、温かい命の色をしていた。
「体をはって、だいじな者のいる世界を守りとおして。ついでに自分自身の幸せも守り通したモデルは、見上げたど根性のお姫さまやけどな~」
ぱたん。戸を閉めて、わたしは歩き出す。納屋のほうへ。




