53. ミス・キンセラの提案
ベイトリーシュ、わたし、伯母。身長の大きい順に立ったわたし達三人は、思いっきり目を点にして、目の前にいるリオネス魔術士ミス・キンセラを見つめていた。
それは割と面白い光景だったのかもしれない。魔術士のお姉さんが、ふいと口角を片方上げたくらいだから。
「はあ??」
まぬけっぽい反応、第一声をもらしたのは、他でもないこのわたしだ。
「何でっか、それ。抽出に除去、って……」
わたしの少しだけ前にいる伯母も、困惑ぎみに言う。
「表現そのままです。旧リリリカ王国の魔女がベイトリーシュ姫に植え付けた≪竜の呪い≫を、姫の身体から取り去る技術を見つけ出して、習得いたしました」
「……あなたが?」
静かに問いかけたベイトリーシュに、ミス・キンセラはうなづいた。
「ええ、そうです。もちろん試したわけではありませんから、絶対に成功するとは言えません。けれどうまくいった場合、あなたを危険な呪いから解放することができます」
わたしの腕に、ベイトリーシュの手が触れた。すがりついてきたベイトリーシュと顔を見合わせると、青い瞳を目いっぱいに見開いている。その中に、期待と怯えがまぜこぜになっているのが見えた。
「リリリカ難民二世として、わたしはあなたの母親である王妃、およびその無謀なる計画に追従した愚かなる魔女を糾弾します。しかし幼少時に≪竜の呪い≫を植え付けられ、自らの意志と関係なく滅亡の兵器として利用されるだけ利用されたあなたに、罪はないとわたしは考えています」
わたしの腕にかかったベイトリーシュの手に、力がこもった。お姫様は、小さくわなわなと震えてもいる。
ミス・キンセラは、リリリカ滅亡の当事者ではない。けれど親世代が激動を強いられ、リオネスで流入難民として生きた以上は、竜の被害者であることに変わりはないのだ。その被害者本人から罪はないと許されているのだから、ベイトリーシュがうろたえないわけはなかった。
「何や。最新のタトゥー除去手術みたいなもんかえ~?」
好奇心の煌めく調子にて、伯母が鋭くミス・キンセラに問う。
「魔術は美容外科術で除去できませんよ、奥様。導入時同様に、やはり魔術を使うのです。よってわたしが施術します」
「ほ・ほ~。まゆつばな話やが、実においしい話でもあるな。けど展開的に、こういううまい持ちかけと言うものには、たいてい毒が仕込んであるのや……」
くるり、と伯母はわたし達二人を振り仰いだ。
「どう思う。ウーにゃんにベイたん?」
伯母の言う通り、まゆつばな話だとわたしも思った。前回洞窟で相まみえた時、泣いて嫌がったベイトリーシュに構わず≪竜の呪い≫を発動させた人達が、こんな風に平和な解決策を持ちかけてくるだなんて……!
わたしの胸は猜疑心でいっぱいだったけれど、同時に揺れてもいた。もし……。もしこのミス・キンセラが、本当のことを言っているのだとしたら?
「……安全に、呪いを取り去ることができたとして。あなた方はその後、ベイトリーシュをどうするつもりなんですか?」
ベイトリーシュの手に上から自分の手を重ねて押さえ、わたしはミス・キンセラに問うてみる。女性魔術士は表情を変えず、ふるふると小さく顔を横に振っただけだった。
「どうもしません。ここにお住まいなんでしょう? 送り届けますよ。呪いさえ取り去ってしまえば、ベイトリーシュ姫は危険人物でも何でもなくなるし、歴史的犯罪者かどうか問われることも一切なくなります。ごく一般的な一人の女性として、農業に励んでくださって結構です」
女性魔術士の言葉を聞いて、ベイトリーシュの手がわたしの手を握り返してきた。ミス・キンセラの言ったことは――ベイトリーシュが願い、わたしが望む未来そのものだ。
「ちょい待ち。施術に失敗して状況が悪うなったり、あるいはベイたんが命を落としでもしたら、どう始末つけてくれんねん? ――はっ! その前に、術後になってから実は健康保険の適用外で高額請求つきつけてくるとか、あらへんやろうなッ」
「魔術は医療手術じゃないですって、奥さん」
ミス・キンセラ脇の角刈り騎士が、伯母に突っ込んだ。わたしはもう一度、ベイトリーシュの顔を見る。丸顔を緊張させて……けれどお姫様は、青い双眸を悲壮に輝かせ、決意していた。それならわたしは、全面的にベイトリーシュを支持するだけだ。
「……お話が本当であるのなら。わたくし、挑んでみとうございます」




