52. おばちゃん名人芸、炸裂や
「リオネス騎士団付、魔術士のメアリ・キンセラと申します」
魔術士のお姉さん……ミス・キンセラは、伯母に向かって丁寧に言った。左眼にあてた黒い眼帯、その周りのこめかみにかけて、傷跡が赤黒い苔のようにこびりついている。そういう顔に穏やかな表情を乗せて、全身もも色農家スタイルの伯母にうなづいた。
「前回遭遇時は、ベイトリーシュ姫の自己覚醒その他諸々の想定外事情により、不適切な印象を与えてしまいました。皆さんが我々に対し不信感、敵愾心を持たれたであろうことは想像に難くありません。リオネス騎士団としても、たいへん遺憾に思います」
「……」
落ち着いた、ものすごくよい声で女性魔術士は言った。飛翔機から出てきてミス・キンセラの脇に立った角刈りの壮年男性が、うんうんとうなづいている。見覚えがあるような気がする……。やはり洞窟にいた、リオネス学術騎士団の一人だ。確か隊長格。
「あの後、我々は失踪した姫を探していたのです。やはりあなたが保護されていたのですね」
「渡さへんで」
わたしはベイトリーシュの前、ずいっと伯母の横に立った。
「無理やり変身させて使役しようとか。あんな辛いめ、二度とベイトリーシュには遭わせんからな」
「て、言うか~。リオネス騎士団と魔術士ともあろうもんが、こーんなど派手なおくるまでいらして。ここはクランドルハやっちゅうねん、おたくらの好き勝手できるところとちゃいますでー。領空侵犯とかどうなってますのん? 田舎と言えど警戒網と住民の目はございますしぃ、外国の軍人が善良なる農民一家を殺傷したり拉致したりーとくれば、そらもう治外法権ぶっち無視の外交問題に発展するのんとちがいますか~。言うわけでえ、ひとん家の納屋上空にぶっそうな軍用機で乗り付けた御用向きは、まず書簡にてご提出いただきますよう願えますかねぇぇぇ」
一体どこで息継ぎをしているのだかわからない、もはや名人芸の域! つらつら、ぺらぺら。よどみなく流れ出す伯母の言葉に、わたしは「せやせや」「そうそう」と、合いの手を入れ始める。
そうなのだ。ここはとにかく、暴力的な衝突をまったりぬったりかわしつつ、極限までの時間稼ぎに励め! そういう伯母の意図をわたしは汲み取っていた。頭上に高くそびえて陽光を遮り、夕方みたいに家の周辺一帯をかげらせているでっかい物体。軍事用の戦略機には全然詳しくないが(いかん、≪鉱山校≫に行く前に勉強しとかなくては)、こんな巨大な空母みたいな飛翔機、グレンの町から……いいやボワーズ市からだって、丸見えのはずだ。絶対誰かが驚いて、通報しているはず。レーダー圏外の高空を移動してきたのだろうけど、そのままベイトリーシュをさらって帰ろうだなんて、うまくいくわけがない。ボワーズ市警は飛翔機部隊完備なのだ、十分もあれば駆けつけてくれる。
「~~でもまあこの際、配達記録つきの速達などはさすがにお手間でしょうから、直接手渡しになるのは否めませんとしても~」
「でもおばさま、手渡されたとしても受け取らなかったら、それも居留守を使っていることになりますの~? お手紙は確かに受け取らない限り、公式書類であっても何ら効力はないと思うのですけれど??」
「あーそうそう、その通りやねんなベイたん。わたしもその手で、かつていわれなき懲戒解雇の通知をかわし続け、ついに調停辞職という栄誉を勝ち取ったことがあんねん。雇用者の権利をこの胸に抱えて、権力と戦ったんや……フリーダーム」
「何や初出の黒歴史やな。どこで働いとったん、おばちゃん?」
「家庭教師と、その高級教材の電話セールスや!」
「え~、おばさまは先生でいらしたのですか?」
「ちゃうねん。制御不可能となった我が子の成績に絶望した親につけこみ、何ら実績のない学生を教師として売りつけとったんよ」
「悪やん、それ」
「悪ですわ~!」
「悪ですねえ。邪悪そのものに見えるであろう、わたしが言うのもなんですが」
「そうそう。……て」
「うッ」「ぶひッ」
「ちなみにわたしも学生時代、そういった悪徳業者に派遣される側として搾取されていた家庭教師でしたから、よくわかります。しかし今回は前回と異なり、むしろあなたにとっての朗報を我々は所有しているのですよ。ベイトリーシュ姫」
何ということだ! 魔術士ミス・キンセラはわたし達三人の掛け合いを突破して、むしろぐいぐい入り込んできた!
「あなたの身体に刻まれた≪竜の呪い≫を、抽出し除去することができるんですよ。わたしは」




