↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜のつばさの眠り姫  作者: 門戸
第二部 眠り姫のマロニエ農家のんびりライフ
PR
34/68

34. 呪い引っぺがし大作戦ですわ

 日が流れ週がゆき、月が過ぎる。


 読書量はわたしも伯母も増えていったが、肝心の求める情報には全く出会えなかった。ベイトリーシュの≪竜の呪い≫を解く方法は見つからない。わたしは飛翔機専門店に通い、ベイトリーシュとマロニエ森の下草を刈り、伯母は執筆に精を出しつつ地道にその謎に挑み続けている。


 お姫様は時々買い物についてきて、グレン町民と少しずつ知己を得ていった。と言ってもわたしや伯母の知人関係内だから、中年層か農協関連ばっかりである。そもそもグレンの町に若い世代はごく少ない。美容師見習いのトミー君ぐらいしか例外がなかった。


 ぎざぎざに伸びてきた髪を揃えに行った時、そのトミー君から入れ墨を消した人の話を聞いたとかで、ベイトリーシュはわたしと伯母に鼻息荒く言った。


「ああいうものって一度入れたらさいごと思っていましたけど、消すこともできるんだそうですのッ! なんでも、特殊な光をあてるとかで、……」


 わたしは目をばちばちさせて、伯母と顔を見合わせた。


「完全に消すのは無理なんだそうです。でも目立たないようにはできるとか~!」


「うむ……ベイたん、しかしあんたのしるしは刺青と違(ちご)うて……」


「わかってますわ、おばさま! けれどわたくし、考えましたのッ」


 すちゃッ! のっぽのお姫様はわたし達の前に、やすり棒をかかげた……。そう、爪をこするやつ。


 ・ ・ ・ ・ ・


「ぶっっっひぃ――――ん」


 自分で言い出した手前、ベイトリーシュはだいぶ我慢したのだが。洗面台にしがみついて、とうとう音を上げた。


「やっぱ、あかんのやろうがっ! こんなんおよしッ、ベイたんっ」


 伯母は鋭く言って、やすりを放り出した。わたしにベイトリーシュの背中お肌をにゅーんと手のひらで押さえて伸ばさせ、伯母は竜の翼のしるし、その手羽先部分をごしごしと擦っていたのだ。ベイトリーシュの腰の上あたり。


 入れ墨と違って、竜の呪いの刻印はごく薄く皮膚上に盛り上がっている。かさぶたとは全く違う、でも確かに削れそうな気はする。しかしやすりをあてると、ベイトリーシュは激痛を覚えるらしい。ほとんど削れも薄れもしない状態で、わたし達はやすり作戦を諦めた。と言うか、ベイトリーシュにあきらめさせた。わたしはその箇所に、グリセリン軟膏を塗りたくる。ぶひ、ちーん! とベイトリーシュは涙鼻水をかんでいた。


「魔法でくっつけられたもんを、物理的に引っぺがすなんて土台が無理なんよ。これに懲りて、引っかき取ろうとしたらあかんで? ウーにゃんも手伝わんようになッ」


 んもー、と伯母は首をふり振り言った。こうし柄シャツの裾を下げつつ、ぐすんとベイトリーシュはうなだれた。


「……ほんまに。シールみたいにはがれたったら、よかったのにね」


 小さい子どもだった頃、夏休み突入と同時に腕につけて喜んでいた、お菓子のおまけタトゥーシールのことを思いだして、わたしはベイトリーシュの腕を軽く叩いた。


 ・ ・ ・ ・ ・


「……本当に、ごめんなさい。ウーニャさん」


「……」


 翌日から、ベイトリーシュはわたしに軟膏をつけて欲しいと頼むようになった。やすりで引っかいた辺りが痛いのと、それに伴って発生し始めた蕁麻疹(じんましん)がしんどいらしい。痛い所にグリセリン、かゆくなりがちな箇所にかみつれクリームを塗って広げる。もう嫌でも、ベイトリーシュの呪いの翼を凝視せざるを得ない。


「でも、考えたんですけど。この間削ってみてあんなに痛かったのだから、この呪いはもうわたくしの一部分になっているわけですよね?」


「そういうことになるんかなぁ。前は違ったん?」


「ええ。六つの時に施術された後は、何と言いますか……それこそ背中に、軟膏がどっぷりくっついた感じでしたわ。時々、ばあやにお風呂で強くこすられても、特に何とも感じなくって。だからこそ先日は、削れるかもと思ってしまったのです」


 ベイトリーシュの肩口あたりにかみつれクリームをのばしつつ、わたしは頭をひねった。……呪いの翼が、ベイトリーシュに一体化(・・・)したのだとしたら。きっかけは何だったのだろう?


「感じが変わったんは、いつ頃から?」


「うーん、はっきり気づいたのはごく最近です。もしかしたらウーニャさんに起こされた時は、もうこうなっていたのかもしれませんわ」


 その時系列で、ベイトリーシュに起きた大きな変化と言えば? 六十年間の眠りからさめたことはもちろん、呪いの再発動で竜の姿に変身したことだろう。


「……ベイトリーシュ。ちょっと辛いこと、聞くけど」


「はい?」


「ベイトリーシュが変身したんは、わたしのじっちゃんに封印される前が初めてやったんやろ?」


「ええ」


 背中を向けたまま、ベイトリーシュはわたしに答える。


「母が魔術を発動させた時が初めてで、その次がウーニャさんに起こしていただいた後。その二回こっきりです」


「そう。そいでその二回の変身て、全く同じ感じやったん?」


「……」


「無理して言わんくてええよ」


「……そこのところに。お手て、あてたままにして下さい」


 わたしはかみつれクリームをのばし終わったところだった。ぎくりとしたけど、……そのままベイトリーシュの背の真ん中に、右手を置いておく。お姫様は鏡台からずれた所で、低い腰かけに座っていた。こうし柄パジャマの上を脱いで、両袖を通したままわたしに背と黒い翼を向けている。ベイトリーシュがどんな表情をしているのか、わたしにはわからなかったけど……。お姫様の声は低く落ち着いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。