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竜のつばさの眠り姫  作者: 門戸
第二部 眠り姫のマロニエ農家のんびりライフ
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28/68

28. ボワーズ市立図書館にて

 下にする景色に、白や灰色の建物が多くなる。市内25km/hゾーンに入って、レーダー反応がちかちかとやかましくなった。わたしは少し高めにエアナを浮かせて、ボワーズ市庁舎とふたごのお城みたいに構えている、白い図書館に向けて徐行下降していった。


 市庁舎と共用の駐車場にエアナを停めて、まずは少し先に行ったところの薬局に入る。うさ菊(・・・)軟膏と伯母の目薬を買った。それをエアナのダッシュボードに入れてから、改めて図書館に入る。


「……!」


 高い天井を見上げて、のっぽのお姫様は驚いた様子だった。


「すごいわ。なんて蔵書量ですの……」


 ここは二十年くらい前に新設された、けっこういけてる図書館だ。近隣十数か所の町村と連携していて、地域圏の住人なら誰でも閲覧と貸し出しの恩恵を受けられる。


 中央玄関脇の受付台で伯母の予約を問い合わせると、リクエスト分すべて用意ができている、と言われた。二十冊か、おばちゃん張り切ったな。


 館内専用カートを貸してもらって、そこに分厚い専門書を入れた。ベイトリーシュと一緒に、タイトルを見てみる。


『呪術の系譜』『古代魔法から現代戦略へ』……わたしでは到底立ち向かえそうにない、手ごわい表題ばかりである。


「『美魔女維持の掟とワークアウト提案』。ちんぷんかんぷんですわ、さすが文筆家のおばさまですわね? 難解すぎる専門書と言う感じ」


 いや、たぶんそれはついでに借りたやつだ。専門書には違いないが、ベイトリーシュの呪い研究とは関係ない。


 けれど、魔女(・・)と言うのは引っかかるキーワードである。ベイトリーシュに呪いをかけたのがリリリカ魔術を使う魔女だったのだし。それにわたしから言わせれば、竜の呪いを再発動させたあのリオネス魔術士のお姉さんも、十分に魔女と言える。


「ベイトリーシュ。わたしらも、参考になりそうな本を書架で探してみよう」


「ええ」


 大きく分けて三棟になっている図書館、その一番奥の部分にある≪歴史≫≪地理≫≪文化≫の辺りか、と見当をつけて行ってみた。


 ≪魔術≫の領域については伯母がすでに目録をチェックしているだろうから、飛ばすとして。歴史の棚はものすごく長い。長いが主な部分を占めているのは、自国クランドルハ商業連邦の歴史だ。当たり前か。次いでリオネス帝国史が幅を利かせている。西方小国群の宗主国という立場だし、内包するものが多岐にわたるからまあわかる。と言うかリオネス人から見れば、クランドルハだって属国の一つでしかないのだろうけど。リリリカ史書は少なくて、ざっと数えても二十冊くらいしかない。


「この辺、あたってみよか。ベイトリーシュ」


 その二十冊分をごそっとカートに載せて、わたし達は一番近くの閲覧席についた。ここに来る途中で話したこと。ベイトリーシュはそんなに読む方ではないと言う。彼女が住んでいたリリリカ王宮内にも図書室はあったが、自由に立ち入って好きなものを読むことはできなかったらしい。専任の司書が検閲した書物のうち、母親の認めたものしか読めなかった。要するにごく限られた範囲だ。読書の自由はどこにあんねん、とわたしは腹を立てながら内心で突っ込む。ベイトリーシュの母親の話が出ると、少なからずむかつくようになってしまった……娘に竜の呪いをかけた、諸悪の根源め。


「関係ありそうなところを探すんが、目的やからね。目次みて、さらさらっと流し読みしていくだけでええよ」


「はい」


 窓に面した明るい席に並んで腰かけ、間に積んだ本の山を手分けして調べることにする。わたしは一冊目に取り掛かった。『リリリカ中・末期 王朝史話』


 わたしは、これでもけっこう読む方だ。前はそんなでもなかったけれど、伯母と暮らすようになってから読む機会が増えた。何といっても伯母の作品の第一読者だし、マロニエ森の屋敷には莫大な蔵書がある。人と会わずに済むようになった時間、わたしは本と会って話をしていた。


「……」


 だから流し読みも、けっこう速い(と思う)。歴史関連の専門書は、本当に回りくどいことばかり書いてあるが、とにかく固有名詞で関係のありそうなものにぶつかれば、そこが恐らくは手掛かりになる。そう思って、わたしはページ左右にどんどん視線を走らせていった。



 ――ふーん。リリリカ最終王朝ゆうのは、つまり四百年前にクーデター起こしてそれまでの王朝を乗っ取った、軍部の系統やってんな。そんだけ? ……手がかり、なーし。次。


 『うしなわれた王国の服飾』。織物産業の観点から、リリリカの歴史をみた本だった。時々出てくる挿絵には、リリリカの一般人が着ていた服装が細かく描かれていて面白い。でもどれも、初めて会った時のベイトリーシュの印象とは違っていた。まあ農民のスタイルとお姫様のお召し物は、違っていて当然か。手掛かりなし、次。


 『リリリカ東北部の古墳』ほぼ考古学、これはいかん強烈につまらない。流し読みスピードを上げて、ちょっと目がかすむ。顔を上げてそっと隣のベイトリーシュを見ると、ものすごく真剣な横顔だった。食い入るように読んでいる本はそんなに厚くないが、まだ一冊目らしい。ほとんど始まり部分だった。


 そんなに気合入れて読まなくてええんよ、……と言いかけてやめた。ベイトリーシュは六十年ぶりに読書するのだ。いろいろ勝手が違うのだろうし、急かしたところで結果が出るものでもない。お姫様はおっとりしていて当たり前……。そう思って、わたしは次の本に手を伸ばした。



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