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竜のつばさの眠り姫  作者: 門戸
第二部 眠り姫のマロニエ農家のんびりライフ
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24/68

24. ウーニャ、アルバイト風景

 ・ ・ ・ ・ ・


 今日は仕事のある日だから、伯母にベイトリーシュを任せてわたしはエアナで飛び立った。


 仕事と言っても、本当にささやかなもの。週に数回、隣のボワーズ市にある飛翔機専門店で、修理の手伝いをしているというだけ。


「ウーニャ。そこにある二台な、液晶不調でゆうべ引き受けたやつやねん。十中八九汚れ詰まりやから、ボードの総クリーニングまかしてええか?」


「はい」


 栗油の匂いが充満するガレージ。カーキのつなぎ作業服に着替えたわたしは、オーナーの指示に答えた。


 わたしは飛翔機が好きだ。車も農作業用トラクターも軽トラックも好きだけど、乗っていて一番気持ちがいいのは飛翔機である。そんなに仕組みが複雑でない所もいい。


 一台目、ボディ塗装ライムグリーンの≪ミシェーラ≫。メンド社製の新型、確か去年出たやつだ、ええやん。


 綿手袋をはめてドライバーを回し、そうっと液晶を外す。オーナーが言った通り、ものすごい量のごみが詰まっていた。何をどうしたらこんなに埃で汚くなるのか、摩訶不思議である。


 吸引機とブラシを使って、丁寧に清掃開始。埃が詰まりまくっていたせいで緩んでいたプラグコードを、極細レンチでそっと締め上げる。慎重に!


 液晶板を元通りにつけた後、ダッシュボードと座席周りを布できれいに拭き上げた。さて試運転、わたしは機体横の管に手をかけて、≪ミシェーラ≫をずるずる引っぱってゆく。ガレージ裏庭でエンジンをかけた。液晶は正常作動、操作ラグもなしにすいすい切り替えができる。ようし。


 ふわあり! これも女性向けの軽い機種だ。浮上もなめらか静か、その場で旋回してみたが、横ぶれもなく安定している。わたしの仕事はここまで。


 五メートルをたおやかに下降して着地、エンジンを切る。オーナーに最終チェックをしてもらうため、ガレージの隅に戻した。≪ミシェーラ≫、完了っと。


 二台目に取り掛かろうとした時、受付オフィスの方でちょっと揉めているような気配がした。ガレージ中央で大型機の尾翼を外し、平衡器の交換をしていたらしいオーナーも手を止めて、そっちの方を見ている。


「本当に困るんですよ、こういう使い方をされては。飛翔機乗り全員が白い目にさらされるってことが、わからないんですか」


 静かな口調で、しかし厳しく言っているのはオーナーの奥さんだ。受付のすぐ前には店頭出入口があるが、そこにまたがるように置かれた中型飛翔機と脇に立つ男性に向かって抗議している。腰に両手をあてて立つ奥さんの後ろ姿は、あからさまに怒っていた。


「客に説教たれる店なのかよ?」


 男性は奥さんに反発して、すごんでいるらしい。


「黙って直すとこ直してくれれば、金は払うんだ。余計な口出ししないでくれ」


「ちゃんと申告はしたんでしょうね。していないのなら、うちの店としては警察に通報する義務があるんですよ」


「……」


 わたしはクリーニング二台目、旧型エアナフロイの操縦席に座り込んだまま、ちょっとかがんで全身を耳にしていた。修理のために飛翔機を持ちこんだ男性は、ぶち切れる寸前に何かをためこんでいる、という感じだった。それが囁くくらいに低く落とした声で、吐き出される。


「……警察には、もう話は通ってる」


「ええ?」


「犬泥棒をやったのは、義理の弟なんだ。先月捕まって、保釈金が足りない。こいつを元通りにして売って、あてがうつもりでいる」


 かさかさとコートの内ポケットを探り、出した書類を男性はオーナー奥さんに手渡している。黙ってそれを読んだ後、奥さんは溜息をついた。


「そういうことなら。うちで買い取りの見積もりまで、できますよ」


「……!」


「まあ、とにかく違法ケージだけは早急に外さなくちゃ。金曜日までに処置しておくから、見積もりの話はその時に改めてしましょうか」


「……ありがとう」


 さばさばと事務調で預かり証をこしらえて、奥さんは男性を帰らせた。わたしは出入口へ行って、奥さんが中型飛翔機をガレージ奥の一画へ移動させるのを手伝う。手伝いかけて、びっくりした。中型機のトランク内部が、金網つきの層になっている!


「ひどいよねえ。郊外のブリーダーの所へ押し入って、仔犬をさらって空へ逃げる手口。新聞記事ではよう見かけるけど、実物を見たらなんか虫唾が走るわ」


 がっしりと筋張ったオーナーの奥さんは、しわの刻まれた顔をさらにしかめた。


「ウーニャ。悪いけど今やってる作業を中断して、こっちの方に取り掛かってくれるか?」


「はい」


 オーナーの奥さんと一緒に、わたしは違法ケージをトランク内側から引っぺがして解体した。


「全くもう。こんなとこに閉じ込められた犬もかわいそう過ぎるけど、犯罪の片棒かつがされたなんて、ほんとにこの子も災難や」


 さほど古くない、ミートル社製の中型機。そのフロント部分を軽く叩きながら、奥さんは言う。


 ここのオーナー夫妻にとって、飛翔機は生き物みたいなものらしい。使い倒してくる客は良いとして、粗末な扱いをする人にはそれこそやんわりとお説教をした。禁止されている使い方をしている場合は、容赦しない。


「やれやれ。軽犯罪に窃盗、違法運搬といい、ハンドル握りの二人乗りと言い……。乗せられる以上のものを乗せて、飛べると思うなっちゅうねん。もう」


 資材用カートにばらした金網を積みながら、わたしはどきりとしつつ奥さんの言葉を聞いていた。


 ……自分である程度の飛翔機修理ができてよかった、と思う。ぶっちぎれた安全ベルトはもう、交換してあった。


 まずはベイトリーシュを不良的ハンドル握りで後ろに乗せ、さらには拉致的に操縦席足元に詰め込んで運んだことがオーナー夫妻にばれたら……。まず間違いなく、わたしはこの店を首になる。


「……ごみ、仕分けて捨ててきます」


「うん、よろしくなウーニャ」


 カートを押して、わたしはそそくさとその場を離れた。



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