02. 飛翔機乗りウーニャ、封印の洞窟へ
わたしはこう見えて、けっこう真面目だ。頼まれて引き受けたこと、約束は守る。自分で決めたことはやり通す。(だから毎日四百回の腹筋は欠かさない)
か・たん! エアナフロイのランディングボードが乾いた音を立てた。岩盤への着地だから、まあそうなる。
しゅううう……。エンジンを切って廃風圧が全て出きる前に、わたしはゴーグルを取ってダッシュボードに押し込む。さっと飛び降りて石だたみの上をかけた、切り立った崖っぷちの端っこまで。
そうして数十メートルを見下ろす。わたしのごついブーツの足先は、ちょうど六角形の石だたみと同じくらいの大きさだ。蜜蜂の巣みたいに、綺麗にはめ込まれた石だたみは、がたかた段差を作りながらずっと下まで伸びている。柱状節理、紛うことなき自然の産物。この不思議な石の柱の集まる中に洞窟が口を開けていて、わたしは今そこの真上部分に立っているのだ。
「……」
見下ろした崖っぷちのずっと下の方に、蛍光色のテープが長く引かれているのが見えた。白い立て看板らしきものも置かれている。キャメルの合皮革製、お気にの飛翔スーツ胸ポケットから、携帯スコープを取り出してのぞいてみた。
«リオネス学術騎士団、研究調査中につき立ち入り禁止»
「……頭いい系が、来てるんか」
わたしは顔をゆがめた。あかんやん。
改めて上空を見上げた。夕日はすでに海の彼方に追いやられていたから、藍色の空はもう闇に混ざって濃くなってゆくばかりだ。
島の端を埋めているこの柱状節理付近を飛行している機体は、今のところない。ここへ来る途中でも誰とも行き合わなかったし、レーダーにも引っかからなかった。学術騎士団のご一行は、本日の営業を終了しているのだろう。わたしが大きく迂回してきた最寄りの村か、そのちょっと先の町に帰営してるのではないか。この辺お役人らしく、しっかり規定の休養を取っていてほしい。
「時間外のサービス残業なんて、したらあかんよー」
言いつつ、スコープを使って周辺をきっちり観察したが、やはり誰もいない。駐機体も全く見当たらないのだから、見張り役もいないと判断した。
再びエアナフロイのところに戻り、狭い操縦席に乗り込む。大型スクーターよりもずっと深く座る形になるが、これは運転者を空気抵抗から遮断するためだ。エンジンをかけると、その巣の内側いっぱいに青い液晶の光が灯る。
ぶん! 下腹部分から厚い空気のかたまりを排して、わたしの鋼の小鳥はふわりと浮いた。
単身飛翔機の長細いフォルムは鳥と言うより、魚に近い。両翼の代わりに大掛かりな尻尾がついていて、そこから空気を流出することで空を進むから、小さい子どもは≪おなら鳥≫とふざけて呼ぶ。
わたしの赤いエアナフロイは、静かなる機動音に定評のある、純国産ミーユ社製の女性向け軽飛翔機である。淡い青に光る液晶板上で、わたしはさらにエコ・サイレントモードを選択した。テールランプも手動で消してしまう。そのままそろりと宙を移動して、崖の下へと降りてゆく。
うねうねとした石の柱が、すだれみたいに開いたところが洞窟の入り口だ。立ち入り禁止の蛍光テープの一線の向こう、大きな闇がわたしに向かって大口を開けている。手動で一番弱くしたヘッドライトの二本の視線だけが、そっとその中に入っていた。
光についてゆく形で、わたしを乗せたエアナフロイはゆっくり進んでゆく。全長二・三メートルの細長い機体、しっぽまでが完全に洞窟の中に入った時。わたしは一度、ヘッドライトも消してみた。
闇……そして静寂。青い液晶板と、左手首の腕環だけが鈍い光を放っている。組紐をかたどった祖父の形見の腕環の中で、白いはずの石は今、緑色に輝いていた。
祖父のかけた魔法の結界が、破られようとしている、と言う兆候だ。この場合、他の誰かに破られる前に、わたし自身が封印を解いてしまうしかない。腕環を託されたあの日、祖父は残念そうに言っていた。
リオネス騎士団は、一体どうやってここを嗅ぎつけたのだろう。たまたまなのか、封印のことをはっきり知ってやって来たのか。わからないことだらけだけど、自分がやらなくてはならないことは、はっきりしている。
じっちゃんとの約束を、守らねば。
わたしは再びヘッドライトをつけた。光量を徐々に強くしていって、闇の中を進み始める。




