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竜のつばさの眠り姫  作者: 門戸
第一部 眠り姫、めざめる
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15/68

15. とりせつに戻れ

≪どうしようもなくなったら、とりせつ(・・・・)に戻れ。ウーニャ≫


 ぐるぐるばくばく、今までの自分人生史上最大限の激しさで脈打つ自分の心臓がうるさい。


 しかしそのやかましい警鐘の中で、祖父ユーリの声がやたらはっきりと響いた。


≪とりせつ回帰。それで大概のことは、解決できるんよ。とりせつは、たいせつやで~≫


 とりせつ……取り扱い説明書。


 ふあっ! わたしは左手首の腕環を外した。うねうね編み文様の裏側に、そういや何か彫ってあったじゃないか。それこそ、とりせつの札っぽく!


「ウリス、エヴ、デルシャ、……? リワース~?」


 淡い緑色に発光しているその文字を、わたしは声に出して読んでみた。


 何だこりゃ、もうさっぱり意味わからへんやん? そう思った瞬間、文字がひときわ強く輝き出す。え、あってるの?


「ウリス、エヴ、デルシャ、リワース」


≪でもって、わけのわからんとりせつでも、三度読むねん。三度読んだら、まあ例外級の難問でも何とかなる。ええな~、ウーニャ? 三度やで、ほれもう一丁~≫


「ウリス、エヴ、デルシャ、」


 竜を見ながら、わたしは三度目に謎のとりせつ(・・・・)呪文を叫んだ。竜の口から煌々とした紫の光が、炎の輝きがあふれかけていた。


「リワース……!」


≪リヴァース、な。発音≫


 自分の声に、祖父の声が重なった気がした。それはもう、はっきりとした祖父の気配となってわたしを肩の後ろから支えてくれている。


 のっぽの祖父、わたしの祖父、魔術士ユーリ・マクナマラが。


 ――じっちゃん。わたしはあの子を、ベイトリーシュを助けたいんよ……。お願いやから、力かしたって!


「リ・ヴァース!!」


 その時、一挙に膨らんだものの正体が何なのか、わたしにはわからなかった。竜の吐いた業火が辺り一帯に炸裂したのかと思う。視界に緑色の光があふれていって、竜の頭も翼も何もかも、判別がつかなくなってしまった。


 液晶板すら見えなくなったけど、わたしは左手に腕環、右手にハンドルの感触を握りしめて、エアナの均衡だけは保っている。


 ……と、不意にすべてが見え始める。空中に、巨大な緑色の蜘蛛の巣みたいなものが光った。腕環と同じ組み紐文様が、空いっぱいに増殖したようなうねり方で、竜の全身を取り絡めているのだ。

 

 編まれ組まれた光の紐から、緑の光が竜の身体に移ってゆく。やがて緑色に光り出した竜の翼がしゅうんと縮まり、次いで長い首とごつい四肢も、しゅんしゅん小さくなってゆくのがわかった。


「……」


 エアナの操縦席から、わたしはじっと見ていた。竜はすごい勢いで縮こまってゆく。尻尾が見えなくなり、翼が消え、とうとうその身体が小さな人間の形を取った時、わたしはエアナをそこにむけて前進させた。組み紐文様に支えられるようにして宙に浮いているもの。ふあんふあんした大容量のもこ金髪、もこ服、でっかい図体のかさばるお姫様を迎えに行った。


 真下に来た時、シートベルトを外して立ち上がり、両手を伸ばして組み紐の巣からベイトリーシュを抱き取る。仰向けにふわふわ浮いているベイトリーシュは、眠っていた。金髪が、泣きよごれた顔にべたべた貼りついている。でもちゃんと、生きていた。


 魔法の組み紐が薄れて行って、がっくーん! とベイトリーシュの重みがわたしの両腕にのしかかってきたけれど。わたしはあまりに安堵してしまっていて、一瞬ベイトリーシュのもわもわカーディガンの胸に顔面をうずめた。


「よかったぁぁぁ。小さくなって、お洋服も元通りやーん」


 いや、でっかいお姫様だけど。この辺、またしても祖父は正しかった……。竜は、小っちゃな女の子(・・・・・・・・)に戻れたのだ。



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