13. 滅亡の真相
……薄暗い部屋、冷たいような石造りの一室。
冗談みたいにきれいな女の人が、ふかふかふわふわ、わたしなんかにもう名前のさっぱりわからない、ものすごいお衣装を着て座っている。腕に赤ん坊を抱いて、目の前に腰かけた六つくらいの女の子に向き合っていた。こっちはベイトリーシュだ、すぐにわかる。丸ぽちゃ顔に金髪おさげ。丸々していて本当にかわいい、子どもらしい子ども。
≪……あなたの弟が。将来この国の王様になったなら、どんなにいいかと思わない?≫
母親の問いに、ベイトリーシュは小首を傾げている。
≪母様はね、たくさんいるお妃の一人だから、力がないの。だからねえ、ベイトリーシュや。あなたの弟のために、母様に力を貸しておくれ≫
ふい、と目の前の風景が濁る。代わって、もっと薄暗い別の部屋が見えた――ろうそく灯りが一つきり。それが、小さなベイトリーシュの背中を照らしていた。
裸の上半身を丸めて、寒そうに腰掛に座るベイトリーシュの後ろに、細長い年輩女性が立っている。絵本の魔女みたいに節くれだったその婆さんの、手に掲げた杖の先端に紫色の光が灯る。つるとしたベイトリーシュの背中に、黒い翼のしみが浮いた。
……また、わたしの目の前が濁っていった。今度は明るい部屋、大きな天蓋付き寝台の枕に、少年の青白い顔が埋もれていた。寝台の周りは花、花、花……。花畑の中で、動かない少年の体に取りすがって泣きわめく女性が見える。
≪なぜ、なぜ、なぜ! こんな風にわたしの王子が、死ぬわけはないッ≫
少年の枕元に突っ伏すようにして、女性はぶるぶる震えながら、こぶしで時折寝台を叩いている。
≪おのれぇぇぇ。正妃、第二妃、第七妃ぃぃぃ。毒を盛ったな、病を運んだなッ≫
女性のすぐ後ろには、きれいに大きく育ったベイトリーシュがいた。かあさま、と言いつつ女性の背に手をかけてさすり、母親をなだめようとしている。
≪あるいは、呪いかぁぁぁっ。そちらがそう来るなら、わたしも呪いを放ってやるうううう! 滅ぼせ。滅ぼせ、滅ぼせ! ベイトリーシュ、救いようのない馬鹿どもだらけのこんな王宮! こんな国なんぞ、あとかたもなく――≫
≪母様、やめて!!!≫
≪滅ぼしておくれぇぇぇぇぇ≫
みにくくゆがんだ母親の顔が、あの魔術士のお姉さんと同じ呪文を詠唱したようだった。呪文……と言うよりは呪詛のようなその絶叫に、ベイトリーシュの哀願はかき消されて……。
目の前に、焦土が広がった。黒い煙のたなびく中、瓦礫の山と化した町の中を、ベイトリーシュは見下ろしている。ちろちろ、つろつろ……。そのごちゃごちゃの中にうごめく、無数の粒のようなもの。それらに向けて、ベイトリーシュは炎を吐いてゆく。うごめくものが見えなくなるまで、丹念に無造作に、炎をかけて滅ぼしてゆく。
再び、涙を流す竜と目が合った。
もうだめなんですの、と言うベイトリーシュの声が、わたしの頭の中に響いた気がする。
彼女の過去を見せられて、わたしもベイトリーシュにかけられた竜の魔術を理解しかけていた。
そう。魔術の呪願者ベイトリーシュの母親は、息子の守護者たる竜に変身できるよう、姉娘に施術しておいたのだ。だからその弟が亡くなった時点で、ベイトリーシュには果たすべき使命なんてなくなっていた。おかしくなった母親が、滅ぼせとあえて言わなくても……。発動の呪文が放たれた時から、ベイトリーシュは破壊の怪物の本能に抗えなくなるのだ。
「……まさか。そんな、……」
わたしは下半身にシートベルトを引っかけたまま、エアナから身を乗り出して、竜のぎざぎざ背中とげに両腕を回していた。
ふううーん! 竜は旋回飛行する。三百六十度の方向を、品定めでもしているかのように。そしてぴたり、と止まった。わたしは竜の首先の向こうを見る。暗い中に、浮かぶ灯り。島の集落の灯りだ。
ぶわん! 翼を力強くはばたかせて、竜は前進を始めた。わたしは慌ててエアナの操縦席に戻る。震えかける手で、シートベルトをどうにかはめた。
「あかん! ……もう人を襲ったら。町を壊したらあかんて、ベイトリーシュ!」
エアナを浮上させ、わたしは前に向けて飛ぶ竜の首筋あたりにそって飛んだ。とにかく呼びかけることにする。と言うか、わたしにはそれしかできない。
「ベイトリーシュ! しーんこきゅ~う! 深呼吸してみー、落ち着くからーッ」
竜は……げっぷをするように、小さく頭をのけぞらせた。
「あー、あー、あっかーん! 火ぃは吐かんとー、息を吐くんよーッ」




