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放課後カミカクシ・レトロ  作者: 雨音静香
第九章 不通? 疎通?
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洗脳の解除

「じゃあ、解くわね」

 千夏ちゃんはそう言って、ユミリンの前に立った。

 頭が回ってなかったからか、その状況になって、解除方法をまるっきり考えていなかった自分に気付く。

 そのまま勢いで千夏ちゃんに解除方法を聞こうとしたタイミングで、頭の中に『主様、待つのじゃ』と制止がかかった。

『リーちゃん?』

『千夏は既に方法を思い浮かべておる。直感か、あるいはイメージがあるのかはわからぬが、主様が声を掛けることで、影響が出る可能性があるのじゃ、それ故、ここは静観が吉じゃ』

 確かにリーちゃんの言うとおりだと納得した私は、千夏ちゃんの解除を見守る方向に意識を切り替える。

 むしろ、千夏ちゃんの使う方法で解除できるなら、それを使えば良いかと、』私は意識を切り替えた。


 パス、カス……と、どうにも気が抜けそうな音が繰り返し響いた。

 原因というか、音の源は千夏ちゃんの指……親指と中指を擦り合わせた後に、中指が親指の付け根を叩く。

『リーちゃん』

『……いわゆる指パッチンでは無いか……のぅ』

 あれは何かと頭の中での問い掛けに私へのリーちゃんの答えは、なんだか戸惑いの混じったものだった。

 そもそも、指パッチンといえば、パチンとそれなりの音が響くイメージがある。

 加えて、催眠術の解除に指パッチンを使っている動画を見た記憶もあるので、千夏ちゃんのしたいことはわかるのだけど、音が今ひとつなせいか、ユミリンに効果があるようには見えなかった。


「だ、ダメだわ……私には解除できないかもしれない」

 諦めの言葉を放った千夏ちゃんに、ユミリンが「はっ? お前、解除できないのに、洗脳したのかよ?」と強めに食ってかかった。

「い、良いでしょ、実害無いんだから、掛かったままでも!」

 千夏ちゃんの逆ギレにも見える切り返しに、ユミリンは即座に切り返……さずに「ん? それもそうか」と呟く。

 が、そこで終わらず、ユミリンは首を傾げた後で「いや、違う。ちゃんと解除できないものを使うのはダメだ。失敗したら大変なことになるんだぞ? 私の場合はたまたま概が無かっただけだ!」と正論を解き放った。

 反論の余地のないユミリンの指摘に、千夏ちゃんは「うぐっ」と声を詰まらせる。

 その後、左右に目を泳がせてから「ごめん」と大きく頭を下げた。


「この中に、指パッチンのできる人はいませんか!?」

 千夏ちゃんが皆を見ながらそう質問をした瞬間、私の頭の中に飛行機の中で急病人が出て、お医者様を探すCAさんのイメージが浮かんだ。

 噴き出さずに済んだのは、訴えている千夏ちゃんがかなり深刻な表情を浮かべていたからだろう。

 そんな千夏ちゃんの前に名乗り出てくれたのは、まどか先輩だった。

「あ、私、できるよ」

 親指と中指をくっ付けた状態で右手を少し掲げながら、千夏ちゃんに微笑み掛ける。

「ほ、本当ですか!?」

 千夏ちゃんの問いに頷きながら前に出たまどか先輩は「それで、どうしたら良いかな?」と問い掛けた。

 まどか先輩に歩み寄った千夏ちゃんは、つま先立ちになる。

 耳打ちしたいのだと察したまどか先輩は、さりげない所作で膝を曲げて千夏ちゃんの口に自らの耳を寄せた。


「了解だよ、千夏ちゃん」

 まどか先輩の了承を受けた千夏ちゃんは、ビシッとユミリンを指さして「今から解除するから、覚悟するのね!」と言い出した。

 対して指を向けられたユミリンは「なんで、いちいち挑発するんだ、お前は」と呆れたような表情を見せる。

 ただ、別に苛立ったり、呆れているわけでは無く、やりとりとしては楽しんでいるのか、口元は笑っていたので、私は正直、ほっとした。

「はい、さっさとやるから、まどか先輩の指を見て」

「へいへい」

 言葉はとげとげしいし、やれやれ感が出ているのに、どうにも微笑ましい。

 こちらに飛び火しないように、澄まし顔を保つのが結構大変だった。

「それじゃあ、解除するわよ」

「わかった」

 ユミリンが返事をした直後、まどか先輩の指が動き、パチンと綺麗な音が響く。

 それから、数秒、誰も動かないし、声も発しない時間が経過した後で、ユミリンが「……何か、変わったような気はしないんだが……」と困り顔で言った。

 対して千夏ちゃんは満面の笑顔で「はい、解いて」と言いながら社会のドリルを突きつける。

 そこで再び時が止まり、数秒、ユミリンが「解く必要は無いだろ、さっきやったばかりだしな」と切り返す。

 ここで『あ、解けた』と思ったんだけど、千夏ちゃんは容赦しなかった。

「ちゃんと、解けたかどうか確認しないとダメなんだから、解いて」

 満面の笑顔で詰め寄っていく千夏ちゃんに、ユミリンが「……お前」と溜め息交じりに声を漏らす。

 その後で「覚えてろよ」と言いながらドリルを受け取った。

 テーブルに座って、ドリルに向かうユミリンからは、完全に気乗りしてないのが手に取るように伝わってくる。

「これ、別に解かなくても良いだろ?」

「実際に解いてみたら楽しくなってるかもしれないじゃ無い? それって解除されてないってことになるんじゃ無い?」

 千夏ちゃんの切り返しに呻きながら、ユミリンは渋々と問題を解き始めた。

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