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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「求愛と破壊のすれ違い」
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求愛と破壊のすれ違い part6

「重度の中二病」というのは、能力を発動するときの条件によって、効果も変わってくる。


例えば、奈月(なつき)の『輝かせる為の美しき剣』は持っている、実体のある竹刀を通じて威力を発揮しているので、建物や机などといった『物』を切断することが可能であるが「剣が汚れてしまう要因」となり得る『血の通った存在』に対して、切断の痛みを与えることが出来ても切断することは不可能だ。


一方で、黒山(くろやま)の『孤高となる為の拒絶』は『気持ち』という概念を持つ存在のみに威力を発揮する。

瓦礫などの元から実在していたものに対して『拒絶』を使っても跳ね返すことは出来ないし、攻撃手段としては使えても相手の格闘攻撃を『拒絶』して無効化することは不可能だが、能力によって生まれたような元から実在していないもの(ヤイバ男のヤイバ等)は、跳ね返したりすることは可能となっている。


今回、颯太(ふうた)が連れた唯香(ゆいか)を追い回す男は、かつて下崎(しもざき)が使っていたのと同じ『結ばれる為の赤い糸』に目覚めていた為、赤い触手を伸ばして唯香を捕まえようとしてきた。


颯太は「こっち」と言って、唯香の手を引きながら角を曲がり……角を曲がり……と、相手を見失わさせるとともに、相手の攻撃を回避する。


『結ばれる為の赤い糸』が出す赤い触手は、元より存在していたものではないので、壁や家を壊すことは出来ない。

かといってすり抜けるわけでもなく、衝突する直前で自動的に止まってしまう。



「ふーたぁ……あの赤い触手みたいなの、気持ち悪いよぉ……」


「ああ、確かにキモいな! だから後ろを向かずに走れ!!」



今回の相手はなかなかにしつこく、いくら逃げても距離を離せたような気がしない。


だが颯太にとって、それは別に問題ではなかった。大事なのは、唯香の家へ着実に近付くことだからだ。



「待てよぉぉぉぉ!!」



赤い触手を伸ばした相手が、まるで叫ぶ幽霊かのような勢いで迫ってくる。



(……にしても、逃げきれねーってのはどういうことだぁ?)



颯太は逃げながら考える。今まで、逃げきれないなどという経験は無かったので、今回の状況に奇妙さを覚えた。


すると、唯香が突然ピタッと止まった。突然かかった腕の負荷に、颯太も驚いて止まる。



「おい……どうした……唯香?」


「ぜぇ……ぜぇ……もう、無理……」



いくら高校生という体の全盛期とはいえ、体力にも限界がある。

その限界に近づいていた唯香は、かなり弱気になっていた。



「もう……逃げきれない……私が……囮に、なるから……」


「馬鹿言ってんじゃねー! 俺は……俺は、お前を守るって決めてんだよ!!」


「だ、だけど……」


「囮には俺がなる。だからお前は……」



逃げろ、そう言いかけた瞬間、目の前に敵が現れた。


敵の姿を捉えた颯太は唯香の前に立ち、すぐにでも戦えるよう、ファイティングポーズを取った。


すると……。


暗い空から颯太と同じ制服を着た男が、颯太と相手の衝突を妨げるかのように、2人の間へ舞い降りた。


その男も、相手の方を見て颯太に言葉を発した。



「その必要は無い。あいつは俺が相手をするから、2人で逃げろ」


「あ、あんたは……」



そこに立っていたのは、詩織(しおり)真悠(まゆ)の両手に華で帰ったはずの黒山だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


詩織と真悠の2人と別れた黒山は、考え事をしながらも真っ直ぐ家に帰ろうとした。


しかし……。



(そういえば、結局、調査は出来なかったな……)



別にそこまで恨んでいるわけではないが、今日の予定を変更せざるを得なくした女子を思い浮かべて、大きな溜息を吐いた。


既に陽は落ちて暗くなっている。


2人と別れた地点は、既に2人の家から近い場所なので既に帰宅していることだろう。



(……仕方ない。今からでも)



そして黒山は、最初の被害者が出た現場へと向かうことにした。


その道中のことだ。



(…………?)



気配を感じた。近くに「重度の中二病患者」が3人いると、本能が告げている。


ただそこにいるだけならいいが、そのうち1人が発動しているような気がしてくる。

というか、そもそも3人も集まっている時点で異常事態だとも言えるのだ。


調査はもちろん大事だが、事件が起こる前に処理できるのであれば、それが最善。

黒山は、気配のする方向へ脚力の限界を『拒絶』して飛び上がり、比較的上部に見える屋根の上を飛び移って向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


意外な乱入者に、颯太と唯香は目を丸くして立ち尽くしていた。



「何やってるんだ、早く行け」


「け、けど、先輩。相手は変な触手を使う相手で……普通の人には……」


「……やれやれ。まあ、自分の目でしっかりと確かめることは大事だからな」


「は? あんた、何を言って……」



そんな会話を繰り広げているうちに、相手はすっかり距離を詰めていた。


黒山に敵対の意思があることをしっかり感じているようで、憎しみが篭った声をあげた。



「どけよ……どけよぉぉぉ!!」


「悪いが、退くわけにはいかない」



無数の触手が相手の背中から伸び、黒山を轢き殺そうと勢いよく迫る。



「危ねー!!」



颯太がそう叫んだが、黒山は無数の赤い触手を躱そうとしない。代わりに右手のひらを前に向けて、静かな声で呟いた。



「俺は、お前の害意を『拒絶』する」



黒山の右手のひらに当たる直前で、無数の赤い触手は1本も残らず消え去った。


この結果に、颯太と唯香。そして相手も驚いていた。



「わかっただろ? 俺はやられない。だから早く逃げろ」


「わ、わかりました……。唯香、行くぞ」


「う、うん!」



2人は黒山を置いて、小走りで去っていった。



「お前ぇぇぇ!!」


「やれやれ……冷静さを欠いているようだな」



『武装型』を発動し、両腕がとても人間のものとは思えない禍々しい腕へ変わる。


禍々しい腕からは微かに黒い煙のようなものが出ており、相手はそれを見逃さなかった。

そして、悪寒が走る。



「…………ふっ!」



黒山は素早く相手の懐へと移動し、まずは1発。禍々しい右手で相手の腹を殴った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふ、ふーた……」



唯香が不安そうな表情を颯太へ向けた。


一方で颯太の顔は「勝機を得た」という勇ましい顔になっている。

そして、唯香が不安に思っていることを的確に把握していた。



「大丈夫だ。あの人は、絶対に負けねー」


「なんで? どうして、そう思えるの……?」


「直感だ。本能なのかな、あの人は味方にすると心強いが、相手にするとやべー気がするんだ」


「……でも、巻き込んでしまったから、後日謝罪に行かないとね」


「そうだな」



黒山が敵を食い止めてくれているお陰で、家の近くまで最短距離で辿り着くことが出来た。


ここまで来れば、勝ったも同然。


そう思って家へ向かう颯太だが、今度は颯太が突然ピタリと止まった。



「……どうしたの、颯太?」


「そういうことか。通りで、なかなか逃げきれねーわけだ」



後ろを振り向くと、最初に追いかけてきたのとは別の男がそこに立って、こちらを睨みつけていた。



「ひっ……!」



唯香の短い悲鳴が、ここに来て油断していた颯太を反省させた。

だが、勝機を得たことに変わりはない。



「唯香、走るぞ」


「え、あ、うん……!」


「っ! 待ちやがれ!!」



一直線に走り続け、家まであと300m。その地点で颯太は唯香の手を離した。



「行け、唯香! あとは俺がどうにかする!」


「無茶だよ、ふーた!!」


「うるせーよ。今までだって、負けたことなかっただろ? ……俺を信じろ」



街灯に照らされる颯太の真剣な顔を見て、唯香はコクリと小さく頷いた。



「……うん、わかった。だから、ちゃんと帰ったら、ちゃんと連絡してね……?」


「ああ、約束する」



唯香が小指を立ててきたので、そこに颯太は自分の小指を絡める。

そして2回ほど振ってから離し、唯香に向かってニカッと笑顔を向けた。


再び小さく頷き、心配そうな顔でこちらの方を向きながら家へ入って行く唯香を見届け、颯太は逃げることから倒すことへ意識を変えた。


本能的に狙った女の子を逃がされ、大層ご立腹な相手に対し、颯太も怒りを爆発させた。



「あいつが魅力的だ、って思う気持ちはわからなくもねーが、初めて会った相手に対して、追っかける真似ってのはどうなんですかねー?」


「……邪魔してくれやがって。絶対に許さん」


「奇遇だな、俺もてめーを許さねーよ。つか、中々逃げきれねーと思ったら、まさか2人に追っかけ回されていたとはな。正直、それに気付けなかった自分自身も許せねーよ」


「何を言っているのかよくわからないな」



彼の言っていることは事実で、敵は協力しているわけではなく、片方から逃げた先がもう片方から近い場所だった、というのが今回の逃走劇だ。


そもそも、同じ女の子を狙っている者同士、協力し合えるはずがない。



「まあ、そんなことはどうでもいーか。……覚悟しろよ。そして、今のうちに後悔を済ませておけ」


「は? それはこっちのセリフ……」



颯太はブレザーの下にきたパーカーのフードを目深に被り、怒りに身を任せた。


相手は颯太が出す尋常じゃない雰囲気に、少し怖気付いた。



「はっ……ははははは! せいぜい楽しませてくれよなぁ!?」



人が変わったように狂い笑いながら、颯太は相手に向かい、走り出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なんだよ、それっ! そんなのありかよ!?」



どんなに赤い触手を伸ばして攻撃しても、全て弾き飛ばされてしまうことに、相手は驚愕した。

しかし、黒山は相手に近付こうとしない。


そんな状況に、相手は誤解をしてしまった。



「あ、ああ! そうか!! 赤い糸の数が多いから防御で精一杯なんだ!? 大口叩いておいて、その程度なのかよぉぉぉ!!」



そんな相手を見て、黒山は戦闘にあまり関係のないことを考えていた。何故『結ばれる為の赤い糸』に目覚める奴らはこんなにうるさくなるのか、と。

そして同時に失望した。相手の使い方は、下崎の使い方と比べてかなり劣っている。


その能力の使い方のバリエーションを研究するという理由で防御に専念していたが、何か秘策を繰り出してくるような気配も感じられないので、ここで決着をつけることにした。



「……まったく、勘違いも(はなは)だしいな」


「なにぃ?」


「まあ、手加減したとはいえ、最初の一撃でダウンしなかっただけマシか」



中距離攻撃を得意とする相手に、わざわざ近距離で挑む必要はない。

黒山は『武装型』を解除し、普通に人の腕と戻った両手を相手に向けた。



「このぉぉぉぉ!!」



無数の赤い触手に襲わせる、という単調な攻撃に対し、両手から出した『拒絶』のオーラが、触手とぶつかり合い、全て弾き飛ばした。


相手はその現象にただ驚くばかりだったが、黒山の行動はこれが終わりではない。すぐに攻撃へと移り変わる。



「さあ『拒絶』しろ。意識を保ち続ける自分を」



今度は両手のひらから、圧縮された黒い『拒絶』の球が、相手にぶつけられた。



「う……あっ……」



ほんの少しぐらつき、膝をついて相手は倒れ込んだ。


意識のない相手に対し、黒山はそっと呟いた。



「すまないが、未だ加減がわからない。早いうちに目覚めるといいな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


走り出したとはいえ、颯太は黒山のように自身の限界を『拒絶』できるわけではないし、特別走るのが早いわけでもない。


相手が反応するに十分な時間があった。



「このっ!!」



この相手が使う能力も『結ばれる為の赤い糸』だった。

無数の赤い触手が、全速力で走ってくる颯太を襲う。



「あぁ? あめーよ!!」



颯太が右手の拳を前に突き出すと、触れた触手は全て破裂し、当たらない残りの触手は感覚で躱した。



「うらぁっ!!」



そして1発。相手の腹に蹴りを入れた。



「ぐおっ!? ……けほっ!」



受けた場所が悪く、相手は咳き込んだ。苦しそうに地面に転がり始め、酸素を得ようと呼吸をどうにか整えようとする。

しかし、颯太はその隙を逃さずに、相手の襟首を掴んで引きずり始めた。



「て、てめっ、何を!」


「こんなとこじゃさぁ、目立つでしょうよ! つか、ゴミカスをあんなとこに放置するわけにはいかねーからさぁ!」


「離せ……よっ!」



相手は暴れることで、どうにか颯太の手から離れることが出来た。

距離はゼロ。触手で攻撃するにはもってこいの状況だった。



「くらえ!!」



ほとんど至近距離で生み出した触手を颯太にぶつけた。見立てでは、無数の触手に(なぶ)られ、決着がつく。


……はずだった。



「な、なに!?」


「はぁ? こんなので俺を倒そうだなんて、人生舐めすぎっしょ?」



触手達は颯太に触れた途端、全てが破裂した。

頭から付け根へ、導火線のように壊れていった。



「ば、化け物かよ……!?」


「あぁ? 俺が人間だろうが、化け物だろうが、唯香を守れればそれでいいんだよ。だからさぁ……」



颯太は相手の右腕をぐっと掴み、狂気に満ちた瞳で相手の恐怖に満ちた瞳を覗いた。

読んでくださりありがとうございます! 夏風陽向です。


前にも書いたと思いますが、過去に投稿した話を読み返してみると、所々で奈月の一人称が「私」になっていてビビってます。

「ボクっ娘、いいよねー」と思い登場させておきながら、ミスって特徴を潰してしまうという愚行……。


どうにかしたいですね(苦笑)



それではまた次回も読んでくださると嬉しいです! 来週の水曜日をお楽しみに!

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