求愛と破壊のすれ違い part5
瞬殺……とはまさにこのことだろうか。
ガラの悪い生徒3人はそれぞれ、一撃でダウンさせた。
今はもう既に事後で、圧倒的な強弱の差を理解させられたガラの悪い生徒3人は一目散で逃げていき、手助けしてくれた2人にお礼として飲み物を奢ることにした。
しかし、上杉は「何のこれしき。例には及ばぬ」と言って、そのまま去っていったので、黒山と真悠と颯太の3人で昇降口付近にある自動販売機へ向かい、黒山が颯太に缶コーヒー(微糖)を渡したところだ。
「…………」
「あ、どうも」
黒山は颯太とほぼ同時に缶コーヒーを開け、一口飲んで考え始めた。
上杉の体格ががっしりしているため力が強いことと、鈴木花梨の一件で詩織を守るために操られた男子生徒複数を同時に相手していたことがあったので、上杉の強さは知っていた。
だから、初対面にも関わらず加勢してくれた颯太の力と心の強さには驚かされた。
普段はあまり自分から話しかけない黒山だが、颯太のことが少し気になったので、珍しく自分から話しかけた。
夕日を見ながら、かつて詩織にも言ったあの言葉を最初に。
「こうしてゴミ(今回は人間的な意味で)を片付けた後で、缶コーヒーを飲みながら夕陽を見ていると、明日も頑張ろうと思わせられるな……」
すると、見かけによらず颯太は意外と黒山のそんな言葉に返事をした。
「明日も頑張ろう……とまでは思わないっすけど、確かにゴミ(人間的な意味で)を片付けた後はスッキリっすね」
「フッ……俺は2年3組の黒山透夜だ。君の身のこなしは横目で見させてもらったが、結構、喧嘩慣れをしているように見えるな」
「えっ? ああ、俺は1年2組の嶺井颯太っす。まあ、何て言うか……幼馴染の女の子が、なんか男にちょっかい出されやすい体質なんで、そいつを守ってたから……っすかね?」
「成る程。ここまでに至るほどなのだから、色んなやつを相手にしてきたんだろうな。男にちょっかい出されやすいといえば……」
黒山は、ロイヤルミルクティーをちびちびと飲んでいる真悠の方をじっと見た。
「ん? どしたのー?」
「栗川。異性にちょっかいを出されやすい女の子がいるらしいから、アドバイスしてやれ」
「アドバイス〜? まあ、確かに私も何回か嫌な思いしたことあったけどー、しーちゃんが助けてくれたし……」
助ける人が男であれ、女であれ、どこも状況は変わらないようだ。
「……すまない、参考にならなかったな」
「いや、別に……」
「ところで……」
「そいえばさー!」
黒山は「ところで」という入り方で、颯太に聞きたいことがあったのだが、真悠の無駄に大きい声で掻き消されてしまった。
2人同時に話を始めたところで颯太は聞き分けて、それぞれに答えることなど出来ないだろうと思ったので(普通は皆そう)黒山は真悠に譲ることにした。
もっとも、真悠に「譲ってもらった」という意識はないがーーー。
「ふーた君も助けてくれてありがとーね! そんで、ふーた君はあんなとこで何やってたのん?」
そんな質問のされ方をして、颯太は思った。「この人……何処と無く唯香に似てるな。まあ、この人の方が可愛い気がするが……」と。
しかしすぐに、質問された内容に意識を向けた。
「その幼馴染が今日、級長会があるって言うんで待ってたんっすよ。ただ、教室にいるだけじゃつまんないので、校内を見て回ってたんっす」
「あっ、そうなんだー! しーちゃんもね、級長さんだから、参加してるんだよ〜?」
「そうなんすか。ってか、かわい子先輩。その、しーちゃんってかわい子先輩の彼氏っすか?」
そんな颯太の質問に、真悠は大声で笑った。
颯太が黒山の方へ向くと、黒山は2人の方から顔を逸らしてプルプル震えている。
「あっははは! ははは、はは! ふ、ふーた君、しーちゃんは女の子だよぉ! ひっ……ひひひ……わ、私の幼馴染なんだよ! そ、それにかわい子先輩って、どんな呼び方なの! ふふふ」
颯太は、真悠に名前を聞くのが何となく気が引けたので、先ほどのガラの悪い同学年が呼んでた呼び方に、とりあえず倣ってそう呼んだ。
気を悪くしてしまうのならどうにか変えるつもりだったが、そういった悪い感情を抱いているように見えないので、そのまま呼ぶことにした。
それよりも、真悠曰くしーちゃん……つまり、詩織を男と間違えてしまったことに赤面した。
「す、すんません!」
「い、いいの! ふふふ、でもね、確かに男勝りなところもあ、あるから……あははは!」
どうやら真悠は『ツボっている』ようだ。
一方、黒山はどうにか真顔を取り戻したようで(実は『拒絶』を使った)言葉足らずな真悠の説明に補足を加えた。
「栗川の言っている、しーちゃんというのは、梶谷詩織のことを指している。2年3組の級長で、幼馴染である栗川を守るために番犬みたいな役割を担っていることがある」
「番犬みたいな役割……!? それはまた、パワフルな方なんっすね」
「パワフル……か。なかなか的を射たイメージだな」
「ぱ、ぱ、パワフル!! うひひひひひ!!」
真悠が再び笑いのボルテージが急上昇させた一方で、黒山と颯太は青い顔をした。何故なら……。
「誰が、パワフルだって?」
唯香を斜め後ろに控えさせ、腕を組み、仁王立ちで黒山と颯太を睨んでいたからだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2人並んで詩織に謝ったところで、解散となった。
「せっかくだから」という真悠の要望に応え、黒山は詩織と真悠の2人と帰ることになった。
しかし憐れにも、黒山は颯太と違って謝っただけでは済まされず、パワフルなげんこつを喰らうという、制裁を受けたのだった。
「……本当にすまなかった」
頭にできたたんこぶを右手で撫でながら、黒山は詩織に改めて謝罪をした。
「今回はこれで許してあげるけど、次はないわよ?」
「わ、わかった……」
黒山は心から反省することになったわけだが、一方で真悠は「間違っていないと思うなぁ」という本音を抱いていた。
しかし、それを言えば自分も鉄拳制裁の対象となってしまうことが真悠にも何となくわかったので、余計なことは言わないでいる。
というか、言わせまいと詩織がちょくちょく真悠を睨みつけている。
「それにしても……」
「ん?」
黒山が謝罪した時の申し訳なさそうな顔から、重度の中二病関係の事件が起こった時のような真顔になったので、詩織も先ほどのことを引きずらず、耳を傾けることにした。
「あの2人……。どちらも重度の中二病患者に見える」
「「え?」」
黒山の発言に、詩織と真悠はハモってしまうほどに驚いた。
「だが、俺には2人が重度の中二病患者だということがわかっても、能力の内容まではわからない。……とはいえ、そこまでの心配は必要ないかもしれないな」
「えっと……それはどういうこと? 黒山君は2人を取り締まらないの?」
「俺が取り締まるのは、私利私欲の為に能力を暴走させている患者のみだ。彼らの場合……というか、颯太の場合は幼馴染である彼女を腕っ節で守っているようだから、問題はないだろう。……それに」
「それに?」
黒山はその先を説明しようかどうかを、直前になって迷った。……というより、躊躇った、と言う方が正しいだろう。
黒山の見立てでは、今年の新入生には実際に目覚めている者もいれば、兆候が出ている予備軍もいる。
しかしそれは、新入生だけに言えたことではない。上級生や同学年も同様なのだ。
そしてそれを、詩織と真悠の2人に言ったところで不安にさせてしまうだけなのだと思うと、言う必要がないことのような気がしてくる。
結局、黒山は……。
「いや、何でもない。すまない」
と、詳しい話をしないことにした。
「何なのよ、もーう!」
「気ーにーなーるー!!」
詩織と真悠の2人はそうやって言いつつ、黒山を横目で睨むが、目を逸らして口を開こうとしない。
「このままというのも居心地悪いな」と感じた黒山は、この場から離脱することに決めた。
「それじゃ、俺はここで……。また月曜な」
「あ、ずるっ!」
「ひどーい!!」
2人の文句を全て無視し、黒山は闇の中へ消えていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「もう、ふーた! 女の子に……ましてや先輩に、パワフルなんて言っちゃ駄目じゃない!」
「いや、だからあれは単なるイメージで言っただけなんだっての!」
「それはそれで駄目なの! そうやって、女性に対するイメージをそのまま口にすると、知らず知らずのうちに女の子の敵となっちゃうから、気をつけなきゃ駄目だよ!?」
「あ、ああ。反省してる……ってか、いつまで経っても危機管理を持たないお前に言われたくねーよ!」
「それはそれ、これはこれ……でしょっ!」
「……確かにそうかもしれんな」
一方で、颯太も帰りながら唯香に説教を受けていた。
こうして颯太が唯香に叱られる、というのは今や珍しいことだ。
幼馴染である2人は、幼少期も一緒に過ごしてきたわけだが、当時は颯太が唯香に怒られている、というのが普通だった。
幼少期の颯太は特に動き回るのが好きで、気になったら触れたり、口に入れてみないと気が済まない子供だった。
そしてそれを注意して、手綱を握っていたのが同い年にもかかわらず、精神的に一歩大人だった唯香だ。
今や逆……とも言い切れず、颯太は唯香を叱るばかりで手綱を握れていないのが現状なのだが。
「まあでも、実際は結構綺麗な顔立ちの先輩だったな。かわい子先輩も可愛いし、類は友を呼ぶってのは外見でも言えることなのかもしれねーな!」
「…………」
「…………? どうした、唯香?」
「……私は?」
「へ?」
「……もう! 私は? って聞いてんの!!」
街灯の明かりが、唯香の顔を照らす。
顔を赤くしながらも、颯太の目に真剣な眼差しを向け、答えに期待する。
お互いの速くなった鼓動が、聞こえてくるような錯覚に颯太は襲われた。
思い掛けないことを問われ、恥ずかしさに視界が真っ白に埋め尽くされるのをどうにか気力で抑え、答えようと頭を回転させる。
「あ……っと、その、なんだ……?」
「…………」
正直、唯香を「可愛い」と思ったことは数え切れないほどにある。
思った瞬間、全てに記憶があるわけではないが、少なくとも現在、最後にそう思ったのは、今のこの瞬間だと言える。
しかし、そのたった一言。漢字と送り仮名で3文字。平仮名で4文字の言葉がうまく出てこない。
どうにか出そうとするが、突如現れた「害意」に意識がかなり現実的なものへ引き戻された。
「……唯香」
「な、なに?」
「わりーけど、その答えはまた後で……だな」
「え?」
のらりくらりと、男がこちらにやってくる。
街灯の光を避けるように顔が隠された男が寄ってくるのを見て、唯香の表情が恐怖のものへと変わる。
経験上だろうか、颯太には相手の男が「普通の人」ではないのが、どこかわかった。
このような目立つ場所では、逃げることに精一杯でまともに戦えない。もしくは、逃げている途中で何の関わりも持たない人が巻き込まれてしまうかもしれない。
本音を言えば、颯太にとって唯香さえ守れれば他の人がどうなっても知ったことではないが、それを見て唯香は悲しんでしまう女の子だということを、颯太は誰よりも知っている。
だから……。
「唯香、こっちだ!」
「え、あ、うん……!」
唯香の手を引き、敢えてあまり人通りの多くない場所へと走った。
唯香の『謎の体質』に引き寄せられた男は、人の目につこうがなんだろうが、彼女を自分のものにしようとする。
ただしそれは最終的な手段であって、唯香に対して盲目的になっていても、世間体を気にする部分はそのままなので、最初は目立たない場所へ連れて行こうとするのが、いつものパターンだ。
そして、颯太にとっても、唯香を守るには都合がいいパターンだった。
「ど、何処へ向かうの、颯太……?」
「家から近ければそのままお前を返すのが1番だが、まだ距離がある。んで、俺の感覚だと、どうもあいつは普通じゃない感じがするな……」
「高校生の私たちを追っかけてきてるんだから、その時点で普通じゃないよ!」
「いや、あいつはお前だけを標的にしてるんだが……まあ、それはいいとして、まずはあいつを撹乱させてから急いで帰宅するぞ。いいな?」
「う、うん!」
「……よし、こっちだ!」
颯太は右手で唯香の左手を強く握りしめ直し、最初の角を曲がった。
読んで下さり、ありがとうございます! 夏風陽向です。
いつも「ここまでにして、あとは次回にしよう……」ってところで文字数を見ると、4000文字だったりします。
5000文字を目安として更新しているので、結局もう1000文字分書いております(笑)
それではまた来週も読んでください! お楽しみに!




