求愛と破壊のすれ違い part4
「いいかー? 一昨日起こった事件は、骨折と一部記憶喪失。昨日起こった事件は、一部記憶喪失のみだー」
針岡はペンで紙に、被害の特徴を書き始めた。
「この2つに共通しているのは、一部記憶喪失だなー。目的がイマイチわからねーが、相手は何かしら『壊す』能力を持ってるんと、俺は予想してるー」
黒山は正直驚いた。
そんな共通点、わざわざ紙に書いてまで共有することでもない。普通に考えればわかることだし、実際にその共通点を黒山は言われるまでもなく気付いていた。
それはそれとして、もっと驚きだったのは、今まで大して事件解決に協力してこなかったのに、今回は何故か協力的なところだ。
野暮かもしれないが、黒山はまず「どういうつもりか」聞いてみないと気が済まなかった。
「……珍しく協力的だな。急にどうした? 悪いものでも食べたのか?」
「いやー。今回は、他の代表者を頼れねーからなー」
「…………」
黒山は最初から自分一人で解決するつもりだった。
しかし、調査において沙希と奏太の能力は実に心強いし、戦闘となった時に敵の数が多い場合、奈月と鎌田は大きな戦力となる。
では何故、今回彼らを頼れないかというと、偶然にも各々の学校で別の事件が起こっている為、そちらの対応をそれぞれが優先しているからだった。
だからこそ、余計に黒山は一人で解決する決心を固めていたのだ。
とりあえず、針岡の思惑を了承し、話を事件の内容に戻す。
「だが、大事なのは相手の目的だろ? 自己防衛だったり、場合によっては誰かを守ってたりしているのかもしれないから、一概に悪人とはまだ言えない。それにその場合、能力を私利私欲に使っているわけでは無いのだから、俺たちが動く問題ではなくなる」
「んー? 確かにそれもそうかー」
「……いずれにせよ、相手の目的を知るところからだ。俺は俺で調査を進める」
「おー、頼んだー」
「……ところで」
「おお?」
針岡の間抜けな顔と返事に呆れつつも黒山は、今更ながら気になった点を『小声で』指摘した。
「この話……職員室でして良かったのか?」
「あー、どうせ授業の準備で忙しいだろーから大丈夫だろ。誰も聞いちゃいねーって」
「…………」
それ以上は口を開かず、無言で踵を返す形で「話は終わった」と、意思表示をする。
そのまま職員室から退室しようとすると、針岡に名前を呼ばれたので、半身だけ振り返った。
「透夜ー、情報は共有しろよー?」
「…………」
軽く首を縦に振ってから、すぐに職員室から退室。そして教室へと向かった。
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各教科のオリエンテーションが終わった1年2組では、既に普通の授業が始まっていた。
これから始まる授業は体育。
プールには男女両方とも更衣室が設けられているが、水泳以外の体育では女子にしか更衣室が設けられていない。
よって、男子は教室で体操着に着替えるしかなかった。
既に着替え終った颯太と充は、話しながらグラウンドへ向かっていた。
「それにしても、男子に更衣室が用意されていないだなんて、ある意味で差別的なものを感じる気がするよ」
「古い学校なんてそんなもんなんじゃねーの? それに、女子が教室で着替えるとなると覗きにくるやつだっているかもしれねーし。俺たち男子が教室で着替えるところをわざわざ覗きにくる女子なんてそうそういねーだろうから、どうしてもこうなるんだろ」
「成る程。それもそうか。ちなみに、嶺井君は覗きたい人間?」
そんな充の質問に、颯太は鼻で笑った。
「興味ねーよ。つか、俺のことは颯太って呼び捨てでいいぜ?」
「わかったよ颯太。俺のことも呼び捨てで構わない。それはそれとして興味がない、という言い方は彼女らに失礼だと思うけどね。しかし、例外はいるんだろう?」
「例外?」
「槙田さんだよ」
「ぶっ……!」
充のなかなかに鋭い指摘は、颯太をかなり動揺させた。それはつまり、図星だということを表している。
「お、おおお、お前! お、幼馴染の下着姿が気になるだなんて、ど、どど、どうかしてるだろ!?」
「ははっ。建前はそれでいいとして、本音は……?」
「…………ッ!」
これはもう、観念するしかない。
そう思って颯太は一度周囲を見渡してから、コクリと縦に頷いた。
そして充の顔を見ると、にやけが止まらないようで颯太はカチンときた。
「おい充! お前、人には言わせておいて自分は無しかよ!?」
充はついに笑いを堪えられなくなった。
「あっははははは! 颯太ぁ、君って面白いね! あはは!」
充の笑いに釣られ、颯太もつい笑みを浮かべてしまった。ついでに軽く反撃も付け加える。
「ふっ、ははは! まあ、充は寄ってくる女子全員だって解釈で終わらせといてやるよ」
「それではまるで俺が、寄ってくる女子なら誰でもいいみたいじゃないか!」
「え、違うのか?」
「違うとも! とはいえ、だからといって1人に絞れるものではないけどね」
何だかんだ言って、颯太は幼い頃からずっと一緒にいた唯香一直線である。
本人の前では「好きだ」とか、好意を抱いている気持ちを伝えることが出来ないが、それでも好きで守りたいと思っている気持ちはずっと胸の中に秘めている。
しかし、そんな颯太でも充の気持ちがわからないでもなかった。
彼は颯太と違って「選択肢」がある。
いつか誰かを選んだ時、他の女子との接し方を改めなければならないが、まだ選んでいる途中なのであれば、責任の取れる範囲に止めるなら問題はないだろう。
「充。いつかちゃんと、1人に定めないと後ろから刺されるぞ?」
「うっ……それは嫌だな、気をつけるよ……。颯太の方こそ、早く自分の気持ちに素直になって、槙田さんに伝えるんだよ? 俺は応援しているからね」
充の言葉は颯太にとってかなり慣れないもので、反応に困った。
少し間を空けて考えた結果、ようやくできた反応がこれだ。
「よ、余計なお世話だ! ……まぁ、応援してくれる気持ちは嬉しいからな、ありがとよ」
「男のツンデレほど気持ち悪いものはないね」
「この野郎!!」
廊下を走れば怒られるが、会話の途中で既に運動靴へ履き替えていた2人は、グラウンドの集合場所まで追いかけっこした。
つい昨日までは「警戒すべき」として充を見ていた颯太だが、お互いに本音を少し言い合ったことから彼を「友達」として認識し始めていた。
だからこそ、充を唯香に近付けたくない。
もし充が、唯香の「特殊な体質」に引き寄せられてしまったら……。
(その時は……充と敵対することになるんだろうな……)
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放課後となった。
昼間は少し気温が高めなものの、夕方になると半袖では肌寒く感じる。
もっとも、現在の制服は「冬服でなければならない」という決まりがあるので、いるとしてもワイシャツで袖をまくる男子くらいだから、季節的に早まっている生徒は1人もいない。
そんな中、多目的室では新年度の級長会が発足された。
各クラスの級長が集結する中、2年3組の級長である詩織や1年2組の級長である唯香の姿が見られる。
瑠璃ヶ丘高校の級長会は、各クラスの級長が集まり、それをまとめるのは生徒会副会長だ。
生徒会副会長は2人存在しており、会長を補佐したり級長会をまとめる役割を担う3年生1人と、次期生徒会長最有力候補として経験を積むという意味で2年生から1人抜擢される。
2年生の副会長が書記として黒板の前に立ち、3年生の副会長が議事進行を務めた。
「それでは級長会を始めます。2,3年生の級長は去年と変わっていないことを確認していますので、新しく級長会の仲間となったのは1年生の4人だけですね」
瑠璃ヶ丘高校は正直、そこまで大きくない。
人気かどうかと言われれば微妙なところで、毎年定員より少し多く志望者がいるくらいだ。
どちらかというと、定員があまり多くない為かクラスは4クラスまで存在している。
よって、新しく級長会の仲間となったのは4人だった。
「さて。毎年恒例ですが、1年生の級長には2年生の級長が教育係として付くことになっています。基本的には、クラスの番号が同じ級長と組まれるのですが……」
実を言うと、詩織にも教育係として現在3年生の級長が付いた。
しかし、相手は男で、真悠を初めて見た途端、一目惚れをしたのかすぐに真悠目的で接触するようになったので、はっきりと「近付かないで下さい」と伝えた。
そんな状況を知っていた副会長は、それを反省して臨機応変な組み方をするよう考えたようだ。
「1年生は2組の槙田さんだけが女子なので、2年3組の梶谷さんと組んでもらうことにしよう。梶谷さんも、相手が女子なら去年のような問題は無いでしょう?」
「あ、はい、大丈夫です!」
「それでは、1年3組の級長は2年2組の級長と組んでもらうことにします。続いて、今年度の活動について説明を……」
詩織が説明を聞いているのか、いないのかよくわからないくらい眠たそうにしている一方で、唯香は真剣に聞いていたのだった。
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黒山は調査を進めようと、教室から出ようとした。
しかし……。
「黒山くん、しーちゃん待ってる間にお話ししよ?」
「…………えっ」
真悠に止められてしまった。
無意識にやっているのかはわからないが、去ろうとする黒山の左手の袖を右手で軽く摘んでいる。
男にとって、その行動は卑怯だった。
そもそも、こうして真悠が黒山を止めるのがなかなかに珍しい。
「……いつもは他の友達と話してるじゃないか」
「そうなんだけどね〜。新入生が入ってきてから間もないでしょ? 皆んな、新入部員の勧誘で忙しいんだよね〜……」
「そうか、それは残念だな。だが、俺にはやるべきことがある。栗川の相手をしている余裕は……な……」
振り払って調査に出ようとするものの、真悠の顔を見て、黒山は凍り付いた。
今にも泣きそうな顔をしている。
「しーちゃんに言いつけちゃうよ? 黒山くんとお話ししたかっただけなのに、酷い言葉を言われて悲しかった、って〜」
「……わかった。取り敢えず、自販機で飲み物でも買いに行くか」
「やったー! 黒山くんの奢りだ〜!!」
「はいはい」
真悠と一緒に教室から出て自販機のある昇降口付近へ向かう。
黒山が予想している以上に真悠のファンが多いのか、すれ違う同学年や上級生の男子から送られる視線にかなりの敵意を感じる。
もちろん、だからと言って突っかかってくる相手はいない。
……と思い込んでいた。
これが4月の新入生が入ってきて、気分が高揚する季節で無ければ、その認識は間違っていなかったのかもしれない。
そして、今年の1年生はまだ、黒山がどういう人間かをよくわかっていなかったが故に、それは起こった。
「んおー? センパーイ、めっちゃ可愛い子連れてるじゃーん? ぜひ俺らと遊ばせて下さいよ〜」
「いやむしろ、こんなジミーズなセンパイよりも俺たちの方がいいっしょ? かわい子センパイ、この後ゲーセンかカラオケでもどうっすかー?」
「つか、もう行くっきゃないでしょー!」
「…………」
ガラの悪い新入生3人が、謙虚さのかけらも無くズカズカと歩いてきたと思ったら、黒山と真悠の前で止まって近付いてきた。
いくら「重度の中二病患者」として『絶縁とする為の人斬り鋏』という能力に目覚めている真悠とはいえ、根は普通の女の子。
こういったガラの悪い男を見て恐怖を感じているようだ。
「…………」
しかし黒山は彼らを無視し、右手で真悠の左手を掴んで歩き始めた。
だが、相手も諦めが悪い。
「おい、無視してんじゃねーぞ!」
「なんなら、センパイをやっちまってから無理矢理奪い取ってもいいんだけどなぁ!!」
「大人しくかわい子センパイを置いてったほうが身の為だぜぇ?」
威嚇する後輩を見て、黒山はわざとらしく大きな溜息を吐くと、真悠を庇うような形で後ろへ隠し、右手を彼らの前に出した。
「あ? なんだよ?」
「仕方ないな。さあ『拒絶』し……」
黒山が能力を使おうとした瞬間、後ろから割と久々に聞く声が聞こえた。
「む? その姿は黒山氏ではないかーっ! むむっ!? 何やらガラの悪い連中に絡まれてピンチの様子。我、黒山氏の友として助太刀いたそう!」
走って黒山の横に立った男は、鈴木花梨の一件で、彼女に操られた下僕から詩織を守る役割を担ってくれた上杉信弦だった。
あの時、針岡によって記憶を消された為、そこで黒山の手伝いをした記憶が上杉にはない。
そしてもう1人。
「なんかくだらねーことしてるみたいだな。同学年として恥ずかしいから、そういうことやめてくれませんかねー?」
そう言って、ガラの悪い3人の後ろから来たのは、1年2組の生徒、颯太だ。
3対3。数を見れば平等な戦い。
勇敢なのか、それとも単なる馬鹿なのかはわからないが、それでもガラの悪い3人組が撤退する気配はなかった。
「「「上等だ、オラーッ!!!」」」
3人がそれぞれ雄叫びを上げながら、それぞれに襲い掛かった。
読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。
今回で70部分目です! 果たして何部分まで続くのでしょうか……!?
なんだか今回、初めて普通に男同士の友情(芽生え)を書いた気がします。こういうのもたまには悪くないかな、と。
それではまた来週。次回も読んでくださると嬉しいです!




