求愛と破壊のすれ違い part7
「砕けちまえよ」
「……っ!?」
颯太は相手の右腕を掴んだ手に力を入れた。盛大に『破壊』するイメージ。
すると、相手の痛みによる絶叫と一緒に腕の骨が砕けた。
「うっ……ああああああっ!!」
「あ……ははははは!」
颯太は笑いながら、ふと思った。
「自分は何故、相手が痛がっている姿を見てこんなにも笑いが込み上げてくるのだろう」と。
普通じゃない。サディスティックにも程がある。
しかし、相手が苦しむ姿を見ていれば見ている程、そんな普通の考えがどうでもよくなってきてしまう。
そんな倫理観よりも、やらなくてならないことがまだあるのだから。
「っと、そういや、こいつもやっておかないとだよなぁ」
颯太は相手の頭を掴み、力を込めた。
今度は頭……あるいは脳を破壊される、と思った相手は涙目で首を左右に振る。
「うるせーよ。別に頭を破壊するわけじゃねーっての」
今度は純粋に『破壊』するイメージではなく、湧き上がる欲望を否定し、表に出ないように内で『破壊』するイメージ。
唯香を見て湧き上がった性欲を、カケラも残さずに壊した。
その手応えは確かにあったので、颯太は相手の頭から手を離す。
そして相手は思った。
「自分は何故、こんな目に遭っているのか。何故、あの女の子を追い回していたのか」と。
そんな考えをよそに、颯太は見下しながら「じゃあな」と言って、その場を後にした。
やがて相手は、自分の腕を折った男の顔すら思い出せなくなっていったのだった。
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『無事に帰宅したぜ』
という、メッセージが届いて唯香はほっとした。
帰宅後、2階のベランダから颯太の様子を見ようとしたが、その時は既に姿が無かった。
後になって思えば、警察に通報するという選択肢もあったろうに、恐怖を感じると冷静に行動出来なくなる自分が嫌いになりそうだ。
だが、まるでそれを見透かしたかのようなメッセージが、颯太から届いた。
『今回も、お互い無事で良かったぜ』
『うん! 本当にいつもありがとう!』
メッセージを受け、唯香はすぐに返信をした。
過程はどうあれ、今回もどうにかお互い無事に帰宅できた。
その事実を認識して、唯香はようやく安心するに至った。
そして不安を忘れ去った代わりに空腹を思い出し、腹の虫が鳴る前に下へ降りていき、夕食の席に着いた。
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2人の後輩が無事に帰宅できたことを確認したわけではないが、逆にできていない可能性を黒山は考えていなかった。
自分が倒した相手を針岡……の部下に回収させ、調査を続行しようとした。
しかし。
ぐぅぅぅぅ
「…………」
体が空腹を訴えているので、調査を断念して帰宅することにした。
外にいると、他の家から漂う料理の匂いが空腹を余計に意識させる。
そして残念なことに、駆けつけたのはいいものの、沙苗の家まで遠くなってしまった。
倒した相手を回収してもらったついでに乗せてもらうべきだったな、と後悔しながら、今度こそ帰宅する為に歩き出した。
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翌日のこと。土曜日。
代表者による街の見回りは、2人1組の当番制で行われる。
今日は当番ではないので黒山は行く必要がなく、ゆったりと休日を過ごそうと思った矢先、スマートフォンが光り出して音が鳴った。
かつて電話線を繋ぎ、番号を「押す」のではなく、ダイヤルを「回す」ことで相手に電話をかけることができたという、通称「黒電話」。
黒山のスマートフォンからはその「黒電話」の音が鳴っている。
これは特に意識して変えたわけではなくデフォルト設定のものなのだが、あまり自分の好ましいものを出さない黒山は、わざわざ着信音を変えたりはしなかった。
画面を除くと、通話に応じる為のスライド案内と拒否する為のバツ印。そして、通話を掛けてきている相手の名前が表示されていた。
寝起きの黒山は溜息を1つ漏らしてから、スマートフォンを手に取り、通話に応じた。
『おー、透夜。おはよー』
「……どうかしたのか?」
相手は針岡。一応、目上の人から挨拶されているので本来なら黒山も返すべきなのだが、絶対にと言っていいほど返さない。
この無礼も、針岡にとっては今や慣れたものだった。
『あー、昨晩はご苦労さん。んでな、残念なことにまた例の被害者が出ちまってよぉ。右腕の骨が砕かれるっつー、一生忘れることねーような勢いでの出来事だってーのに、なんでこうなったんだかがわからないってきたもんだ。ほんとどうかしてるぜえ』
「何!? それは本当か?」
『場所は地図のスクリーンショットを送っておくから、調査は任せたぞー。俺は後始末をしておくわー。あぁぁぁぁ、せっかくの休みだってんのに、マジでだりぃぃぃ!』
「わかった。現場に向かう」
黒山が通話を切ると、その直後にチャットアプリを通じて画像が送られてきた。
とりあえず既読だけつけておき、既に黒山より早く家を出ていた沙苗が作り置きしてくれた朝食を食べた後、すぐに着替えて家を出た。
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現場は住宅が並ぶ場所……いわゆる「住宅街」だった。
せめて被害者が倒れていた場所に目印があればいいのだが、ぱっと見回したところ、それらしきものは見つからない。
移動中に針岡から送られてきた今回の情報からするに、近隣住民の目撃情報がないことは警察が確認しているので、少なくともわざわざ目立つ場所で骨を折られたわけではないのだ、と予測する。
ならば、近隣住民から見えない位置を……と探し始めたところで、後ろから声を掛けられた。
「あれ……? えっと、昨日私たちを助けてくれた先輩では……?」
「ん……?」
黒山がゆっくり振り向くと、黒のロングスカートと白いシャツの上にクリーム色のジャケットを着た唯香の姿があった。
「確か……嶺井颯太の幼馴染……だったか?」
「あ、はい! そうです!!」
言い当てられたことが嬉しかったのか、唯香は今にも飛び出しそうな勢いで返事をした。
そんな唯香を見て黒山は、ふと「栗川(真悠)に似ているな……」と思った。
今まで、女子と出掛けた経験がそこまで多くない黒山にとって、唯香のコーディネートがどういった場合に備えているものかがイマイチわからなかった。
判断材料で言えば、休日の見回り当番が来た時の沙希がなかなかに気合を入れているコーディネートなので参考になるはずだが、そういった思考回路がしっかりと出来上がっていない黒山にはわからず、無神経な質問をしてしまった。
「こんな所で何をしている? これから嶺井颯太とデートなのか?」
「えっ!? あっ……ええっ!?」
「…………?」
「で、ででで、デートとかそんなんじゃないです!! というか、私たちはあくまで幼馴染であって、別に付き合っているわけではなくてですね……? あ、あっ、でもふーたがそう思ってくれるといいなぁ、とか思ってしまったりすることも無くはないのですが……って、私ったら何をいってしまっているんだろうっ!? わ、わわ、忘れてくだひゃいっ!!」
ひたすら赤い顔をして早口で喋る唯香の言葉を黒山は聞き取れきれず、困った顔で「ああ、そうなのか……」としか答えることができなかった。
どう行動したらいいのかもわからず固まっていると、唯香はようやく平静を取り戻したのか、それでもまだ少しだけ赤い顔をして黒山を可愛く睨み……。
「梶谷先輩に言いつけます……!」
と、言った。
それを言われたところで、詩織から何をされるのか……というより、何かあるのかすら予想出来ない黒山だったが、これ以上この話を続けることに忌避感を覚えたので話題を変えることにした。
「……それで、ここで一体何をしているんだ?」
「へ? 私の家がこの付近なので、自宅を出た直後ってだけなのですが……?」
「本当なのか!?」
「え、ええ、そうですけど……」
しれっと当たり前のように答えた唯香に対し、黒山は驚いた顔を向けた。
それもそのはず。昨晩起こった出来事の現場付近に手掛かりとなる人物が思いもせず現れたのだから。
「なら少し教えて欲しいことがある。昨晩、ここで何か無かったか?」
「えっ、何か……と言いますと?」
「そうだな……例えばだが、人と人が言い争ってた、とかだな」
「そういうのは無かったと思います……けど」
先程と打って変わって複雑そうな顔をした唯香に、黒山は遠慮なく「どうかしたのか?」と尋ねた。
「えっと……。昨日の夕方、先輩に助けて貰った後、別の人が追いかけて来たんです。あ、そういえば助けてくれてありがとうございました! 先輩、あんな気持ち悪いやつを消しちゃえるだなんて、何者なんですか!?」
「いや、その件は気にしなくていい。というか、あまり人には知られたくないから黙っておいてくれ。……いやそれよりも、別の人はどう対処したんだ?」
「んーっと、私はふーたのお陰で安全に帰宅できましたけど、ふーたが引きつけてくれた後、どうなったのかまでは……」
「成る程、よくわかった。ではこれから……」
「…………? 先輩?」
「本人に聞いてみよう」と言いかけたが、よくよく考えてみると、唯香はこれから颯太と会うことになっている。
唯香の反応から流石の超鈍感・黒山大先生でもそれくらいのことはわかった。
ただ、調査の為とはいえ、そこに邪魔するというのは気が引けた。というのも、それこそ詩織から鉄槌がくだりそうな事だと判断した面もある。
「どうしたんだろう?」と言わんばかりに表情をのぞいてくる唯香に、黒山は右手のひらを向けて制した。
「いや……嶺井颯太に伝えておいてくれ。明後日、学校で話がある……とな」
「はーい、わかりましたーっ!」
「それじゃあ、気をつけて」
表情がころころ変わる唯香に対し黒山は、再び「やはり、栗川と似ている部分があるな」と思いつつ、調査を中断して帰宅する為、その場を去った。
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唯香の姿が見えなくなる程……。時間でいうと15分くらい歩いたところで、黒山は歩みを止めた。
首は動かさず、目だけで確認できる程度の範囲を見回し、人が周囲にいないことを確認してから、目を瞑って独り言くらいの音量で呟いた。
「……何の用だ、白」
「あっれー? バレちゃったー??」
黒山が振り向くと、後ろには白河現輝がわざとらしく、肘を追って両手のひらを上に向けながら近付いてきた。
「お前のその、他者から認識されないよう気配を消すことを『赦(許)される』という使い方は俺には通用しない」
「へえ、なんで?」
「……その実態は、自分の存在感を消しているわけではなく、相手の認識から外れている、というものだからだ。常に『拒絶』を展開している俺との相性は悪い」
「ふーん? 勉強になったよ、黒。君は昔からそうやって、能力の作用の仕方を言葉で説明できるから、本当にすごいよねえ。だからこそ、余計に君を倒したくなるんだけどねえ?」
「……それで何の用だ? 昔話、もしくは殺害予告をしに来たわけではないんだろ?」
「まあねえ。だけど別に、僕は用があって話しかけたわけではないよ?」
「何が言いたい? それとも、今ここで決着をつけるか?」
黒山の殺気は本物だった。そもそも、お互い「本気でぶつからなければ勝てない相手」だということは認識し合っている。
だからこそ、今回は「そういうつもり」ではないのに殺気を向けてくる野蛮な黒山を見て、白河は愉快に感じた。
「野蛮だねえ、黒ぉ? まあでも、やめておこうよ。僕としても、あまり人を巻き込みたくないからねえ。それを無視すれば、僕の存在意義に矛盾が生じてしまうものねえ」
実を言うと、この時点で黒山はようやく白河に「戦闘の意思がない」ことを理解した。
だがそれとは裏腹に、いつまでも話を進めないことが腹立たしかった。
黒山は白河をずっと睨みつけたままだ。
「おお、怖い怖い! わかったよ、話を進めるからそう怖い顔しないでってばー!」
「……早くしろ」
「はーいはい。まずはお互い進学おめでとうだねえ。まあそれでさあ、黒はいつまでこんなことを続けるつもりー?」
「こんなこと……?」
「ほら! 目覚めた重度の中二病患者を取り締まる仕事! 考えてもみなよお? 僕たちが生まれてきたのはあくまで……」
「やめろ」
言葉を遮った黒山に対して、白河は「つまんなーい」と言いたげな顔を向けた。
一方で、黒山の表情は怒りに満ちている。
白河の言葉は、黒山が普段、心の中に封印している……いわゆる不満を爆発させる勢いのものだったからだ。
読んでくださりありがとうございます! 夏風陽向です。
何か、これと言って後書きに書けることが思いつきませんでした! ごめんなさい!
久々に白河を出しました。私的に、彼を出すたびに「実際いたらむかつくだろうなぁ」と思ってます。
月、火曜日と2日続いて最初から最新話まで読んでくださった方がいて物凄く驚きました。
というのも、読むペースに1番驚き、そして私自身、面白い話を書けている自身がないからです。
でも、すごく嬉しかったです! 本当にありがとうございます!
それではまた来週! 次回も読んで下さると嬉しいです!




