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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「悪を裁く審判の歌」
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悪を裁く審判の歌 part6

この店に入ってからどれくらいの時間が経っただろうか。


今もなお「食べたいもの」を片っ端から(むさぼ)り続ける裕里香の姿を見るのも、白河は正直飽きかけていた。



「お嬢〜、あとどれくらい……」



飽きているという感情がわかりすいように、嫌味っぽく「あとどれくらい食べるつもり〜?」と聞こうとした、その時だった。


ステーキの最後のひと切れをフォークで刺して口に運ぶと思いきや、口の前まで持ってきてピタッと止まり、口に運びかけてたそれを鉄板の上へと置いたのだ。



「…………」


「え、お嬢? どうしたんだい?」



目尻の上がっている目が鋭くなり、目の前で不思議そうな顔をしている白河をキッと睨みつけながら、裕里香は疑問を口にした。



現輝(げんき)。今、近くにいるんじゃない?」


「え? だ、誰が?」


「私の同類」


「……本当かい?」




白河は「裕里香と黒山を会わせてはいけない」ということを意識し過ぎていたばかりに、黒山と行動している女の子の1人……詩織が、裕里香と同じ『予測できない能力を発現する存在』だということを裕里香に言われるまで忘れてしまっていた。



「間違いないと思う。さっきまで、ビミョーなカンジだったんだけど」


「微妙な感じ?」


「そ。なんかハッキリしないんだよね。こぉ、波があるってゆーの?」


「波……ねぇ」



白河は、虹園光里をはじめとした『予測できない能力を発現する存在』についての情報は、虹園光輝から予め聞いている。


……というより、それは色の苗字と能力を持つ9人(赤羽根、橙田、黄泉路、緑園坂、水流迫、青木、紫雲寺、白河、黒山)に召集がかかる度に共有されている情報だ。


白河が知っている情報によれば、光里や優璃や裕里香には同類であるお互いのことが感覚でわかるという。しかし「波がある」というのは聞いたことが無い。



「お嬢。なんで波があるかとかって、わかる?」


「んー? そこまでは流石にわっかんね」


「そうか、まあ、そうだよね」



聞いてみたものの、白河にとってはそこまで重要なことではないので、肩を落とすなんてこともなかった。


むしろ、裕里香が食べるのをやめて話し始めたということは「もうこれ以上は食べない」ということなので、ホッとしている気持ちの方が強かった。


ちなみにだが、裕里香は外見上からはあまり想像出来ないような話し方をする。


沢山食べることで得たエネルギーは普段から消費され、消費されなかった分の体脂肪はお腹ではなく、全て胸に付いている。


女性でありながら身長は170センチを超えており、肩より少し下まで伸ばされた黒髪と目尻の上がった目は「いつも強気なお姉さん」を想像させる。


しかし、口を開けば別人。


話し方は砕け過ぎており、普段から授業中に厚化粧をしていそうな女子を想像させる言葉遣いだ。イメージはただの偏見だが。


白河と裕里香は小学校高学年からの付き合いだが、過去に何度注意しても話し方は変わらなかった。



「さーて!」



裕里香は最後の一切れを食べ終わると、透明な丸い円筒の入れ物から伝票を取り出して、会計へと向かった。


……と思いきや!


幸いにも、黒山達が座っている席の近くで店員が接客対応をしていたので、裕里香は遠回りをして会計へと向かわなければならなくなったのだが、途中でレジとは別の方向を向いて立ち止まったのだ。



「えっと、お嬢。会計はあっち……」


「そんなんわかってる。ちょぉっと、先輩として警告してあげなくっちゃねー」



(まずい……!!)



裕里香が警告をしようとしている相手、詩織の席には黒山がいる。


裕里香と黒山を会わせるわけにはいかないのだが、白河の知る限り、裕里香という人間は一度やると決めたら誰が止めようとも聞かない。


仕方なく、黒山に「近付いている」というジェスチャーだけでも送らなければ……と白河は考えたのだが。


黒山はその席に座っていなかった。


ドリンクバーのサーバー付近にもいなかったということは、間違いなく御手洗いへ行ったのだろう。


そんな白河の心中など知らない裕里香は、並んで座っている詩織と真悠を見て「ふーん……」とそこそこ小さめなの声で呟いた。



「……しーちゃん、この人知り合い?」


「え? いや……知らないはず、なんだけど……」



真悠の質問に対する詩織の答えは、いまいちはっきりとしたものではなかった。


裕里香が詩織を同類だと感じられるように、詩織も裕里香を見て同類だと感じている。


しかし、詩織は自分の同類を見た経験が無いので、感じてはいるものの、それが「同類が近くにいることを指している」とはうっすらでしか理解できていなかった。


ちなみに、今の詩織と真悠はまともな判断が出来ずにテンパっているが、そんな詩織と真悠を責められる人などいないだろう。


ただでさえ、見ず知らずの女性に話しかけられたのだから(裕里香は詩織や真悠と同い年だが、詩織と真悠は裕里香を歳上だと思っている)困惑するのは当たり前だし、一般的見て不可解な行動を取っている裕里香を、周囲の客は不審げに見ているのが気になってしまい、更に「詩織の」状況判断能力を鈍らせていた。


では、真悠はというと……。



「…………」(お、大きい……!!)



裕里香の170センチを超える身長にも驚いたが、身長よりも、そうそう生身ではお目にかかれない大きな胸の膨らみに目を奪われていた。


見られていることを裕里香は当然気付いているが、見られ慣れているのか、それとも同じ女同士だから良いと思っているのか、それを咎めることはしなかった。


その代わり。



「うん。やっぱし、まだ不安定だけどさ。でも巻き込まれやすいのは変わんないから、気を付けなよ」



……と、詩織と真悠の2人にはあまり理解出来ない言葉を残して踵を返し、レジで会計をようやく済ませてから、白河と店を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……何があったんだ?」



白河の予想通りに御手洗いに行っていた黒山は、席へ戻ってから2人の顔を見て表情に出さず驚いた。


「ポカーンとした顔をしている」という表現があるが、2人の顔はまさに言葉通りの顔だった。


周囲を横目だけで見回すと、他の客はそれぞれの会話に夢中となっている。


……ように見えるが、意識して知らぬ存ぜぬを通そうとしているのが黒山にはわかった。



「あー……黒山君」


「梶谷、一体どうしたんだ?」


「…………」



一度反応を見せた詩織は、黒山の質問に答えられなかった。


「急に女の人が、私の顔を見てよくわからないことを言って去って行った」と言ったところで、理解してもらえる自信がない。……つまり、何を言ったらいいかよくわからなかったのだ。


2人に聞いたところで答えを得られない、と判断した黒山は、白河が座っていた席に食器を片付けている店員しかいなかったのを見て、大体だが事態を把握した。



「そういうことか……」



その呟きは、周囲の入り混じった会話の音によって消された。


黒山は席に座り、2人の目を真っ直ぐ見て質問を変えた。



「だいたいの状況は恐らく把握出来たと思う。何か聞きたいことはあるか?」


「あ……えっと……」



反応したのは詩織だ。真悠はまだ「大きさによる衝撃」から離れられないようで、黒山の言葉に反応出来なかった。



「不安定……ってどういう意味?」


「……女の方がそう言ったのか?」


「うん。女の人がそう言ったの」


「すまないが、俺にもいまいち意味がわからない。だが、彼女は君と同じ力を持った女だ。君も何か感じたんじゃないのか?」


「あ、うん。確かに」


「君たちは、どうやらお互いに感じ合うことが出来るらしい。だから彼女にも君がわかったのだろう。……とはいえ、不安定の意味はわからないが」


「そう……。ねぇ、私や彼女の力って何なの?」


「……前にも言ったが、それについては俺の独断で答えられない。すまない、何でも答えられられるわけではないんだ」


「…………」


「…………」


「……はっ!」



微妙な問答で2人の間に沈黙が流れると、真悠がようやく我に返った。



「しーちゃん、大変だよ! あれはやばいよ!!」


「何がやばいってのよ……」


「圧倒的破壊力!! 私は生まれて初めて『この世ならざる』の意味がわかった気がする!!」



真悠は単純に胸部の話をしたつもりなのだが、詩織や黒山にとって裕里香のいたるところがある意味『この世ならざる』と思えたので、正確に理解することは出来なかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


本来なら、食後のデザートを食べて席を立つところなのだが、先程起こったことが影響して詩織と真悠はデザートを食べられる気がしなかった。


黒山は現場に居合わせたわけではないので影響は無いが、わざわざ2人を待たせてまでデザートを食べたいとは思わない。よって、ここはそのまま店を後にすることに決めた。


普段、誰にでも無愛想に対応する黒山だが、無愛想だから紳士的ではない、というわけではない。


自ら率先して伝票を取り出し、3人分の会計を何食わぬ顔で済ませたのだ。



「え、いいの? 黒山君?」


「ああ、構わない」


「やったー! ありがとー、黒山くん!!」


「ちょっと真悠! ……でも、高校生1人には結構痛い出費なんじゃないの?」


「その点は気にしなくていい。毎回……というのは流石に無理だが、偶には……いや、こういう日くらいは男である俺が出すべきだろうからな。他ならない、俺がそうしたいと思ったんだ」


「そう……? じゃあ、お言葉に甘えて。ご馳走様でした」



2人が黒山に礼を言うタイミングは違ったが、黒山はそれぞれにちゃんと頷き返していた。


外に出た瞬間、詩織と真悠は伸びをした。 まだまだ寒さの残る1月の空気を胸いっぱいに吸って吐くことで、気持ちを切り替えたのだ。


すると、伸びを終えた真悠が割と大きめなの声で今後の行動についての話を始めた。



「ねぇ、次どうするぅー?」


「……まだ解散するには早いわね。映画でも観に行かない?」


賛成(さんせ)ー!!」


「黒山君は?」


「そうだな、俺もそれでいいと思う」


「じゃあ、決まり! でも真悠、お昼代は黒山君が出してくれたんだから、映画代は私と真悠で割り勘よ」


「うん、わかった!!」



次の目的地が映画館と決まったところで3人は歩き始めた。


ファミレスから映画館までの道のりは、遠いというほど遠くはないが、決して近いわけでもない。


歩いて20分くらい。途中で駅前を通るルートを選んだわけだが……。


詩織は、突如聞こえた音に立ち止まった。



「ん? どうしたの、しーちゃん?」


「いや、駅から何か聞こえると思ったんだけど、今日もやっているのね、路上コンサート」


「ああ! じゃあ、せっかくだし聴いていこーよ!」


「そうね」



行き交う人達で一杯な場所で演奏したりすることを路上ライブと呼ぶが、彼女らの場合は「ライブ」というより「コンサート」だった。


意味が深いように感じる歌詞と、不思議な感覚にさせるメロディ。そして、美しい歌声が生み出す音楽は、誰もが黙って聴き入ってしまう程の魅力があった。


歌っている彼女の姿が見えたところで、詩織と真悠は前回と同様、歌に夢中となっていた。


一方黒山は、思考を巡らせていた。


針岡から聞いた話では「路上ライブ」と言っていたので、てっきりバンドの演奏だと思っていたのが、実際は静かで清らかな歌唱だったことが意外だった。


といっても、針岡が言っていたのがこの「路上コンサート」だと決まったわけではないが、一応疑いの目を向け、歌っている彼女が「重度の中二病患者」かどうかを見てみることにした。


結果、至って普通の人だった。能力を使っている様子も無ければ、重度の中二病患者が無意識に出している不可視の独特なオーラが彼女からは出ていなかった。



(彼女はハズレか……。では他にいったい……?)


(いや、だがそもそも路上ライブの影響だと決まったわけでは……)


(あるいは、彼女は陽動であって実行犯が他に?)



歌を聴いているふりだけをしてこの場所で起きた事件について考え込んでいると、いつのまにか歌が終わっていた。



「ありがとうございました! また次回もぜひ聴いてね!」



歌を歌っていた彼女がそう言うと、周りは感極まったのかしばらく拍手をしていた。もちろん、詩織と真悠も。


やがて拍手が鳴り止まると、歌っていた彼女と伴奏の男は片付けを手早く済ませ、素早く撤収した。


黒山はその様子を見ていたが、詩織はそちらに目をやらず真悠と話し始めた。



「いやぁ、相変わらずいい声で深い歌よねぇ」


「ほんとだよね! 同じ高校生には思えないよー!」



そんな2人の感想に耳を傾けていた黒山は、1つ疑問に思ったことがあった。



「2人は、今の歌を聴いたことがあったのか?」


「うん!そだよー!! あれは、木曜日くらいだったかなぁ?」


「学校帰りに真悠とここへ遊びに来たら、偶然やってたんだ。初めて聴いた時も色々考えさせられたけど、今日も同じような感じだったよ」


「何かおかしなことは無かったか?」


「おかしなことー?」


「何も無かったと思うけど?」


「そうか……。それならいいんだ」



黒山のいまいち狙いのわからない質問に2人は首を傾げたが、本来の目的である映画館へ向かう為、再び歩き出した。


その瞬間……。



「う、うわぁああああああああああああ!!!」


「な、なに!?」



3人が歩いている大通りではなく、建物と建物の間から入っていけるような細道から、何かに驚いたような男の声が出て聞こえたので、3人は驚いた。


いや、おそらく他の人にも聞こえたのだろう。老若男女問わず、気になった人は声が聞こえた方向を向いていた。


それは無視して警察に任せておけば良い案件だったのかもしれない。だが黒山は、自分の仕事上この状況を無視できなかった。



「すまない、2人とも。ここで少し待っていてくれ。栗川、梶谷を頼むぞ」


「え、あ、うん?」


「黒山君!」


「すぐに戻る」



黒山は自身の限界を『拒絶』し、人では不可能なスピードで声のした方へ走って行った。

読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。


毎回、この欄でなにを語ろうか悩んでいますが、今回はあまり思いつきませんでした(苦笑)


以前「絵心が無いから絵を描けない」というお話をさせていただきましたが、少し訂正があります。


私は、そもそも美術が苦手です。


かつて褒められたのは、自画像と「残業の出口」と名付けた職員玄関の絵だけで、他はあまり良くなかったので、美術の成績は「アヒルさん」か「のび太君の裸眼」でした。10段階評価です。


美術に対する美的感覚が乏しいんでしょうね……。やはり、絵を描ける人は本当にすごいなと思います。イラストだけではなく、写真同然の油絵も最近見かけるので感服しています。


それでは、また来週。次回もお楽しみにしていただけると嬉しいです!

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