悪を裁く審判の歌 part5
店内であっても周囲に警戒している黒山の様子を真悠は的確に捉えていた。
そんな黒山の警戒を邪魔したいわけではないが、機嫌を損ねたままである詩織のことを考えた結果、黒山の意識をこちらに向けさせることにした。
真悠は真剣に服を見て選び、詩織の向きを黒山の方向へ向けて、選んだ服を詩織の上半身に重ねることで黒山に質問をした。
「どーかな、黒山くん? しーちゃんによく似合う服だと思わない?」
「え、あ、ああ……」
「…………」
黒山はとっさに話しかけてきた真悠の方を見ると、選んだ服の感想を求められているのだとすぐに悟りはした。
しかし、元より服の感想を思慮深く的確に返せるほど黒山は女性やファッションに関心が無かったのに加え、真悠の横で仏頂面をしてこちらを見ている詩織の顔が見えたので、すぐに視線を逸らし余計に曖昧な反応しか出来なかった。
詩織はなおも仏頂面で黒山を見ている。
そんな状態である2人に真悠は「やーれやれ……」と心の中で呟いて、次なる行動に出た。
「しーちゃん、ちょっと集合。黒山くんはそこで待機!」
「えっ、ちょっと何、真悠!?」
「りょ、了解した」
詩織の腕を引いて別のコーナーへ連れて行き、真悠は珍しく詩織に説教を始めた。
「ねぇ、しーちゃん。今日、しーちゃんと私と黒山くんの3人で遊びに行くと言い出したのは誰だっけ?」
「え、私だけど?」
「だったらなんでずっと仏頂面なの! それにね、私はしーちゃんと幼馴染で同じ女だから楽しめるけど、今の状態は黒山くん……もっと言ってしまえば、どんな男子だって楽しめない状態だよ!?」
「だって黒山が……」
「確かに! 黒山くんは、せっかくしーちゃんが頑張っておめかししたというのにまともな感想を言ってくれなかったよ。
でもさ、それって最初から予想の範疇だったよね? 気の利いたことを言えない黒山くんも黒山くんだけど、それをずっと引きずっているしーちゃんもしーちゃんだよ」
「う、うーん……」
「しーちゃん、よく聞いて」
「ん?」
いつになく……というのは真悠にとって失礼な表現になってしまうかもしれないが、いつもニコニコしている真悠の表情が真剣なものとなっていたので、詩織は一種の危機感を感じた。
「もしも、今日の帰りになってもしーちゃんがその気持ちを引きずるようなら、私は迷わず2人の縁を『切る』からね?」
「えっ、それって……」
「今の私はそれを自ら望んでやろうとは思わないけど、2人のギクシャクした状態を見ているのは耐えられないから」
「う、うん。わかった」
「よっし! それじゃあ、黒山くんの所へ戻ろっ?」
今度は2人同時に歩き出して、黒山の元へ戻った。
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時刻は午後の12時を回った。
3人は昼食を取るために近くのファミレスへ入ることにした。
日曜日のお昼時。当然と言えば当然かもしれないが家族連れの客で賑わっており、並んでいる人もいた。
黒山は入り口付近にあった順番待ちのリストを見て、自分達の前に3グループが順番待ちをしているのを確認すると、2人に相談した。
その結果、3グループなら待つことに決まり、黒山は順番待ちのリストに自分の名前を書いて再び2人が待つ入り口へと戻った。
正直、3人の間で昼食の時間をどうするかという話し合いは移動中にされていた。
あまり混み合いたくないのであれば時間をずらすのが得策だが、誰にでもお昼時混んでいるのは予想できるので「他の人も同じことを考えているのではないか?」という黒山の発言で、普通にお昼時を狙って入ることが決まった。
真悠はこの待ち時間を利用して黒山に、詩織へしたのと同じ警告をする為に動き出した。
「黒山くん、ちょっと集合。しーちゃんは待っててもらっていい?」
「りょ、了解だ」
「うん? わかった」
無理矢理腕を引かれて出て行く黒山の顔は困惑していた。
今更言うまでもないことだが、真悠は可愛い系の美人で、その性格も相まって数多くの異性を虜にしてきた。
そんな女の子が男の腕を引いて出てくる。
そんな光景を見せられた、黒山にとって同性……つまり男は、誰もが黒山へ妬みの視線を送っていた。
その視線だけでも黒山にとっては不快なものであるにもかかわらず、訳もわからず真悠に店外へ連れられ、しかも腕を引かれているのでどうしても引かれている腕が真悠の胸部へと当たってしまう。
困惑の末、どうにか黒山は真悠に言葉を発することが出来た。
「く、栗川……。少し落ち着いてくれないか……」
「これが落ち着いていられますかーっ!」
ようやく解放された黒山は、少しだけだが心に平穏を取り戻した。しかし、それも束の間だった。
「黒山くん。いい加減、しーちゃんのファッションへの感想は考えついた?」
「あ、いや……」
「えー!? なんで!? しーちゃんのファッション見て何も思わないの!?」
「いや、何も思わないわけではないんだが……」
「じゃあ、何!?」
「え、あ、いや……ほら……」
「もー! しっかりしてよね、黒山くん!」
「あ、ああ……」
「黒山くん。1つ言っておくけど、もしも帰りまでこの状態が続くようなら今度こそ『切る』からね?」
「……本気で言っているのか?」
「うん、本気。むしろそっちの方が黒山くんにとっても都合がいいんじゃないの?」
「そ、それは……」
黒山は真悠の言葉を否定出来なかった。
本来の目的で言えば、詩織を守るという役割は後付けであり、最優先事項ではない。彼は瑠璃ヶ丘付近で起こる、重度の中二病患者による事件を阻止・解決を優先していれば問題ないのだ。
仮に詩織が重度の中二病患者に襲われても、近くに真悠がいれば十分守ることができる。それが出来れば、後は黒山や代表者達が犯人を取り押さえられればそれで良い。
「…………」
「ま、帰りまでこの状態が続けば……って話だからさー! ちゃーんと黒山くんがしーちゃんに気の利いた言葉が言えればそれでいいんだよ」
「…………」
「さっ、戻ろうか? あんまりしーちゃん待たせるわけにはいかないしねー!」
「ああ、そうだな」
詩織と同様。戻る時は、ほぼ同時に歩き始めた。
店内へ戻ると、運良くちょうど順番が回ってきたところで席へ案内されたのだった。
その途中、黒山は察知した。この店内には白……つまり、白河がいるのだと。
幸い、席へ移動する時は、白河が座っているだろう席を横切ることはなかった。
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「お嬢、まだ食べるのー?」
「まだよ! まだ足りないわ!」
「へぇ……よく食うもんで」
白河は1人で来ていたのではなく、白河が現在守っている対象である富永裕里香と一緒に来ていた。
2人が住む場所は、この街から決して近くはない。単純に昼食を取るのが目的であるのなら、わざわざここまで来る必要は無い。
では何故この2人がここにいるのか?
それは黒山達のように(?)デートというわけではなく、このファミレスで新作が出たからだ。
白河と裕里香が住む地域にはこのファミレスが無い。「新作」と「デザート」と「肉」と「食べ放題」という言葉に弱い裕里香は白河にわがままを言ってここに来ているのだった。
(はぁ……。あとどれくらいで帰れ……ん? この気配は……。黒か?)
普段なら黒山へちょっかいを出しに行くのが白河のスタイルだが、今回はむしろ黒山と接触するのは状況的に良くないと判断して、黒山達が座った席を横切ることないように帰る方法を考え始めることとなった。
席の位置的に、白河と裕里香の席が奥側だったので黒山達が横切ることは無かったが、白河と裕里香は下手すると帰るときに横切ることになる。
もしも横切ったとして……。その時、裕里香が黒山の存在に気付いてしまったとしたら……。
(うわー……かなり面倒なことになりそうだなぁ)
黒山は白河が知る限り、昔から女の子にモテる。そして、そこには色んな要因がある。
平均よりもレベルの高い顔付き。今では無くしてしまっているが、以前持ち合わせていた誰かを思いやる気持ち・ほどよい熱さ。成績上位へと立ち続けられる頭脳。優れた運動神経。
人間として能力が高いので惚れてしまうのも無理はないだろう。しかし、その結果として最終的に黒山を嫌いになった女の子がいるのも事実。
裕里香もその1人だった。
もっとも、それは黒山と裕里香。2人の問題で仲違いをしたわけではなく、白河自身の計画による結果だったのだが……。
嫌いになった経緯はどうあれ、裕里香が黒山を見つけた瞬間、裕里香の力は暴走し、店に迷惑をかけてしまうこと間違いないだろう。
巻き込まれた人達の記憶を「何事も無かった」と変えることは容易だが、物は対象外。壊れてしまったものは、白河の能力では壊れなかったことに出来ない。修理するしかない。
責任は虹園が取ってくれるにしても、お咎めはあるだろうし、こういったことが2度と起こらないように対策を立てさせられるだろう。
白河にとって、それは避けたいことだ。理由は単純「面倒臭い」から。
と言っても、裕里香の胃袋がまだ満足しそうには無いのでまだ時間はかかるだろうが、あわよくばその間に黒山達が店から出て行くのを心から祈った。
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黒山は白河ともう1人……裕里香がいることに気付いていた。
白河に関して言えば元より感じあうように出来ているのでわかるが、1人では来ていない様子を見ると、もう1人は裕里香しかあり得ない。……というのが黒山の考えだ。
確かに白河は黙っていれば格好いいのかもしれない。ただ、彼があまり人から好まれないのには理由があって、それを白河は自覚していない。
その理由とは、そう。「性格が捻くれている」。
彼の悪い点は、自身の思い通りにする為なら人の気持ちを考えないところ。そしてそれが能力によって正当化されるので余計に性質が悪い。
そんな性格だから人に好まれない。それでも裕里香だけは彼と一緒にいることを選んでいる。
そして裕里香が自分を目の敵にしていることを黒山は自覚しているので、意思疎通が無くとも白河と「遭遇しない」という目標は一致していた。
そんなことを考えていると、先程注文した料理がようやく運ばれてきた。
といっても、黒山はハンバーグとステーキがセットとなっている、がっつり系の料理を頼んだのだが、まだ時間がかかっているようで、先に詩織と真悠が頼んだ料理が出てきた。
詩織はカロリーを気にしているのか、野菜たっぷりのうどんを。真悠は直感的に選んだのだろう、ナポリタンを頼んだようだ。
流石にまだ料理が届いていない黒山を差し置いて勝手に食べ始めるという行動はしなかったが、黒山は「先に食べ始めて構わない」と言ったので、2人は食べ始めた。
「そういえば、ドリンクバーも頼んでいたよな。俺が取ってくる。何がいい?」
「おおー、黒山くーん、気が利きますなぁ! 私はキャラメルマキアートで! しーちゃんは?」
「私は……ココアで」
「了解した」
黒山は席を立ち上がり、ドリンクバーのサーバーへと歩いて行った。
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黒山が立ち上がったのをチラ見で確認した白河は、空になった自分のコーヒーカップを持って、裕里香に一言断りを入れてからサーバーへと向かった。
「予想外の事態だねぇ、黒」
「全くだな」
「……ねぇ、黒。言わなくてもわかるよね?」
「ああ。俺の方でもどうにか裕里香の目に触れないよう気をつけるつもりだ」
「わかってくれてるならいいんだよ。僕の方も気をつけるからさ」
「……お前の場合は自業自得だと思うがな」
「ぐっ……。なかなか痛いとこを突くじゃないかぁ」
「先に汲ませてやるから、早く戻れ」
「はいはい」
白河が「アメリカンコーヒー」のボタンを押して、コーヒーがカップの中に出ている間、特に話がしたいわけではなかったのだが、一応黒山は白河に指示をした。
「もし、お前達の方が早く帰るのであれば、必ず遠回りしろよ? ここへ来るのと同じルートであれば俺達に遭遇することはないだろう」
「あー、そうだね」
「…………」
そのまま白河が去っていくのを確認してから、2人に頼まれていたキャラメルマキアートとココアをコーヒーカップへ汲み、自分はブレンドコーヒーを選択した。
黒山は元からブラックを好んでいたので、砂糖やミルクを持たずにそのまま席へと戻った。
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「すまない、待たせたな」
「もー! 遅いよ、黒山くーん! ……ってのは冗談で。ありがとう!」
「……ありがと」
「ああ」
「黒山くんが飲み物を取りに行ってくれている間に料理が来たよ!」
「……そのようだな」
黒山の座った席のテーブルには、立ち上がった時に無かったハンバーグとステーキが乗ったプレートが置いてあった。もちろん、ハンバーグとステーキだけではなく、人参やブロッコリーやコーン。そして厚切りポテトが2つ付いているはずなのだが……。
鉄板の上には1つしかなかった。
「……栗川」
「なにー?」
「さては、俺のポテトを1つ食べたな?」
「えー? ナーンノコトヤラ?」
「真悠が食べた」
「し、しーちゃーん!!」
まさかの裏切りにあたふたした真悠だったが、犯人がわかったところで黒山は怒ったりはせず苦笑いだけで済ませた。
詩織と真悠は純粋に笑っており、結果としてようやく空気が和んだ瞬間となったのは間違いないだろう。
それでも黒山は軽く周囲の警戒をしつつ、白河と裕里香の出方に注意を怠らなかった。
読んでくださりありがとうございます! 夏風陽向です。
「遅くね?」と思われてしまう話題かもしれませんが、進学・進級・入社だったりで新たな出会いのある季節ですね。周囲の環境が何かと変わる時期とも言えるかもしれません。
私には特筆できる程の入学式にまつわるエピソードが残念ながらありません。強いて言うならば、入社式が会議室でごく少人数で行われたのが謎だったくらいでしょうか。
さて、代わりと言っては何ですが、学生時代の後悔……というか、未練たらしい(?)ようなエピソードを1つ。
私が中学3年生の時の話です。
私は生徒会に入って、放送委員長を仰せつかっていました。
毎週水曜日だったと思いますが、生徒会三役と議長、そして各委員長と副委員長が集まった役員会をしていたある日、私は文芸委員長を務めていた女の子の事が気になりました。
恋心……ではなかったと思います。(というかそう信じたい)
彼女は吹奏楽部の部長も兼任していたので、かなり忙しい身です。
吹奏楽部の練習に出ることはもちろん大事ですが、部長がいなくとも吹奏楽部は練習が出来ないわけではない一方で、文芸委員長としての仕事が出来るのは彼女だけ。彼女はどうしても文芸委員長、役員会の一員としての仕事を優先せざる得ない状況となりました。
そうなると、吹奏楽部の練習に出られない日も続いてしまい、吹奏楽部員から陰口や仲間はずれ(に近い)扱いを受けたそうです。
彼女の心は追い詰められ、やがてなかなか学校にも来なくなってしまいました。
私と彼女は同じ役員会というだけでなく、クラスメイトでしたので彼女と話す機会もあったのですが、私の中での彼女のイメージは「なかなかの毒舌っぷりで言葉は少しきついけど、綺麗な顔立ちなので、真面目な顔も笑顔も絵になっているし、話を聞いてくれた上で物事を言うのでリーダーシップがある」といったところです。
今考えれば余計なお世話ですが、私はそんな彼女が心配になったので、自ら連絡物を届けに行ったり、電話をしたりしました。(毎日ではない)
そんなある日の事。私は1つの決意をして彼女にこんなことを聞いてみました。
「良かったら一緒に学校へ行かない? もちろん、友達として」
その時の彼女の反応は微妙でしたね。いくら「友達として」と言っても、男女が2人で登校するというのは、何も知らない人からすれば「付き合っている」と見えるわけですから。今でも、我ながらその無神経さには顔から火が出る勢いです。
その後、彼女は普通に学校へ来てくれるようになりましたし、吹奏楽部でもどうにか上手く出来たようで、高校もちゃんと進学校へ進みました。
彼女はずっと強い人でした。きっとその時は疲れたから少し休んでいただけで、私のやっていたことはそれこそ「余計なお世話」であり、私が何もしなくても彼女は学校へ来ていたと今でも思います。
彼女が今、何を目指してどんなことを勉強しているのかを私は知りませんし、彼女も私が働きながら小説を書いていることを知らない。
それでも私は、今日も明日もこの先も、彼女が幸せであることを願い続けています。
ちょっと長文になってしまいましたが、お付き合い頂けたこと、心から感謝致します。
それではまた来週をお楽しみにしていただけると嬉しいです。




